荒野の少女と1つのセカイ   作:kasyopa

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第3部中章「生者の特権、死者の冷遇」
第1話「何度目かの出会い」


 

Leo/needとの対戦を終えて暫く経ったある日、言葉の姿は意外な所にあった。

周囲の機械から鳴り響く騒音にも似た効果音と音楽。色彩鮮やかな照明。

普段は静かな場所を好む彼女が1人で訪れることのない場所、ゲームセンター。

 

「たしかここでやってる一番くじ……だよね」

 

バーチャル・シンガーの一番くじ。

その発売初日にいけない事が発覚した妹の代役として、その場を訪れていた。

文から送られてきた文面をスマホで確認しつつ、店内をさ迷う。

 

やがてカウンターにたどり着き購入。

結果は芳しくなかったものの目的は達成できた為、その場から離脱を図った。

 

「ぎゃーーーー!」

 

そんな店内に聞きなれた絶叫が木霊する。

神山高校にいればほぼ確実に聞くであろう、絶叫が。

何事もないだろうがここはあくまで公共の場。

もしもの可能性を感じ言葉は声のした方へと歩を進めた。

 

様々なゲームが並ぶ中、ギャラリーの中央で金髪の青年が筐体に突っ伏している。

格闘ゲームの類いであるその画面には、大きく表示されるLOSEの文字があった。

 

「何故だ、何故勝てない……」

 

魂の抜けたような声で唸る司が、そこにいた。

 

「ハッハッハ! 弱い、弱すぎるぞ! 我を倒せる者はおらんのか!」

 

声をかけるよりも先に、対面から聞こえてきた1人の少女の声。

それもまた、言葉にとっては聞いたことのある声で。

回り込んでみればそこに千紗都の姿があった。

 

「あの、雲雀さん。何をされているのですか?」

「ぬおっ!? 審判……いや、鶴音ではないか! こんなところで会うとは奇遇だな」

「そうですね。こういったところにはあんまり来ないので」

「ならば冥土の土産として見ていくがいい。我の華麗なる武勇伝の誕生をな」

 

ギャラリーよりも近くに寄り画面を眺める。それはいわゆる格闘ゲームというものであった。

ゲームに疎い彼女でも、長い歴史を持つジャンルのひとつとして認識している。

 

新たにラウンドが開始され、千紗都はガードを固める司のキャラを切り崩しにかかった。

投げから繋がるコンボ、下段と中段の使い分け、めくりも活用しあれよあれよという間に体力を削っていき……

 

「ぐわああああーー!!」

 

決着が着くと同時に響く司の声。

よく見れば他のラウンドもすべて千紗都が獲得し、完全勝利を決めていた。

 

「ふむ、暴れが刺さってパーフェクト……とまでは行かなかったがまあよい。

 さあ、誰か我を倒せる者はおらんのか!」

「とはいってもよ、これで10人抜きだぜ」

「ああ、ここにいるやつじゃ勝てっこねえよ……」

 

ギャラリーの陰口が言葉の耳に入る。どうやら彼女はここらでも相当強いらしい。

現にギャラリーである年上の青年達も怖じ気づいていた。

 

一方で、それにしても、と言葉は千紗都の様子を眺める。

あの演奏を終えて冬弥と会話していた時、明らかに様子がおかしかった。

普段は他人の事に首を突っ込まないものの、

これまで彼女と関わりを持ち気がかりな点がだんだんと増えている。

そしてなにより、自分の音楽に新たな意味を与えてくれた人物だ。

その恩返しとして、何か力になれたらと願っている。

しかし、今の彼女にそんな隙など存在しなかった。

 

「なんか妙に騒がしいと思ったら……司、何やってるの」

「おお、寧々じゃないか! 丁度いい所に来てくれた!」

「別に、いつもなら帰る予定だったけど……この騒ぎ、何?」

「実は先ほどからこの台を占拠している者がいると聞いてな。

 このオレが成敗してやろうと思ったのだが……」

 

所変わって司の方にはその騒ぎを見かけた寧々がやってきていた。

その声はゲーム機の騒音に掻き消され、言葉達の元へは届かない。

その姿もお互い筐体で隠れており確認することはできなかった。

 

どうやら千紗都の連勝記録の裏にはそういった理由が含まれていたらしい。

とは言っても格闘ゲームはそういう対戦で稼ぐシステムなのだから、仕方ないとも言える。

 

「ふーん……そんなに強いんだ。なら少し試してみよっかな」

 

これまでの過程を説明された寧々は席に座り、硬貨を投入した。

 

 

 

「ぐああああああ!!!」

 

それから暫くして、店内に千紗都の叫びが上がる。

画面には大きくLOSEの文字が表示され、ラウンドのひとつもとれていなかった。

その上相手の体力ゲージは1ミリも削られていない。

 

「動きが先程とは全然違いましたね。まるで人が変わったような……」

「ええい、もう一回だ!」

 

懲りずに挑戦する千紗都であったが、結果は何回やっても同じ。

先程の10人抜きも嘘かと思えるまでに手玉に取られていた。

 

「(先程の動きから雲雀さんもうまい部類のはず。一体どんな方が……)」

 

言葉の評価も間違いではない。ただ対面にいる相手の格が更に上というだけ。

千紗都の元を離れ、相手の様子を確認しようと顔を覗かせる。

 

「おお、言葉ではないか。お前も寧々の勇姿を拝みに来たのか?」

「え、草薙さん?」

 

そこでようやく、対戦相手が寧々に刷り変わっていることに気づく。

眼光鋭く画面を見つめる彼女は、まるで別人の様に思えた。

 

「ごめん鶴音さん、少し待ってて。先にこいつを叩きのめすから」

 

挨拶ができない事を詫びながらも、その手つきは衰えない。

華麗なコントローラー捌きによって、千紗都のキャラを打ち負かした。

 

「流石は寧々。オレの手も足も出ない相手を難なく打ち負かすとは」

「別に、アンタが下手なだけでしょ」

「なにー! 人が珍しく誉めてやってるというのになんだその反応は!」

 

2人のやり取りを見て、神高祭での事を思い出す言葉。

随分と長い時間が過ぎた気もするが、2人の関係は相変わらずらしい。

そんな光景を眺めていると、反論する司を無視して寧々が話しかけてきた。

 

「とりあえず、こんにちは鶴音さん。こんなところで会うなんて珍しいね」

「そうですね。普段は来ないのですが、今日は妹のお使いに。草薙さんはよくいらっしゃられるんですか?」

「たまに、ね。新作の格ゲーとか出たときはとりあえず触るようにしてるかな」

 

言葉を交わせば、先程の気配はどこへやら。

そんな気迫の緩急に内心驚きながらも、会話を続ける。

 

「なるほど、それでこんなにお上手なんですね」

「まあね。家でも基本的にゲームしてるから……」

「おい鶴音! 一体何をしている、早く我の応援でも……っと、

 ワンダーステージのショーキャストではないか」

「あ、この前鶴音さん達と一緒にいた……」

 

すると、言葉がいないことに気付いた千紗都が乗り出してくる。

しかし彼女の知人であり、自らも知る人物の為かあっけなく身を引いた。

 

「とりあえず、ここから移動しましょう。他にプレイされたいお客さんもいらっしゃいますでしょうし」

「そうだね、それで、司はこれからどうするの?」

「ようやくこっちを向いたか……まあオレも特に予定はないぞ」

「ふむ、ならば共に昼食といこう。交流を深めるにはうまい飯と相場が決まっている」

 

こうして4人は手頃な店を探し、ゲームセンターを後にするのであった。

 

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