荒野の少女と1つのセカイ   作:kasyopa

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第8話「想いの行く先」

会場前の挨拶もほどほどに言葉と奏は中へと入る。

 

「いやー、今日はありがとね青柳君」

「感謝したいのはこちらも同じだ。

 それに斑鳩も他の仲間とやるのははじめてだろう? 期待している」

「そこまで言われたら頑張らない訳にはいかないねー。あ、言葉! もう準備終わって……って宵崎さんじゃん」

 

ステージ前へと進むと、冬弥と話していた理那が歩み寄ってくる。

その過程で奏の存在にも気づいたようだ。

 

「言葉と一緒にって事は、言葉のアテって感じかな」

「……どうも」

 

例の一件から時間は経ったと言えど、奏からすれば少しばかり苦手な人物。

メンバーまでは聞き及んでいなかったため、無意識で口を閉じてしまう。

そんな彼女に対して理那は。

 

「ああ、そんなに固くならなくていいよ。私としても謝りたかったし」

「謝る……? 私に?」

「うん。あの時は……私も焦ってたからさ」

 

奏とファミレスで話した時の理那は、過去と現在の差異に呑まれ迷っていた。

そのせいで彼女の救うという根底を指摘した。

今だその答えが見つからない奏にとって、

そこまで見つめる彼女はまさに先人であり、越えられない壁のように思える。

そんな彼女が、頭を下げた。

 

「だからごめん。キツいこと言っちゃって」

「……そんなことない。あの子を救うなら、そういう事も考えなきゃいけないから。だから、ありがとう」

 

対する奏も衝撃こそ大きかったが、いつかは受け止めなければいけない事実として認識していた。

そして、その先が見えなくとも歩みを止める理由にはならない。

 

「そっか。……ならあの子のこと、後はまかせたよ」

「うん。斑鳩さんも頑張って。今日の演奏、期待してる」

「よし。じゃあ言葉、後はそっちの準備だけだからステージ上がってー」

「うん。宵崎さん、また後で」

 

ここで理那につれられステージへ。

入れ替わるように穂波が話しかけるのを見送りつつ、音響チェックへと移る言葉であった。

 

 

 

バンド同士や審査員の挨拶も終わり、まずはLeo/needの演奏が始まる。

審査員は会場の真ん中でその勇姿を見つめていた。

 

彼女達が選んだのは馴染みのある曲ではなく、プロになると決意した時の曲。

見据えた未来は1つだけという信念を込めて紡がれた、終わりにして始まりを告げるウタ。

 

「「「「ありがとうございました!」」」」

 

やがて演奏も終わりを告げ、4人が頭を下げる。審査員達も柔らかい拍手を送っていた。

 

「うん。歌声に気持ちが籠ってて……正直、今までで一番良かったよ」

「演奏は……そうだな。特にベースが安定していたな。

 それに咲希さんの演奏も少し遊びがあって心地よかった」

「それにドラムもしっかりしてた。歌詞も歌声も演奏もうまく纏まってて、予想以上にハイレベルだった」

「おお~! なかなかの高評価じゃない? ねえ志歩ちゃん!」

「まあ、なかなか良かったと思うよ。それにしても、審査員の人もしっかりしてるな……」

 

寧々が歌声を、冬弥が演奏を、奏が全体を評価する中で、喜びの笑みを浮かべるLeo/need。

この中で唯一3人に馴染みのあまりない志歩でさえ、評価がしっかりしていることに驚いていた。

 

「じゃあ、次は鶴音さん達の番だね」

 

舞台奥へ片付けを進め、同時に言葉・理那。千紗都が準備に取りかかる。

そんな中、冬弥はずっと千紗都の方を見つめていた。

 

「では……文、もういいよ」

「はーい!」

 

後方に控える言葉が篠笛を手に妹の名を呼ぶと、元気のいい返事と共に少女が舞台に躍り出る。

白地に赤い紅葉がちりばめられたデザインの浴衣。

帯も赤色で、その手には扇子が握られていた。

 

「では、お願いします!」

 

文の合図と共に演奏が始まる。そして誘われるようにゆったりとした舞いを披露する文。

紡がれる言の葉は淡い恋心を唄う。

口に出さずとも傍にいるだけでいいのだという想いを込めて。

奇しくもそれは、先ほどLeo/needが紡いだ歌詞とは真逆のものだった。

 

たっぷりと余韻を残しつつ、舞いと演奏は終わりを告げる。

そこに送られる拍手はなく、見た者全てがただ息を呑んでいた。

 

「──ありがとうございました」

 

曲の雰囲気をそのままに、ゆったりとお辞儀をする文によってようやく現実に引き戻される。

これで、お互いの演奏が終わった。

 

「さて、審査員諸君。判定と行こうではないか。

 Leo/needが良いと思うならば右の手を、我々が良いと思うのならば左の手を挙げてほしい」

 

感想を待たずして千紗都が前に躍り出て判定を促す。

人数は奇数、意見が割れることはない。促したのも相談の余地を与えないためだった。

 

熟考の末、各々の手が上がる。

 

 

────全員が、右手を上げていた。

 

「やっ、たああああ! 勝ったよいっちゃん! ほなちゃん! しほちゃん!」

「え、嘘……本当に?」

 

そんな判定を見て咲希が感嘆の声をあげる。

息を呑むほどの圧倒的な技量を見せつけた4人。しかし評価はLeo/needの勝利を意味していた。

 

「……待ってください。どうして、私達なんですか」

 

そんな中、志歩だけが反対の意を唱える。勝利は事実ながら、納得がいかないように。

それを聞いて、真っ先に口を開いたのは冬弥であった。

 

「確かに鶴音達の演奏は圧倒的だった。……ただ、それだけだった」

「音楽に馴染みのない人とか、そういう人は鶴音さん達を選ぶかも知れない。それでも、たぶん違いがあるなら」

「Leo/needの皆には、想いが籠ってた。こうありたいっていう、想いが伝わってきた」

 

奏と寧々が言葉をつなぐ。それが2つの音色を分けた決定的な差。

 

こうして、Leo/needと言葉達による勝負は幕を閉じた。

 

 

 

「いやー、完敗だったねー」

「うーん、いい線いってると思ったんですど、やっぱりプロを目指す先輩達は違いますね!」

「そうだね。まあ、これは仕方ないかな」

「勝負は勝負だからな。終われば別になんということもない。さて、我は先に失礼するぞ」

 

片付けをしつつ言葉を交わす4人。

敗北を期したというのに、皆は逆に清々した表情を浮かべていた。

 

「すまない、ちょっといいか」

 

そんな中、立ち去ろうとした千紗都の前に立ちはだかったのは冬弥。

この中で唯一、彼女に入り用の人物であった。

 

「おお、久しいな。どうした、我に入り用か?」

「差し支えなければ教えてほしい。君の祖父は雲雀源治郎、という名前ではないか?」

「……………」

 

その名前を聞くや否や、千紗都は目元に影を落とした。

 

「……ああ、そうだが」

「なら、君は──」

「すまない、我はここで失礼する」

 

傍を通り抜け、千紗都はその場を後にする。

不意にそれを目にした言葉は、思わず冬弥に駆け寄った。

 

「青柳君。雲雀さんと何かあった?」

「いや、なんでもない……こちらの話だ」

 

そんな言葉をかわし、冬弥も会場を後にする。

言葉の中には、そんな2人に対する疑念がいつまでも残り続けるのであった。

 




「1」 / Leo need MUSIC:164
紅一葉 / 黒うさP


どうも、ご無沙汰しておりますkasyopaです。
実質的なシャッフルイベントになるのかな……?
今回のお話は基本的に「匂わせ」となります。
あまりにも千紗都に関する情報を出してなかったな、と思いつつ筆を取らせていただきました。

そしてまた、一週間ほどお休みを頂きます。
次の章まで今暫くお待ちください。
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