荒野の少女と1つのセカイ   作:kasyopa

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第4話「少女が見据える物」

「以上を持って返礼とさせてもらう。ご清聴感謝しよう」

 

楽曲が終わりを告げ、優雅にお辞儀する千紗都。

言葉もコンクールの時のように深々と頭を下げ、理那は嬉しそうにピースサインを送っている。

 

「はじめてにしては結構良かったんじゃない? メロ立たせ過ぎて所々弱いところあったけどさ」

「はじめてって……あれではじめてなんですか?」

「うむ。むしろここにいる3人どころか、2人ですら合わせたことはないぞ。

 まあ、鶴音とその友人は知らんが」

「理那も音楽を始めたのは最近ですから、こちらとしても初めてです」

「じゃあ、本当にぶっつけ本番ってこと!?」

 

思わず声を張り上げる咲希と、目を丸くする一歌・穂波・志歩。

彼女達の初セッションといえばセカイでの出来事。

今思い返してもひどいものであったが、そんな演奏でも4人の心に響いていた。

他でもない『皆で一緒に居たい』という想いと共に。

 

しかし、そんな想いを抜きにしても彼女達の演奏は目を見張るものがあった。

それこそ、言葉が聴かせてくれたあの時とはまるで違う。

彼女自身の演奏技術もさることながら、他の2人も同等かそれ以上の技術を持っていた。

特に千紗都の腕前は格別であり、さながらプロのよう。

 

「……そこの人、さっき何かいいかけてましたよね。良かったら話してくれませんか」

「ふむ、ならば問おう。その想いの果てに望む物はなんだ? その想いを、何に繋げる?」

 

それ故に、千紗都が演奏前に言い淀んだことが気になった。

そんな彼女に対し口を挟んだのは志歩。

自分が意見を言うだけあってか、はぐらかされるのは性に合わない。

何より音楽のこととなれば尚更だった。

 

聞かれてながらにして答えないのも失礼と感じたのか、案外あっけなく質問を飛ばす千紗都。

言い方に難があるものの、同じ音楽を続ける以上彼女でなくとも問われる事はあっただろう。

そして4人は既にその答えを見つけていた。

 

「私達はプロになるって決めたんです。ここにいる、皆と」

「プロ……か。なるほど。願いをかけるは皆同じというわけだな」

「じゃあ、千紗都ちゃん達もプロを目指してるんだ!」

 

一歌の返答に予想通り、といった反応を示す千紗都であったが、咲希の言葉にかぶりを振る。

 

「いや、我のような人間はプロになれん。今以上を望めばそれこそ罰当たりというものよ」

「それって、どういう」

「貴女達が気にすることでもない。なに、運命の女神は意地悪だというだけさ」

「……?」

 

言葉の意味がわからずに首をかしげる4人。

千紗都自身も話しすぎたと思ったのか、仄めかすだけで終わっていた。

 

「千紗都さんも案外詩的なことを言うんですね。ちょっと意外です」

「これでも鶴音らよりは先輩だ。当然だろう」

「あれそうだったの? てっきり中三とかそのくらいだと思ってた」

「おい友人、それはどういう意味だ」

「えー、変に中二臭かったり身長低かったりとか?」

 

悪い人ではないとわかっていても、その真意は知らない。

しかも千紗都はこの中にいる7人の内で最も身長が低かった。

ワナワナと拳を握りしめながら俯く彼女は、なにやらぶつぶつと唱え始めている。

 

「何かと気に食わぬやつと思っていたが……よしわかった。貴様は我が直々に叩きのめしてやろう!」

「へぇ、面白そうじゃん。でもやるってんならこっちも本気でいかせてもらうからね」

 

そんな火花を散らす2人だが思ったより理性的で、元いた部屋へと戻っていく。

流石に部外者がいるところでやりあおうとは思わなかったようだ。

 

「えっと……鶴音さんも大変ですね」

「そうでもありませんよ。でも、そうですね。昔に比べれば少し騒がしくなったかもしれません」

「あれで少しって……いや、別に鶴音さんがいいならいいんだけどさ」

 

取り残された言葉に声をかけたのは志歩。

自分も似たような境遇にあるからか、共感するところがあったのだろう。

その原因は他でもない姉と幼馴染みであるのだが。

 

「鶴音さんも、プロを目指さないんですか?」

「……そうですね。私は私自身が納得できればそれでいいので」

「じゃあ理那ちゃんは? あんなに盛り上げるのうまいし!」

「理那は……なんだろう、多分そこまでは目指してないんじゃないかな」

 

理那はともかく、言葉がプロになるという意識はなく、

ただ流れる時を音楽と共に過ごしているだけにすぎない。

それでも研鑽に終わりはなく、その技量は今も研ぎ澄まされている。

 

「じゃあ、どこまでいけば納得できるとかは……」

「さあ、それは私にもわかりません。でもそれが止める理由にはなりませんので」

 

今の言葉にとって、もはや音楽を続ける動機は存在しないのかもしれない。

永遠に叶わぬ夢の残り香なのか、かつての自分への贖罪なのか、習慣付いた生活の一部なのか。

ただ、止まることも望まない彼女にとってそれは苦ではない。

 

「では、私もこれで。プロになった際はステージにご招待頂ければ幸いです」

 

それだけ言い残して立ち去る少女の姿が、どこか虚しく写る4人であった。

 

 

///////////////////////

 

 

「「「「……………」」」」

 

スタジオに残されたLeo/needの面々に降りる沈黙。

圧倒的な実力差を思い知らされつつも、描く未来がまるで違う3人。

今もなお彼女達のいるであろうスタジオからは、鳥肌が立つような演奏が繰り広げられている。

 

「なんていうか、寂しいね。あんなに上手なのに」

「きっと、そういう人もいるんだよ。……正直、悔しいけどね」

 

『遊び』で出せる音ではないと志歩が一番理解していた。

演奏中の3人の眼差しは真剣そのものであり、ひとつとして妥協を許していない。

初めてのセッションでありながら調和を保てたのも、それが生んだ結果だと今になって理解する。

 

「でも、これから先プロになるにはあんな人達も相手にしなきゃいけない。

 対戦形式のライブだってあるわけだから」

「そっか、そうだよね……」

 

 

実力差がそのまま目の前に壁となって現れる。

プロの座を目指すのはなにも自分達だけではない。まだ見ぬ実力者達がこの世にはひしめき合っている。

 

「だからこれからは、イベント参加も視野に入れていかないとね」

「うう、そうだよねー……でも上手くできるかな……」

 

各々の技量が付いてきていても、今だバンドとしての実力はまだまだ。

プロを目指す上で避けては通れない道である。しかし不安なのは変わりない。

あの時は勢いでステージに立ったが、自分達から未知の舞台に上がるにはまだ勇気が足りなかった。

 

「……あのさ、少し提案があるんだけどいいかな?」

 

そんな中一歌が口を開く。その提案とは──?

 

 

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