会場前の挨拶もほどほどに言葉と奏は中へと入る。
「いやー、今日はありがとね青柳君」
「感謝したいのはこちらも同じだ。
それに斑鳩も他の仲間とやるのははじめてだろう? 期待している」
「そこまで言われたら頑張らない訳にはいかないねー。あ、言葉! もう準備終わって……って宵崎さんじゃん」
ステージ前へと進むと、冬弥と話していた理那が歩み寄ってくる。
その過程で奏の存在にも気づいたようだ。
「言葉と一緒にって事は、言葉のアテって感じかな」
「……どうも」
例の一件から時間は経ったと言えど、奏からすれば少しばかり苦手な人物。
メンバーまでは聞き及んでいなかったため、無意識で口を閉じてしまう。
そんな彼女に対して理那は。
「ああ、そんなに固くならなくていいよ。私としても謝りたかったし」
「謝る……? 私に?」
「うん。あの時は……私も焦ってたからさ」
奏とファミレスで話した時の理那は、過去と現在の差異に呑まれ迷っていた。
そのせいで彼女の救うという根底を指摘した。
今だその答えが見つからない奏にとって、
そこまで見つめる彼女はまさに先人であり、越えられない壁のように思える。
そんな彼女が、頭を下げた。
「だからごめん。キツいこと言っちゃって」
「……そんなことない。あの子を救うなら、そういう事も考えなきゃいけないから。だから、ありがとう」
対する奏も衝撃こそ大きかったが、いつかは受け止めなければいけない事実として認識していた。
そして、その先が見えなくとも歩みを止める理由にはならない。
「そっか。……ならあの子のこと、後はまかせたよ」
「うん。斑鳩さんも頑張って。今日の演奏、期待してる」
「よし。じゃあ言葉、後はそっちの準備だけだからステージ上がってー」
「うん。宵崎さん、また後で」
ここで理那につれられステージへ。
入れ替わるように穂波が話しかけるのを見送りつつ、音響チェックへと移る言葉であった。
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バンド同士や審査員の挨拶も終わり、まずはLeo/needの演奏が始まる。
審査員は会場の真ん中でその勇姿を見つめていた。
彼女達が選んだのは馴染みのある曲ではなく、プロになると決意した時の曲。
見据えた未来は1つだけという信念を込めて紡がれた、終わりにして始まりを告げるウタ。
「「「「ありがとうございました!」」」」
やがて演奏も終わりを告げ、4人が頭を下げる。審査員達も柔らかい拍手を送っていた。
「うん。歌声に気持ちが籠ってて……正直、今までで一番良かったよ」
「演奏は……そうだな。特にベースが安定していたな。
それに咲希さんの演奏も少し遊びがあって心地よかった」
「それにドラムもしっかりしてた。歌詞も歌声も演奏もうまく纏まってて、予想以上にハイレベルだった」
「おお~! なかなかの高評価じゃない? ねえ志歩ちゃん!」
「まあ、なかなか良かったと思うよ。それにしても、審査員の人もしっかりしてるな……」
寧々が歌声を、冬弥が演奏を、奏が全体を評価する中で、喜びの笑みを浮かべるLeo/need。
この中で唯一3人に馴染みのあまりない志歩でさえ、評価がしっかりしていることに驚いていた。
「じゃあ、次は鶴音さん達の番だね」
舞台奥へ片付けを進め、同時に言葉・理那。千紗都が準備に取りかかる。
そんな中、冬弥はずっと千紗都の方を見つめていた。
「では……文、もういいよ」
「はーい!」
後方に控える言葉が篠笛を手に妹の名を呼ぶと、元気のいい返事と共に少女が舞台に躍り出る。
白地に赤い紅葉がちりばめられたデザインの浴衣。
帯も赤色で、その手には扇子が握られていた。
「では、お願いします!」
文の合図と共に演奏が始まる。そして誘われるようにゆったりとした舞いを披露する文。
紡がれる言の葉は淡い恋心を唄う。
口に出さずとも傍にいるだけでいいのだという想いを込めて。
奇しくもそれは、先ほどLeo/needが紡いだ歌詞とは真逆のものだった。
たっぷりと余韻を残しつつ、舞いと演奏は終わりを告げる。
そこに送られる拍手はなく、見た者全てがただ息を呑んでいた。
「──ありがとうございました」
曲の雰囲気をそのままに、ゆったりとお辞儀をする文によってようやく現実に引き戻される。
これで、お互いの演奏が終わった。
「さて、審査員諸君。判定と行こうではないか。
Leo/needが良いと思うならば右の手を、我々が良いと思うのならば左の手を挙げてほしい」
感想を待たずして千紗都が前に躍り出て判定を促す。
人数は奇数、意見が割れることはない。促したのも相談の余地を与えないためだった。
熟考の末、各々の手が上がる。
────全員が、右手を上げていた。
「やっ、たああああ! 勝ったよいっちゃん! ほなちゃん! しほちゃん!」
「え、嘘……本当に?」
そんな判定を見て咲希が感嘆の声をあげる。
息を呑むほどの圧倒的な技量を見せつけた4人。しかし評価はLeo/needの勝利を意味していた。
「……待ってください。どうして、私達なんですか」
そんな中、志歩だけが反対の意を唱える。勝利は事実ながら、納得がいかないように。
それを聞いて、真っ先に口を開いたのは冬弥であった。
「確かに鶴音達の演奏は圧倒的だった。……ただ、それだけだった」
「音楽に馴染みのない人とか、そういう人は鶴音さん達を選ぶかも知れない。それでも、たぶん違いがあるなら」
「Leo/needの皆には、想いが籠ってた。こうありたいっていう、想いが伝わってきた」
奏と寧々が言葉をつなぐ。それが2つの音色を分けた決定的な差。
こうして、Leo/needと言葉達による勝負は幕を閉じた。
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「いやー、完敗だったねー」
「うーん、いい線いってると思ったんですど、やっぱりプロを目指す先輩達は違いますね!」
「そうだね。まあ、これは仕方ないかな」
「勝負は勝負だからな。終われば別になんということもない。さて、我は先に失礼するぞ」
片付けをしつつ言葉を交わす4人。
敗北を期したというのに、皆は逆に清々した表情を浮かべていた。
「すまない、ちょっといいか」
そんな中、立ち去ろうとした千紗都の前に立ちはだかったのは冬弥。
この中で唯一、彼女に入り用の人物であった。
「おお、久しいな。どうした、我に入り用か?」
「差し支えなければ教えてほしい。君の祖父は雲雀源治郎、という名前ではないか?」
「……………」
その名前を聞くや否や、千紗都は目元に影を落とした。
「……ああ、そうだが」
「なら、君は──」
「すまない、我はここで失礼する」
傍を通り抜け、千紗都はその場を後にする。
不意にそれを目にした言葉は、思わず冬弥に駆け寄った。
「青柳君。雲雀さんと何かあった?」
「いや、なんでもない……こちらの話だ」
そんな言葉をかわし、冬弥も会場を後にする。
言葉の中には、そんな2人に対する疑念がいつまでも残り続けるのであった。