荒野の少女と1つのセカイ   作:kasyopa

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スクランブル・サポーター その2

 

「どうしたの杏、そんなに自信満々で」

 

第4ピリオド開始前、やたらとにやつく杏に対し最初に話しかけたのは遥であった。

神高のチームメンバーも先ほどとは違い気合い十分といったところ。

 

「別にー? このまま負けるのも嫌だし、こっちも最終兵器を使わせてもらおうかなーって」

「へえ、じゃあ見せてもらおうかな。その最終兵器ってなんなのか」

「おっけー、理那! 入ってきていいよ」

 

体育倉庫の扉を開け放ち、堂々の入場を果たしたのは理那だった。

先ほどまで実況していた少女だが、こうして他の選手と比較すればその大きな体格が目につく。

特に低いえむと比べて見ればその差は一目瞭然であった。

 

「もしかして理那さんもバスケするんですか!?」

「ま、助っ人程度だけどね。お手柔らかにどうぞ」

 

興奮気味に食いつくえむに対して、ずいぶんと過小評価しつつ答える理那。

 

「理那、ジャンプボールどうする?」

「私はやめとくよ。さすがに助っ人がそこまでやっちゃアレだし」

 

試合開始のジャンプボール……なのだが理那は参加しない。

体格からして真っ先に選ばれるかと思いきや自ら辞退した。

 

皆がポジションにつけば、試合開始のホイッスルが鳴り響く。

宮女側は勢いに乗っていて攻撃の手を緩めない。遥とえむの黄金タッグは健在だ。

 

早速こぼれたボールをえむが拾い、素早いドリブルでコートをかけ上がる。

包囲が完了する前にその間をすり抜け、攻め上がるチームメンバーにパスを回す。

そしてゴール下で待機する遥へ送られ、素早くシュート。

確実に入る軌道を描いてリングに吸い込まれる──その瞬間。

 

「どりゃああああ!!」

 

リング前に現れた理那によって阻まれる。自由を失ったボールはその手元にあった。

 

目の前で起こった出来事に目を丸くしながらも、次の行動へ移す。

着地の影響か両足をガッチリついている為ドリブルに移るには時間がかかる。

叩き落とせば再びシュートのチャンスもあった。

他の選手も同じことを思ったのか、理那からボールを奪い返そうと突撃している。

 

「理那、こっち!」

 

神高の選手がパスを回すように指示しているが、

完全に攻めっけの宮女の選手達はほとんどゴール下に集結しており、

近くの神高選手は全員マークされていた。

 

「それなら……そおい!!」

 

そんな理那が取った行動は、オーバーハンドスロー。

バスケットのボールをハンドボールのように豪快に投げ飛ばす。

でたらめなクリア、と思いきやバックボード目指して一直線。

 

「まさか!」

 

遥が声を上げるのと同時にボールがバックボードに突き刺さる。

大きな音を立てるもその勢いでリングに──というミラクルプレイが起きるわけもなく、

勢いを失ったボールはゴール下へと落下していく。

とりあえずの不安はなくなったと、胸を撫で下ろす宮女の面々。

 

「杏! 後はよろしくねー」

「オッケー、任せといて!」

 

しかし、ゴール下には既に杏が待ち構えていた。

宮女の選手達は攻め上がっていた為に完全にフリー。

遮るものは誰もおらず悠々とシュートを決めていた。

 

一瞬にして巻き起こった衝撃の数々に館内は騒然とする。

そんな中で唯一歓声を上げる人物がいた。

 

「こはねー! ちゃんと見てくれたー?」

「うん! すごいよ杏ちゃん! 理那ちゃんも!」

「いやー、それほどでもあるかなー」

 

仲睦まじく言葉を交わす3人に、やがて我を取り戻していく面々。

宮女側のキャプテンが遥に駆け寄り詫びを入れる。

 

「ごめん桐谷さん、ちょっとあげすぎてた」

「ううん、こっちの方こそごめん。それより……」

 

軽く謝りつつ、理那の方へと目をやれば変わらぬ態度の姿がそこにあった。

 

「理那さんすごいすごーい! さっきのどうやったの?」

「どうって、他にも色々部活やってるからさ、その応用かなー。

 うまくいくとは思ってもみなかったけど」

 

先ほどの奇抜なプレーにえむが食いつき本人が説明している。

 

「さっきのはすごかったけど、きっとまぐれだよ。あんなプレー狙ってできるものじゃないし」

「そうそう、今度はちゃんと守備も固めるから大丈夫」

「うん……そうだよね。そうだと、いいな」

 

今だ先ほどの出来事が信じられないチームメンバーだが、

理那という少女は遥からすれば杏のお墨付。

常に高みを見つめる彼女だからこそ、御眼鏡にかなうのは相当であると認識している。

 

だからこそ、心によぎる不安を拭い去れない遥であった。

 

 

 

それからというもの。

 

「鳳さん、お願い!」

「うん!」

 

数々の選手を抜き去り、えむへと鋭いパスが繰り出される。

しかしその間に差し込まれた長い腕がそれを遮った。

 

「悪いね」

 

そう言い残して駆け抜ける理那が強引に攻め上がり、そのままレイアップを決める。

女子とは思えぬパワープレーに圧倒されながら得点を許す宮女。

 

理那が助っ人に入ってからは、完全に神高が場の流れをつかんでいた。

追加点をあげられることなく、杏やその他の選手が攻勢に転じカウンターを決められる。

守りに入って時間を稼ごうとしても、理那によってカットされ先ほどのように点をあげられる。

 

残り時間がわずかとなった頃には、点差は詰められ油断すれば逆転もあり得る状態であった。

 

「よーっし、もうすぐ逆転できるよー! この勢いのまま勝っちゃおう!」

「「「おおー!!」」」

 

遥は冷静に分析していた。彼女の腕前だけではない。

ハーフタイムショーや実況で見せつけたソレを、

そのままコートに持ち込み自陣のボルテージを高めている。

今や杏だけではない、他の選手も驚異となっていた。

 

「(あの子をどうにか出来れば総崩れも狙える……けど、それは無理)」

 

時間やクォーターが残っていれば、気持ちを切り替えられたかもしれない。

もっと点差が開いていれば、彼女の陽気さもから回っていたかもしれない。

思えば最初に見せた奇抜なプレーも、一筋の光明を見せる為の布石に思えてくる。

 

どうにかしないと、と思考を巡らせる遥であるがいい案が浮かんでこない。

そうしている間にも時間は過ぎていく。そんな時。

 

「遥ちゃん、頑張れー!」

「皆元気出して~! まだまだ試合はこれからだよー!」

 

観客席とコートから声が上がる。それはみのりとえむであった。

 

「……まだ応援してくれる人がいる。それに、試合も終わってないもんね」

 

そんな声援を力に変えるのはアイドルの専売特許。

そんな本来の調子を取り戻した遥の元に、妙案が降りてくる。

 

「そうだ、鳳さん」

「? どうしたの遥ちゃん?」

「実は思い付いたことがあって……」

「ふむふむ、なるほどー! それ、すっごく面白そうだね!」

 

本来なら到底思い付かないアイディアを吹き込めば、

えむも目を輝かせてのってくれる。反逆の布石は今打たれた。

 

 

 

試合も終盤、それからも神高の猛攻が続き点差は1点にまで差し迫っていた。

神高の選手達が攻め上がり、ボールを持つのは杏。

かといってディフェンスには理那がしっかり配置されている為、

クリアしても防がれるのは目に見えていた。

 

「さっきと逆のパターンだね、遥」

「そうだね。でも、勝ちは譲らない!」

「それはこっちも同じ!」

 

杏が目配せをした後1人がマークを外れて駆け出す。

このままパスの体勢に移ったかと思いきや、高く構えた。

一糸乱れぬ連携とフェイク。それによって宮女の選手は呼吸を乱す。

しかし、遥だけは惑わされなかった。

 

「っ!」

 

添えられただけの手からボールを奪いさるのは簡単な事。

そのままドリブルに移行し一瞬で攻め上がる。

誰が反応するよりも早くシュートの体勢に入るも、理那が立ちはだかった。

 

「そうはいかないよ、杏のライバルさん」

 

杏の使ったフェイクも読んでいるのか、上と左のラインは完全に押さえられている。

となると右だがむしろそれが本命。上がる手を振り下ろしカットされてしまうだろう。

 

「さーって、どうする?」

「そうだね。じゃあ、これならどう?」

 

大きな体格、左右に素早く行動するために開かれた足。

遥はその股下へ素早くボールを送る。

 

「鳳さん!」

「うん!」

 

その先にいたのはえむ。2人の使う常套手段だがこれで完全に抜けた。

後はえむがシュートするだけ、といったところで大きく踏み込み飛び上がる理那の姿があった。

 

それはさながらバレーボールのブロック。

後先考えない行動であったが、これによりえむはゴールを狙えなくなってしまう。

それでも、えむの顔は笑っていた。

 

「それじゃあいっくよー、せーのっ!!」

 

彼女が見せたのはシュートの体勢とはほど遠い物。

手に添えられたボールを前方倒立回転によって高く蹴り上げる。

それは紛れもなく新体操の動き。

 

高く宙を舞うボールはリングに対してほぼ直角に落下しネットを揺らす。

得点と同時に大きな歓声が上がった。時間も残り10秒を切っている。

どことなく宮女に安堵の空気が流れ始めた、その時。

 

「カウンター!!」

 

仕切り直しといわんばかりに声を張り上げ理那が動く。

他の選手から手渡されたボールを手にし、その場で高くあげた。

照準を定めるように延びた左腕と、構えられた右腕。

誰もが動くよりも早く、落下したボールを打ち上げる。

 

大きく山なりの軌道を描き、リングの内側にぶつかって失速。

タイムアウトの笛が鳴り響くと同時に、ボールはその中へと吸い込まれた。

 

「フローターサーブの、3ポイントシュート……」

 

呆然と呟く遥の声は、今までで最高の歓声によって掻き消されるのであった。

 

 

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