料理は力作業、という。
チーズケーキといっても小麦粉とバターやチーズを混ぜて種を作るのだが、
今回はスフレのようにふんわりしたもの。
そのためには生地に空気を馴染ませる為の種もまた必要であり。
「うおりゃあああああ!」
泡立て器を片手にかき混ぜる理那。混ぜているのは卵白であった。
「理那、電動の泡立て器あるよ?」
「こういうの一回やってみたかったんだよね。大丈夫、スタミナには自信あるから!」
「……なにやってんだあのバカ」
「あはは……理那ちゃんらしいね」
それを端から眺める彰人とこはねは、電動の泡立て器でメレンゲ作りに挑戦していた。
手作業よりも安定をとったらしい。
無論それは一歌と咲希も同じであったが、理那を知らない2人からすれば驚きの光景だった。
「斑鳩さん、すごくパワフルだよね」
「うん。明るくて元気で、なんていうんだろう……えむちゃんみたいな?」
「あ、それはちょっとわかるかな」
その様子から体育祭やフェニックスワンダーランド、
日常生活で目にする活発な少女の姿を連想するには十分なようで、
見ていると自然と笑みが溢れていた。
そんなこんなで、調理はまだまだ続いていく。
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「それじゃあさっきのメレンゲを生地に馴染ませていくんだけど、3回くらいに分けて混ぜてね」
「はーい」
指示に従いながらそれぞれが行程を完了させていく。
さすがに教わっているだけあり、アレンジを加えようとする者は誰もいなかった。
「後は型に流し込むんだけど……言葉ちゃん、レーズンは入れる?」
「あ……ううん。今回はプレーンで」
「えっ、レーズン、ですか?」
あとはそれを型に流し込み焼き上げるだけか、と言ったところで茜が言葉に声をかける。
それに疑問を持ったのはこはねであった。
「言葉ちゃんのいた地方に有名なお菓子屋さんがあってね。
いわゆる思い出の味、っていうものなの。こっちじゃ馴染みは薄いかもしれないわね」
「へー。そういうのって言葉にもあるんだね。実際どうなの?」
「時たま、だけどね。まあ、一番の思い出はそれじゃないんだけど……」
そんな話で盛り上がるなか、作業の手が止まるこはね。
どうやらなにか考えているようだった。
「あの、烏丸さん。ラムレーズンってありますか?」
「? ええ、前に作ったものがあるけれど、どうしたの?」
「えっと……杏ちゃ……友達がラムレーズン好きで、その、それで」
「ふふ、わかったわ。持ってくるから少し待っててね」
そう言って瓶詰めされたラムレーズンを持ってくる茜。
それを受け取りどのようにすればいいか指南を受けるのであった。
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焼き上げを待つ間は暇である。そんな中でも講師である茜は世話しなく動いていた。
チーズケーキとはまるで関係のない食材の調理にいそしんでいる。
「叔母さん、なにか手伝えることあるかな」
「あら言葉ちゃん。そうね、切った野菜を炒めておいてくれる?」
「うん、わかった」
すっかり休憩モードに入っている参加者であったが、
身内が動いているのを見て休んでもいられなかったのだろう。
そのまま別の調理を任されて手を動かしていた。
「なにしてるんだろう……チーズケーキの添え物、じゃないよね」
「しかも炒めてるから添え物というより主食だな」
「でもメニューはチーズケーキだけだよね? うーん」
こはね・彰人・理那が各々の疑問を口にしているも、答えは見えない。
準備していた大量の食材の行く末を見つめながら、言葉を交わしていた。
「ところで彰人君、別にあの子達の前でも素でいいんじゃない?
いちいち使い分けるの疲れるでしょ」
「余計なトラブルを起こしたくないだけだ。諦めろ」
「でも、一歌ちゃんも咲希ちゃんも気にしないと思うけど」
話題に上がるのは彰人の猫かぶりについて。
調理中も今もテーブルは離れており、
会話が聞こえるほどでも無い為素の状態である。
こはねとしても彰人は大切な仲間であり、どこか無理をさせている気がして申し訳なかった。
「そんなに気にする事かなー? あ、そうだ」
「おい、なにする気だ」
「2人ともー! よかったらこっちで皆で話そうよー!」
「ちょ、お前っ……!」
いまだこちらに馴染もうとしない一歌と咲希に声をかける。
特別無理をしているわけでもなく、
ただ仲のいいもの同士の空気を壊さない配慮であったが、
こはねと言葉の仲間がどういう人なのか気になっていたのも事実。
彰人の制止もむなしく理那の声につられてこちらにやって来た。
「あの、すみません。仲良くお話し中に」
「……いえ、気にしてないですよ。斑鳩……さんも大体こんな感じなんで」
「ほらー、また優男モードになってる。もっと肩の力抜いていこうよ。
杏の前じゃ結構強気に「すみません、ちょっと失礼しますね」ちょちょっ!?」
そう言って理那の腕を掴み彰人は部屋を後にする。
その光景からして若干素の雰囲気が出ていたが、今さら気にすることもない。
しかし話題にしたい人物2人がいなくなってしまっては意味がなかった。
「えっと、こはねは斑鳩さんとどこで知り合ったの?」
「行きつけのライブバーがあるから、そこで友達に紹介して貰ったの。
前から友達だったみたいだけど、こっちに来る機会がなかったみたいで。
私も知り合ったのは最近なんだ」
「じゃあ、あの人もなにか音楽してるんだ。何してるか知ってる?」
「DJだよ。曲のアレンジがすっごく上手で盛り上げるのも上手いんだ」
「そうなんだ……でも、言われてみたらわかるかも」
理那がステージに立ちディスクを回す姿は安易に予想できる。
そういった派手な舞台では確かに彼女の容姿に似合っていた。
「鶴音さんにも色々聞きたいけど、今は料理中だもんね」
「うん。でもなに作ってるんだろ?」
理那の友人である言葉は今も茜の手伝いをしている。
野菜炒め……という訳ではなさそうだが、一方の茜の方も何やら生地を丸めていた。
その光景に取り残された3人は終始、何ができるのか予想もつかないのであった。