荒野の少女と1つのセカイ   作:kasyopa

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鶴音さんちのクッキングパーティー その7

 

料理は力作業、という。

チーズケーキといっても小麦粉とバターやチーズを混ぜて種を作るのだが、

今回はスフレのようにふんわりしたもの。

そのためには生地に空気を馴染ませる為の種もまた必要であり。

 

「うおりゃあああああ!」

 

泡立て器を片手にかき混ぜる理那。混ぜているのは卵白であった。

 

「理那、電動の泡立て器あるよ?」

「こういうの一回やってみたかったんだよね。大丈夫、スタミナには自信あるから!」

「……なにやってんだあのバカ」

「あはは……理那ちゃんらしいね」

 

それを端から眺める彰人とこはねは、電動の泡立て器でメレンゲ作りに挑戦していた。

手作業よりも安定をとったらしい。

無論それは一歌と咲希も同じであったが、理那を知らない2人からすれば驚きの光景だった。

 

「斑鳩さん、すごくパワフルだよね」

「うん。明るくて元気で、なんていうんだろう……えむちゃんみたいな?」

「あ、それはちょっとわかるかな」

 

その様子から体育祭やフェニックスワンダーランド、

日常生活で目にする活発な少女の姿を連想するには十分なようで、

見ていると自然と笑みが溢れていた。

 

そんなこんなで、調理はまだまだ続いていく。

 

 

 

「それじゃあさっきのメレンゲを生地に馴染ませていくんだけど、3回くらいに分けて混ぜてね」

「はーい」

 

指示に従いながらそれぞれが行程を完了させていく。

さすがに教わっているだけあり、アレンジを加えようとする者は誰もいなかった。

 

「後は型に流し込むんだけど……言葉ちゃん、レーズンは入れる?」

「あ……ううん。今回はプレーンで」

「えっ、レーズン、ですか?」

 

あとはそれを型に流し込み焼き上げるだけか、と言ったところで茜が言葉に声をかける。

それに疑問を持ったのはこはねであった。

 

「言葉ちゃんのいた地方に有名なお菓子屋さんがあってね。

 いわゆる思い出の味、っていうものなの。こっちじゃ馴染みは薄いかもしれないわね」

「へー。そういうのって言葉にもあるんだね。実際どうなの?」

「時たま、だけどね。まあ、一番の思い出はそれじゃないんだけど……」

 

そんな話で盛り上がるなか、作業の手が止まるこはね。

どうやらなにか考えているようだった。

 

「あの、烏丸さん。ラムレーズンってありますか?」

「? ええ、前に作ったものがあるけれど、どうしたの?」

「えっと……杏ちゃ……友達がラムレーズン好きで、その、それで」

「ふふ、わかったわ。持ってくるから少し待っててね」

 

そう言って瓶詰めされたラムレーズンを持ってくる茜。

それを受け取りどのようにすればいいか指南を受けるのであった。

 

 

 

焼き上げを待つ間は暇である。そんな中でも講師である茜は世話しなく動いていた。

チーズケーキとはまるで関係のない食材の調理にいそしんでいる。

 

「叔母さん、なにか手伝えることあるかな」

「あら言葉ちゃん。そうね、切った野菜を炒めておいてくれる?」

「うん、わかった」

 

すっかり休憩モードに入っている参加者であったが、

身内が動いているのを見て休んでもいられなかったのだろう。

そのまま別の調理を任されて手を動かしていた。

 

「なにしてるんだろう……チーズケーキの添え物、じゃないよね」

「しかも炒めてるから添え物というより主食だな」

「でもメニューはチーズケーキだけだよね? うーん」

 

こはね・彰人・理那が各々の疑問を口にしているも、答えは見えない。

準備していた大量の食材の行く末を見つめながら、言葉を交わしていた。

 

「ところで彰人君、別にあの子達の前でも素でいいんじゃない?

 いちいち使い分けるの疲れるでしょ」

「余計なトラブルを起こしたくないだけだ。諦めろ」

「でも、一歌ちゃんも咲希ちゃんも気にしないと思うけど」

 

話題に上がるのは彰人の猫かぶりについて。

調理中も今もテーブルは離れており、

会話が聞こえるほどでも無い為素の状態である。

こはねとしても彰人は大切な仲間であり、どこか無理をさせている気がして申し訳なかった。

 

「そんなに気にする事かなー? あ、そうだ」

「おい、なにする気だ」

「2人ともー! よかったらこっちで皆で話そうよー!」

「ちょ、お前っ……!」

 

いまだこちらに馴染もうとしない一歌と咲希に声をかける。

特別無理をしているわけでもなく、

ただ仲のいいもの同士の空気を壊さない配慮であったが、

こはねと言葉の仲間がどういう人なのか気になっていたのも事実。

 

彰人の制止もむなしく理那の声につられてこちらにやって来た。

 

「あの、すみません。仲良くお話し中に」

「……いえ、気にしてないですよ。斑鳩……さんも大体こんな感じなんで」

「ほらー、また優男モードになってる。もっと肩の力抜いていこうよ。

 杏の前じゃ結構強気に「すみません、ちょっと失礼しますね」ちょちょっ!?」

 

そう言って理那の腕を掴み彰人は部屋を後にする。

その光景からして若干素の雰囲気が出ていたが、今さら気にすることもない。

しかし話題にしたい人物2人がいなくなってしまっては意味がなかった。

 

「えっと、こはねは斑鳩さんとどこで知り合ったの?」

「行きつけのライブバーがあるから、そこで友達に紹介して貰ったの。

 前から友達だったみたいだけど、こっちに来る機会がなかったみたいで。

 私も知り合ったのは最近なんだ」

「じゃあ、あの人もなにか音楽してるんだ。何してるか知ってる?」

「DJだよ。曲のアレンジがすっごく上手で盛り上げるのも上手いんだ」

「そうなんだ……でも、言われてみたらわかるかも」

 

理那がステージに立ちディスクを回す姿は安易に予想できる。

そういった派手な舞台では確かに彼女の容姿に似合っていた。

 

「鶴音さんにも色々聞きたいけど、今は料理中だもんね」

「うん。でもなに作ってるんだろ?」

 

理那の友人である言葉は今も茜の手伝いをしている。

野菜炒め……という訳ではなさそうだが、一方の茜の方も何やら生地を丸めていた。

その光景に取り残された3人は終始、何ができるのか予想もつかないのであった。

 

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