荒野の少女と1つのセカイ   作:kasyopa

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第5話「打ち合わせ」

 

その日、一歌の姿は神山高校の校門にあった。スマホの連絡アプリで待ち人の返信を眺めている。

そこに委員会で遅くなる、という旨を記された文章が。

 

「(もう少し後にした方が良かったかな)」

 

校門から出ていく生徒達は、ここらでは見慣れぬ宮女の制服に興味を引かれていた。

巷ではお嬢様学校として有名であり、一歌自身のルックスも高い為無理もない。

クールな容姿ながら、その心境は不安一色ではあるのだが。

 

「あれ……星乃さん?」

「え? あっ、草薙さん」

 

注目の的になっていれば自然と興味も向くもので、

普段はそそくさと自宅へ向かうはずの寧々も思わず声をかける。

 

「どうしたの、何かあった?」

「あ、ううん。今日は草薙さんに用事があったわけじゃなくて……」

「……? もしかして鶴音さん?」

「うん。ちょっとお願いしたいことがあって」

 

待ち人が現れたわけではないものの、群衆は勘違いして散っていく。

そのお陰か少しだけ一歌の心が軽くなった。

 

「ただ、委員会で遅くなるみたいで」

「そっか、司が今日委員長会議とか言ってたような……」

 

2人が同じ役職であることであることは寧々も噂で知っている。

実際の手腕は変わらないものの、対照的な2人が同じ役職なのも意外であった。

 

このまま帰ってしまうのも申し訳なく思った寧々は、そのまま一歌と雑談で時間を潰すことにする。

といっても会話が上手くない2人は、無言である時間の方が多かった。

 

「すみません、お待たせしました」

 

駆け足で息を切らせながら現れた言葉。

肩で息をしてるところを見るに相当急いでいたらしく、申し訳なくなって来る。

 

「ううん、草薙さんと話してたからそんなに気にならなかったし、大丈夫だよ」

「そうだったんですね。ありがとうございます、草薙さん。このご恩は必ず」

「べ、別にそこまでしなくていいから! それより星乃さんがお願いがあるって」

 

ただ頭を下げる言葉に対し無理矢理本題に入らせようとする。

仲のいい相手だというのに、ここまで腰の低い態度をとられては気の毒というものだった。

 

「そうでしたね。星乃さん、お願いとは?」

「えっと、もし良かったらなんだけど……私達のバンドと対戦してくれないかな、って思って」

「え……対戦、ですか?」

 

思わぬ申し出に戸惑いを隠せない言葉。

一歌が言うにはプロを目指す上での経験は欠かせない。

しかし自分達にはハードルが高いと判断した為、

その模擬練習を言葉達にお願いしたい、とのことだった。

 

ただ1つ問題があるとすれば……

 

「あの、ですが私達はユニットでもありませんし、あの時は偶々といいますか」

「無理を承知なのはわかってます。でも、どうかお願いします!」

「ですが……」

 

自分だけの問題であれば快く引き受けていたであろうが、これは当然他の面々の都合も関わってくる。

特に千紗都は訳ありのようだったので、あまり踏み込たくない。

それは自らを進ませてくれた相手への思いやりであった。

 

「……すみません一歌さん、力になりたいのは山々なのですが──」

「ちょーっと待ったー!」

 

そんな言葉の声を遮ったのは他でもない理那であった。

体操着姿のところを見るに、部活の助っ人上がりの様子。

 

「あ、斑鳩さん……」

「話は大体わかった! というわけで私はオッケーだよ」

 

今やってきたばかりだというのに、二つ返事で了承する理那。

これには流石の言葉も反論せざるを得なかった。

 

「り、理那! そんな勝手に!」

「まあまあ。こんなに必死にお願いしてるんだから引き受けない方が申し訳ないでしょ」

「そうだけど、そうじゃなくて……!」

「アイツが無理でも私達だけで受けてあげればいいじゃん。その時はその時だよ」

「あ……」

 

思ったよりもフットワークの利いた答えに目から鱗な言葉。

確かに千紗都であれば無理なことは無理と言う人間だ。

お願いされている側であるため、こちらの融通を利かせるのは何ら悪いことではない。

この辺り、ユニットを組んでいない彼女達の強みとも言える。

 

「えっと、では訂正して……正直雲雀さんが参加出来るかはわかりません。

 ですがその時は2人で受けさせて頂きます」

「鶴音さん……ありがとうございます!」

 

出来れば千紗都も参加してほしいところだが、贅沢は言えない。

この2人だけでも敵うか分からない為、相手にとって不足はなかった。

 

「でもさ、対戦形式って誰かに聞いてもらう訳でしょ? その辺りどうすんの?」

「あ、そっか……」

 

理那の問いに対して考えていなかった一歌が、思わず声を漏らした。

本来対戦形式となれば、観客の盛り上がりなどで判断される。

さらに言えば審査員すら呼んでいる場合もある為、公平な審判が出来る者が求められた。

 

「ともなれば、それなりに音楽の知識と技量がある方が好ましいですね。

 全くの素人の方にお願いするわけにもいきませんし」

「それだと……あ」

 

途中から空気と化していた寧々へ自然と視線が集まる。

この中では抜群の歌唱力を誇り、現に一歌へ歌を教えているのも彼女だ。

 

「えっ、私?」

「えっと、お願いしてもいいかな」

「まぁ、いいけど……私も2人の演奏、気になるし」

「ありがとうございます、草薙さん」

 

実際にその演奏や歌を耳にしたことのない寧々も、悪くない申し出だった。

それに何より、以前感じた違和感の正体に気付けるかもしれない。

 

「よっしこれで審査員も1人確保ー。後は予定の練り合わせ?」

「ううん、3人は欲しいかな。心当たりがあるから、その人に聞いてみる」

「おっけー。なら私も探してみるよ」

「えっと、お願いします」

 

一歌の人脈だけでは限界がある。

顔が広いであろう2人であれば大丈夫だろうと首を縦に降る一歌であった。

 

 

 

その日の夜。

言葉は早速ナイトコードでその旨を千紗都へ伝えていた。

 

『なるほど、対戦形式とは考えたな。確かに勝利も敗北も時として必要となろう』

『それで、どうでしょう。まだいつになるかはわかりませんが……』

『無論、我も参加させてもらおう。ただしやるからには全力でいかせてもらうぞ』

『あの、流石にそれは大人げないかと』

『何をいう。既に相手はこちらの技量を把握している。全力で行かねばそれこそ失礼にあたるぞ』

 

言葉の心配など気にしない様子で、意気込む彼女に少しばかり頭が痛くなる。

何はともあれ都合はついた。ともなれば後は審査員だけ。

その相手はログインしていないが、非表示の事もザラな為丁寧な文章を送信する。

あとは、よい返事を期待するだけであった。

 

 

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