荒野の少女と1つのセカイ   作:kasyopa

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第2話「古びた音色に誘われて」

 

それから数日後の休日。

言葉と千紗都はそれぞれの楽器を手にスタジオを訪れていた。

 

「ではどちらから先に演奏しますか? 私はどちらからでも構いませんが」

「ならば我が先陣を切ろう。願い出たのは我だからな」

「よーっし、早速聞かせてもらおうじゃない? 雲雀の実力をさ」

「「……………」」

 

しかしその場に居るのは2人だけではない。

まるで居て当然の態度で、DJの機材を持った理那の姿がそこにあった。

 

「おい審判者、なぜここに友人の姿がある。我は人前で演奏する気はないと言ったはずだが」

「すみません。これには深いわけがありまして……」

 

言葉曰く、これは自らが仕込んだものではない。

いつものようにキャリーカートを引いて町中を歩いていたところ、

同じく機材を持ってどこかへ向かおうとしていた理那に見つかった。

 

理那も言葉がビビッドストリートで演奏をしていることは知っていたので、よかれと思って声をかける。

しかし目的地がビビッドストリートではないと知り、興味本位でついてきた。

当然言葉も断ったのだが、楽器を持っている以上うまく誤魔化すことなど出来なかった。

 

そして、今に至る。

 

「それより理那はどこか行くところがあったんじゃないの?」

「そこは別に気にしなくていいよ。杏のおじ様がやってる店にお邪魔しようかなって思ってただけだし」

 

あれから理那も時おりWEEKEND GARAGEを訪れ、DJとしての腕を磨いている。

こはねの様に許可と取ったわけではないが、別段断る理由も無いため受け入れられていた。

 

「というより友人も音楽を嗜んでいたとはな。しかしDJ……DJか」

「ん? なにか問題でもあった?」

「いや、クラシックばかりにかまけていた我には馴染みがなくてな」

 

クラシックの最たる例であるバイオリンを手にしている千紗都。

確かに現代音楽の象徴たるDJとは相反している。

 

「じゃあもしかしてそういう音楽は嫌い?」

「いや、馴染みがないだけで嫌いではない。頭ごなしに否定しては、良い物も生まれんからな」

「ふーん……結構いいこというじゃん」

 

理那自身もはじめて会った時はその口調と容姿に抵抗を覚えていたものの、

交流を経て悪い人間ではないと理解していた。

それになにより、あの言葉がなにもなしに付き合っているのだから、

そこに悪意はないのだろう。

己の直感と親友を信じて導き出した答えは、なによりも信じることができた。

 

「まあよい、同業者なら吝かでもないか」

 

ケーブルをアンプに繋ぎ、弓を手に取り構えた。

奏でられる音色は精錬されており、その才の高さが伺える。

いつかのカラオケと同じく圧倒的な実力を見せつける彼女に、2人は思わず息を呑んだ。

 

「こんなものか」

 

いつしか時間も忘れ聞き惚れていた2人は、終わりを告げる千紗都の声で現実に引き戻される。

 

「いやいや、こんなものかって……歌もすごかったけどこっちは普通にプロレベルじゃん」

「この程度昔取った杵柄に過ぎん。それに聞かせる相手も居らぬのでな」

 

いつかの様に遠い目をする彼女に、言葉はふと自分の想いを重ねる。

真に聞かせたい相手がいないのは、自分も同じであるがために。

 

「その相手って、両親だったり……」

「いいやそれは違うぞ審判者。我にとって両親は夢を与えてくれた存在だ。夢の終着点では決してない」

 

かぶりを振る千紗都に対し、肩を落とすと共に少しだけ安心する。

もしも予想が当たっていたのなら、相手の人生を狂わせるだけでなく夢を奪っていたことになるからだ。

あり方が違っている2人でも、共通するところは多い。

 

「さて、我の番は終わりだ。次は誰が聞かせてくれるのだ?」

「では私が」

「えっ、言葉行くの? なんだったら私が代わりに──」

「理那はいいよ、元は私と雲雀さんだけの予定だったし」

 

理那の準備が完了していたものの、言葉が先に動く。

自分で言ったこともそうだが、なによりこれは勝負ではない。

相手に求められた分、応えるのは言葉にとって当たり前のことだった。

 

流れるような旋律が響き渡る。

理那も最初の頃に聞いた時よりかなり仕上がってるな、と聞き惚れていた。

そして千紗都もまた、感心したように耳を傾けている。

 

やがて終わりを告げる音色に、小さな拍手が上がった。

 

「いやー、流石言葉だね。今日も堪能させてもらいました」

「ううん、これでもまだまだだよ。それに雲雀さんのに比べたら全然……」

「ふむ、審判者自身がそう思うのであればそうなのだろうが、我はそう思わん」

「と、いうと?」

「それは──いや、少し待て」

 

言葉の質問に答えようとしたところで、ふとスタジオの扉へと視線を向ける。

そこには何人かの少女達がこちらを覗き込んでいた。

それを快く思わなかったのか、千紗都はツカツカと歩み寄り勢いよく開け放つ。

 

「覗き見にとは感心せんな。気になるのであれば直接申し立てろ」

「あ……! えっと……ごめんなさい」

「でも、すっごく綺麗な演奏だったから気になっちゃって……」

 

長い黒髪の少女と金髪の癖っ毛を2つに結んだ少女。

何事かと対処に向かう言葉にとって、その2人は言葉の知人でもあった。

 

「星乃さんに咲希さん……どうしてここに?」

「あ、ほらほらいっちゃん、やっぱり言葉ちゃんだよ!」

「本当だ……お久しぶりです、鶴音さん」

「はい、お久しぶりです」

 

丁寧にお辞儀をする言葉に対し、やっぱり変わってないなと思う2人。

完全に置いてきぼりを食らった千紗都は不機嫌そうに口を開く。

 

「なんだ審判者、知り合いか」

「はい。文が体験入学の際にお世話になった方々なんです。

 私自身もお知り合いではあるんですが、学校が違うのであまり会う機会もなく」

「なるほど、そういうことか」

 

状況を理解した千紗都は1歩下がり優雅にお辞儀をする。

 

「先ほどの無礼を詫びよう。我は雲雀千紗都。鶴音言葉の知人、と言ったところか」

「あっ、ご丁寧にどうも……私は星乃一歌と言います」

「雲雀……?」

「どうしたの? 咲希」

「あ、ううん! どこかで聞いたことあるなーって思って……」

「……悪いが我と貴女は初対面だ。気にすることでもなかろう」

 

いつもは嬉しそうに返事を返す咲希であったが、どこか引っ掛かる反応を示す。

しかしそれを千紗都が突っぱねたことで、本人の頭も気のせいという処理を返した。

 

「天馬咲希です! ねえねえ、その髪どうしてるの? すっごく綺麗~」

「髪に関しては生まれつきだ。あまり追求はしてくれるな」

「あ、そうなんだ……ごめんなさい」

「……ふむ。純真、というやつか」

 

咲希の言葉に裏表はなく、そのままの称賛に少しばかり戸惑いを覚える千紗都。

偏見を嫌う彼女だからこそ、自身もその意見を頭ごなしに否定するわけではないようで。

 

「いや、気分を悪くさせてしまったな。我はここで失礼する」

 

謝罪の言葉と共に元いた場所へと帰っていく。

そこには当然理那が待ち構えており、何があったのか問いただしていた。

 

「あ、斑鳩さんも来てたんだ。なんていうか、すごい偶然だね」

「ええ、まあ。星乃さん達はバンドの練習ですか?」

「うん! みんなでプロになるために今日も練習中なの♪」

 

みんなでバンドをやる、という動機が今や夢を見つけ進んでいる。

自分とは大違いだと、少しばかり関心すら覚える言葉。

 

「へぇ……プロですか」

「あ、そうだ! 良かったらアタシ達の演奏、聞いていかない?」

 

そんな彼女達に声を漏らしていると、咲希の気まぐれが炸裂するのであった。

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