荒野の少女と1つのセカイ   作:kasyopa

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スクランブル・サポーター その3

 

こうして引き分けという形で試合を終えた宮女と神高の選手達。

お互いの助っ人同士、クールダウンしつつ会話していた。

 

「えっ、桐谷ってあのASRUNの桐谷遥なの!? どっかで見たことあるなーって思ってたけど……」

「もしかして理那、今まで気付かなかった?」

「いや、気付くもなにもバスケの助っ人としか見てなかったし……

 味方ならまだしもお相手ならそれどころじゃないでしょ」

 

神高では随一とも言える運動神経の持ち主とタメをはれる存在。

理那としてはそんな印象が強すぎた為、

アイドルというよりスポーツマンとして彼女を見ていた。

 

「帰ったら言葉に自慢しちゃおーっと。アイドルの裏の顔、みたいに」

「あはは、それもいいかもね。鶴音さん、もしかしたらビックリするかも」

「言葉……鶴音……もしかして、文のお姉さんの?」

 

そこで聞き覚えのある単語に反応する遥。

 

「あ、うんそうそう。っていうか遥、文ちゃんのこと知ってるの?」

「知ってるっていうか、結構お世話になったっていうか……」

「へー、文ちゃんは桐谷さんのこと、アイドルだって知ってる?」

「うん。知ってるけど……今は別のユニットとして活動してるから、

 そっちの方で応援してくれてることが多いかな」

「あ、そっか一回引退したんだっけ。ネットでも結構話題になってたなー」

 

随分前のことに聞こえるが、わりと日本中を震撼させた出来事とも言える。

ソロデビューしてもお釣りがくるであろう彼女の引退は、

それほどアイドル界隈を知らない理那ですら耳に挟む規模。

それすら知らない言葉の方がある意味特殊な例であった。

 

「えむちゃんは桐谷さんとはどういう繋がり? 結構仲良さそうだけど」

「遥ちゃんとはね、この前の体育祭で一緒に実行委員やったんだ!

 それで最後の学年対抗リレーが凄かったんだよ~!」

 

えむの方へと話題を振れば、思出話に花を咲かせる。

そこで語られたのは、遥が主体となって体育祭の成功に大きく貢献したということだった。

そんな話を、今回の試合状況からあながち嘘ではないと分析する理那。

 

「杏のライバル兼幼馴染みで、えむちゃんの友達で、文ちゃんの知り合いがあの桐谷遥。

 いやあ世界って案外広いようで狭いんだねー。あ、私斑鳩理那っていうの。よろしくね」

「えっと、うん。よろしく……?」

 

関心されつつもさらりと自己紹介され、戸惑いながらもその名前を覚える遥。

その独特な名字は、例え遥でなくても忘れられないだろう。

 

「でも、アイドル……アイドルかー」

「ん? どうしたのさ理那」

「聞いた話なんだけど、うちの父さんが診た患者でアイドルやってる子がいてさ。

 なんでもステージに立てなくなったらしいんだけど、心の問題だから父さんも打つ手なしでさ。

 結果的にアイドルやめちゃったんだよね」

「……!」

 

それは理那の一人語りに過ぎない。しかし、そんな話を聞いた相手が悪かった。

その人物こそ紛れもない遥本人なのだから。

 

「だからアイドルって聞くとその事思い出しちゃうんだよね」

「そっか、お医者さんが親だとそういうこともあるよね」

「でもでも! その人もきっと今頃歌えるようになってるよ!」

「さあどうだろ。心の問題って下手したらガンとかより厄介だしさ」

 

その話を聞き終えた杏は静かに同意し、えむはこれ以上いけないと励ましている。

しかしそれでも理那の憂いを取り除くには足りなかった。

 

「──その子なら、今も元気にしてるよ」

 

遠い過去を懐かしむように、優しい顔で遥は告げる。

それは理那も予想外だったらしく驚いたように遥を見た。

 

「確かにその時アイドルはやめちゃったけど、でもまたみんなと1から頑張ってる。

 今度こそ、アイドルとしてみんなに希望を届けられるように」

「……へえ、そうなんだ。じゃあ、その子に伝えておいてくれないかな」

 

平穏を装って言葉を促す。それを悟られたのかは分からないが、再び理那は言葉を続けた。

 

「父さんが言ってくれたんだ。その子のお陰で、自分の未熟さを痛感できた。

 手術したり薬を投与するだけが患者を治す訳じゃない。

 何より大事なのは、患者の心を治すことだ、ってね」

「ふふ、わかった。ちゃんと伝えておくね」

 

そんな教えを元に前へ進んでいる人物もいる。成功するだけが成長ではない。

失敗して己の未熟を知り、なお立ち上がってこそ得られる成長もある。

ひとつの挫折から得たそれぞれの経験は少女達の中で生きていた。

 

「……そうだ。よかったら名前で呼んでくれないかな。

 私だけ名字っていうのもなんだか変だし……」

「あ、そっかごめんごめん。呼び捨てでもいい? 私は呼び捨て呼ばれでも全然いいけど」

「うん。じゃあ理那、これからもよろしくね」

「こっちこそよろしく、遥」

 

お互いに握手と笑顔を交わす。

そんな2人を杏とえむは微笑ましく眺めているのであった。

 




時系列の勝手な想像ですが、
遥の「ステージに立てない」という症状は日に日に悪化していったとし、
アイドルをやっている時から医者の世話になっていた、という背景にしています。
時期的には中学2年くらい……と見ています。

と言うわけで今回のお話で第二部はおしまいです。
新キャラ2人と文の問題解決、そして理那の因縁に決着を。

ここまで半年に渡り毎日更新を続けてきたこの小説ですが、
申し訳ないことにマンネリ化してきたので、暫くお休みを頂きます。
休止期間は10日ほど予定しておりますのでまたその時にでもお会いしましょう。

次回、第三部序章「生者の特権、死者の冷遇」。
お楽しみに。


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