荒野の少女と1つのセカイ   作:kasyopa

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第7話「束ね集いて」

そしてその日はやって来た。

 

「……ほんとにここでするんですか?」

「はい。今日は貸し切りなので思う存分使わせていただきましょう」

 

呆然と呟く一歌に対して、当然といった様子で言葉が答えた。

今日は言葉の意向で小さなライブハウスを貸しきっている。

実際にライブをするわけではないので料金は据え置きだった。

 

「わー、あの時以来だねお姉ちゃん!」

「ふむ、舞台の上に立つのはいつぶりか……と言ってもライブハウスははじめてだが」

「屋内ライブはそれなりに慣れてるけど、ここははじめてだね。んじゃ、早速お手伝いしよっか」

 

どこか気分が高揚している3人はLeo/needのために動く。

当人達も楽器の配置や音出しに精を出していた。

 

「あの、それで審査員の人は……」

「ちょっと時間をずらして来ていただくようにお願いしてます。

 練習中に曲が知られるのもなんですし」

 

その辺り、聞きなれないようにという配慮である。

細部まで徹底された言葉の手腕が発揮されていた。至れり尽くせりとはこのことか。

 

「あの、なんだかごめんなさい。こっちがお願いしてるのに……」

「いえいえ。ここまで盛大にしようといったのも理那と文が盛り上がった結果なので……」

「あの2人が?」

「はい。せっかくなら本番さながらにしようと。

 流石にお客さんまで呼んでしまうと、模擬かわからなくなってしまうので遠慮しましたが……

 機材に関しては理那がサポートに入ってくれるみたいなのでご心配なく」

 

さながらプロのサポーターのごとく慣れた手つきで、配線作業を行っている理那を見つめつつ言葉は呟く。

セカイで1から10まで経験していた彼女だからこそ出来る技なのだが、それを知る者は誰もいない。

ライブハウスでバイトをしている志歩も顔負けといった様子だった。

 

「たしか、DJの斑鳩さん……でしたっけ。随分慣れてるみたいですけど、経験あるんですか?」

「経験……はそんなにかな。むしろサポートに回ってた時の方が多いよ。私に道を示してくれた人のね」

 

それは当然、ルカのことである。

かつての自分と親近感を覚えた志歩は目を丸くしながらも、納得したように口を開いた。

 

「そんな人が……納得です。この前聞かせてくれたプレイもかなり熱意の籠ってるものでした。

 あれは……誰かを目指して走ってるみたいな」

「あはは、そういう貴女だってそんな相手がいるんでしょ? お姉さん、気になるなー」

「お姉さんって……私も1年生ですけど」

 

機材の準備をしながらも2人の会話が続いている。

奇しくもこの2人、目標を誰よりも早く定めた者同士出会ったらしい。

 

「志歩ちゃんがあんなに話してるなんて始めて見た……。何かあったのかな?」

「それはわたしの恩人さんだからです! お話しするのすっごく上手なので!」

「ふふ、そっか。派手な人って思ってたけど、そうでもないのかも」

「後々、お姉ちゃんの大親友さんなんですよ!」

「えっ、そうだったんだ……」

 

文の説明を受けながら会話を続ける2人を眺める穂波。

見た目とテンションの差から少しばかり敬遠していたが、悪い人ではないことを改めて認識する。

 

「それより、ありがとう文ちゃん。こっちのお願い聞いてくれて」

「いえいえ。これで穂波さんへの恩返しも出来たので、わたし的には全然オッケーです!」

「そういえばそんなことも……前の事、覚えててくれてたんだね」

「当たり前です! わたしは人から貰ったご恩は忘れません!」

 

宮女に体験入学していた際に受けた恩は、いまだに忘れずもっていたらしい。

引き受けたのは姉であるものの、今回は文も含めたグループのためあながち間違ってはいなかった。

 

「今日はよろしくね。千紗都ちゃん!」

「ああ、よろしく頼もう。勝負を挑まれたからには全力で行かせてもらうぞ。覚悟はいいな?」

「そ、そこはお手柔らかにお願いします……?」

「ははは、何をいう。先の演奏では貴女の演奏が最も可憐であったぞ。さぞ良い師に学んだのだな」

 

一方こちらは咲希と千紗都が昔話に華を咲かせていた。

クラシックの家柄からか、前の機会では彼女の演奏する姿を注視していたようで。

 

「あ、それならお母さんのお陰かな。お母さんピアノの講師やってるから、小さい頃に教えて貰ったの」

「ほう! それは奇遇だな。我も両親からこのバイオリンを教わったのだ」

「そうだったんだ! あ、ならおんなじ講師さんだったりするの?」

「いいや、ある楽団のメンバーで世界中を飛び回っていた。……まあ、今となっては叶わぬが」

「えっ、それってどういう……」

「なに、貴女が気にするようなことでもない。さて、我らも準備に取りかからねばな」

 

またもなにかを誤魔化すように話を切り上げて準備に取りかかる。

そんな露骨な対応に、咲希は少しばかり気分が曇るのであった。

 

 

 

皆が準備に移っているなか、言葉は1人ライブハウス前で待機していた。

 

「あっ、鶴音さん。えっと、ここでよかったかな……?」

「はい。間違ってませんよ。今日はありがとうございます、草薙さん」

 

その理由は審査員である面々を出迎えるため。最初に到着したのは寧々であった。

場所は伝えているが慣れていない者がいるために、案内を買って出ている。

 

「別に……そこまで気にすることじゃないよ。それで、星乃さん達は中?」

「はい。まだ始まるまでは時間がありますが……先に入られますか?」

「うん。他の人とも挨拶しておきたいし。鶴音さんはどうするの?」

「私はまだここで少し待ち合わせです」

「そっか……じゃあ、また後で」

 

短い言葉を交わして寧々はスタジオの中へと消えていく。

続いて現れたのは、言葉のよく知る長身の青年。

 

「鶴音か。斑鳩に言われて来たんだが……ここで間違いないか?」

「そうだね。そっか、青柳君だったんだね。今日はお願いします」

「ああ。そちらの期待に添えられるかは分からないが、できる限り応えたいと思う。こちらこそよろしく頼む」

 

お互いに頭を下げ、初手の挨拶は終了する。

このまま中に入っていくかと思いきや、冬弥は話題を切り出した。

 

「それで……雲雀、という人物が来ていると聞いたが……」

「雲雀さんなら中で準備中ですよ。そういえば雲雀さんの事をご存じなんですか?」

「いや、親絡みで少し……いや、確証はないが」

「青柳君の親……?」

 

意外なな人物の登場に困惑しつつも、

千紗都の事情が込み入っているだけあって深くは追求しない。

これが言葉にとっての平常運転である。

 

その後冬弥も中へと消えていき、最後の1人を待つだけとなった。

その人物とは──

 

「あっ、鶴音さん。……今日は呼んでくれてありがとう」

「いえ、こちらこそ態々ご足労頂きありがとうございます。──宵崎さん」

 

青いジャージ姿に腰まで延びた白い髪。風が薙げば飛ばされそうなまでに線の細い少女。

宵崎奏であった。

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