会場の調理部屋では、既に1人の女性と2人の少女が準備に取りかかっていた。
「ありがとう理那。せっかく来てくれたのに準備手伝ってくれて」
「いーのいーの。準備からやった方が楽しめるしさ」
「私からもありがとう。言葉ちゃんあんまり学校のこと話してくれないから、少し心配だったの。
そしたらこんなにいいお友達がいたなんて」
「いいんですよ。私が好きでやってるだけですし」
そう言いながらも言葉より慣れた手つきで準備を進めていく理那。
叔母自身も言葉が生真面目なのは把握しているため、
こういったノリの良い友人がいることは知らなかったようで。
初見こそ不安になったものの、言葉が家族と変わらぬ態度で接することから既に心を許していた。
「ところで叔母さん、今日作る料理ってなんです?
なんだかやたら材料の種類多いみたいですけど」
準備の片手間、用意された食材の数々に理那は疑問を覚える。
肉、野菜、果物に限らず小麦粉や調味料なども取り揃えてあり、
それはまるでホテルの厨房のようであった。
「ああ、それはね──」
「こ、こんにちわ」「おじゃましまーす!」
叔母が口を開いたとき調理室の扉が開かれる。そこから入ってきた4人の男女。
それを見るや否や会話を中断し向き直る。
「あら、いらっしゃい。今日の参加者さんでよかったかしら?」
「あ……はい、ここで間違いないですか?」
「ええ。文ちゃんから話は聞いているわ。もうすぐ準備できるからもう少し待っててね」
会場がわかっていても、始めて来る場であれば不安感をあおる。
しかし会場の中にいた知り合いを見つけ3人は安堵を、1人はげんなりとした表情を浮かべる。
「あれー彰人君じゃん。確か興味ないって言ってたよね? どしたの急に」
「いえ、別に大したことはないですよ。ちょっとした気分転換っていうか」
「何そのしゃべり方……ってははーん?」
眉間にシワがよっているのを確認しつつも口調だけは崩さない。
理那は入り口から入ってきた見慣れぬ少女達へと視線を移し、事情を察する。
一方視線を向けられた一歌も、見慣れぬ少女に目をつけられたのかと少し固くなった。
無理もない、一見してギャルそのものの見た目である彼女。
開口一番に彰人へ向けた言葉も一言で表すなら、チャラいというのが的確であった。
しかも一緒にいるのがあの言葉である。意外な組み合わせに困惑を隠せない。
「そっちの2人は文ちゃんの友達? 私は斑鳩理那。よろしくね~」
「私は天馬咲希です! よろしくお願いしまーす!」
「お、ということは司センパイの妹さんか。お兄さんには日々楽しませてもらってます」
開幕早々歩みより手を差し出す理那。
咲希は躊躇なく握手を交わし会話に花を咲かせるも、
一歌は助けを求めるように視界の奥にいる言葉を見つめた。
「ご心配なさらず。理那は高校生活きっての友達です。
少し戸惑うこともありますが、悪い人ではありませんよ」
「ちょっと言葉ー、それってディスってない?」
「そう聞こえたらごめんね。でも好奇心で動きすぎるのは問題かなって」
一歌には見せない柔らかな口調と表情で答える彼女を見て、先の言葉が嘘ではないと実感する。
改めて差し出される手のひら。
「それで、あなたの名前は? よかったら教えてほしいな」
「あっ……星乃一歌です! よろしくお願いします!」
「うん、よろしくね」
自己紹介を終えたところで2人1組の配置につく。
言葉と理那も準備を手伝っていたものの今回は教わる側だ。
「はい、それでは皆さんはじめまして。講師を担当させていただきます、烏丸茜です。
言葉ちゃんと文ちゃんの叔母として、改めてお礼させてください。
今日は集まってくれて本当にありがとう」
教える側の人間だというのに深々と頭を下げる叔母──茜に戸惑う参加者各位。
「さて、今テーブルにレシピがあると思うのだけれど、それを見てもらえないかしら」
参加者各位のテーブルにおかれたA4サイズの紙に、手書き印刷で作られたレシピがある。
そのタイトルは──
「チーズケーキ……!」
「わあ、ケーキ作りだよいっちゃん!」
「そうだね。お菓子作りなんて久しぶり……」
彰人が感嘆の声を漏らしそうになる。まさか採用されるとは思っても見なかったのだろう。
他のメンバーもケーキという豪勢な料理に、テンションが上がっているようだった。
「はい、ということで今回はチーズケーキね。
みんなの希望に添えたかったけど、折角だしみんなで食べるのならこういうのがいいと思って。
なにか質問がある人はいるかしら?」
「はいはーい! 出来たら持ち帰ってもいいですか?」
「ええ。1人1ホールの予定だからむしろ持って帰らないと太っちゃうわよ?」
勢いよく手をあげる咲希が当てられるよりも先に質問を飛ばす。
それに対しいたずらな笑みを浮かべつつ、端に揃えられた紙箱を示す茜。
「いやー、言葉の叔母さん太っ腹だね。私もお土産にしたいって思ってたんだー」
「お父さんにあげるの?」
「ううん、父さんは甘いの苦手だし、ちょっーとした知り合いにね」
理那が思い浮かべるのはもちろんルカのこと。
たまにはこういうのも悪くないだろう、と思考を巡らせている。
一方の言葉は文へのお土産にしようと思い、少しだけ気合いを入れた。
「すみません。チーズケーキっていっても色々ありますけど、どれを作るんですか?」
それぞれが調理に取りかかるか、というところで彰人が質問を飛ばす。
好物であるが故にこだわりも強かった。
「そうね。今回は焼いてすぐに食べられるスフレ風で考えていたのだけれど……
もしかして、レアチーズやベイクドの方がよかったかしら?」
「あ、いえ、それでいいです。むしろそっちでお願いします」
「よかったね、東雲くん」
「まあ、な」
「はい、それでは早速作っていきましょう。まずは──」
こうして、6人によるチーズケーキ作りが幕を開けた。