言葉達のいるスタジオとはまた別室。そこでは7人の少女達が詰め寄っていた。
「それで咲希、どうしてこうなったの」
「だって言葉ちゃんのお友達を放っておくなんて出来ないし……」
「むう、これは悪いことをしたか……?」
「あはは、まあ無理なら無理っていうでしょ。これだけの人数いるわけだしさ」
ベースのチューニングをしていた志歩がジト目で3人を見渡す。
そのうち1人はずいぶん前に見かけた程度であり、それ以外は外見からしてお断りな面々。
必死に説得を続ける咲希を見て、
2人も承諾を得ていないということに気付き、気まずそうにしていた。
「どうする鶴音友人よ、都合が悪ければ我々は退散するが」
「まぁ元々は言葉の知り合いだしね。私も興味あるけど強制はしたくないし」
「ご、ごめんね……咲希ってばいつもこんな感じだから」
現実主義の千紗都はこうやって説得に掛けている時間が申し訳なく、理那も無理を通す気はさらさらなかった。
そんな2人に対して詫びをいれる一歌。巻き込まれているのが知人だけではないだけあって必死である。
「お願い志歩ちゃん! 言葉ちゃんだって前に聞かせてくれたからお礼がしたいの!」
「まあ、そういうことなら……」
随分前の事ではあるが、ここにいる4人は結成当初にそれを祝して貰った恩がある。
そこに祝いの意があったかは定かではないものの、その礼と言われれば断りづらい。
「でもやるならちゃんと。お客さんには変わりないしね。穂波もいい?」
「うん。あ、そっか、あの時はSTANDOUTのお客さんだったもんね」
「そういうこと。ほら、一歌も咲希もやるなら早く準備して」
「あ、ありがとうしほちゃ~ん!」
「だからくっつかない!」
ようやく話が纏まったようで、胸を撫で下ろす言葉。事の発端が自分にあった分気が気でなかったらしい。
一歌と咲希が準備する傍らで志歩に詫びの言葉をいれる。
「すみません日野森さん。無理なお願いをしてしまって」
「いえ、こっちもあの日のお礼くらいはしたかったんで」
あの日無理矢理連れて来られたとはいえ、言葉の演奏技術の高さは志歩も目を見張るものがあった。
そしてスタジオの外から聞こえてくる音色は2人だけでなく、自分も魅了されそうだったのも事実。
そんな彼女の眼鏡に適うかはまだわからない。
「どの曲にする? 私はなんでもいいけど」
「それなら折角だし、アタシ達の想いから生まれたあの曲にしようよ!」
「想いから、だと? それは我も気になるな」
「面白そうじゃん。ね、言葉」
「うん。私も気になるな。どんな曲なのか」
準備を終えて選曲を行う。
結成を祝われただけあり、それを記念した楽曲でお返ししようという考えのようだ。
4人が再び夜空の元に集い、紡がれた思い出深い曲でもある。
そしてその言葉に3人が反応を示し、流れで決定した。
「じゃあそれで。穂波、カウントお願い」
「うん。じゃあいくよ、ワン、ツー、スリー、フォー!」
歌い上げる歌詞はかつてのすれ違い。それでも諦めずに繋ぎ止めた想い。
もう一度、かつての関係を取り戻すための歌。
「いい歌詞だね。なんか最後まで諦めないって感じで」
「そうだね。……そっか、これが4人の想いなんだ」
「……ふむ」
三者三様の反応を見せる。
特に理那と言葉は想いから生まれたウタを持っているために、それをただの歌で終わらせなかった。
演奏技術はまだ少し物足りなくとも、有り余る4人の想い。それを汲み取るために耳を傾けている。
そして千紗都もまた思うところがあるのか、目を閉じて音色を感じていた。
「どう、かな?」
あの時のライブと同じく全力を出した4人。
曲が終わっても平然としている3人に対し、一歌が答えを求める。
「皆さんとてもお上手でした。特に一歌さん、あの時とは比べ物にならないほど歌を物にしていましたね」
「あ、ありがとうございます……!」
最初に口を開いたのは言葉である。
彼女の歌声はいつの日か寧々との練習で耳にしていた為、どこかで比較していた。
その時に比べれば天と地ほどの差があったため、そこを素直に称賛する。
「うんうん、演奏楽しんでるし皆いい顔してた! 久々にビビっと来たね!」
「えへへ、ありがとう!」
理那もその演奏スタイルそのものの良さを見逃さない。自分の直感が満たされご満悦の様子。
それを素直に咲希が返し、お互いに笑顔になっていた。
「うむ、流石は想いから紡がれだけのことはある。問いたいこともあるが……まずは返礼といこう」
千紗都は何か思うところがある様で、思わせ振りなことを呟きながらも部屋を退出する。
やがて戻ってきたかと思いきや、その手には電子バイオリンがあった。
「あ、もしかしてさっき弾いてたの、雲雀さんだったんだ」
「そうとも。押し売りがましいが、まぁ聞いていってくれ」
バイオリンを手にしたからにはクラシックの楽曲が来る、とここにいる誰もが予想する。
しかし彼女が奏でるのは──
「この曲……ミクの曲だ」
この中でもっとも詳しい一歌が思わず口をこぼす。
それはまだミクが一般の人々から認知されるよりも前。黎明期に頭角を表した者による代表的な楽曲群。
初音ミクというキャラクター性を取り払った、悲しげな失恋ソング。
Leo/needの面々が聞き入っていると、そこにフルートの伴奏とドラムのビートが加わる。
返礼、ということなら2人も同じ。そこには自らの楽器を持ち寄った言葉と理那の姿があった。
「なっ、貴様ら勝手に!」
「いいじゃん別に。それにバイオリンなのにメロだけとか味気ないっしょ」
「だがなぁ……」
「──♪ ───♪」
独壇場と思いきや急に混じられ気分が害される。思わず反論するも、彼女の言うことには一理あった。
どれだけ達者な演奏家でも、1人では合奏の音圧には勝てない。
多重録音で補う事は出来ても、こういった生演奏や即興では不可能であった。
一方の言葉は口が塞がれている分、音色で答えている。
「審判者も大概だが、貴様も相当な酔狂よな」
「伊達にアンタみたいな天才と付き合ってきた訳じゃないからねー。ほらほら、間奏明けるよ」
2番の後の間奏も終わりに差し掛かる。
千紗都の補佐として2人は役割を果たしており、
はじめてのセッションながら長年連れ添ってきた様に感じられた。
それぞれの卓越した技術に一糸乱れぬ調和。
そんな3人に対し、ただ圧倒されるだけのLeo/needであった。