休日のお昼時ではあるものの、なんとか空いているカフェを見付け入る4人。
「いらっしゃいませー……!?」
流れ作業で挨拶する店員が思わず千紗都を凝視する。
千紗都の服と装飾品はいつも通り。やたら目を引くのはここでもかわりなかった。
「あの、4人ですが大丈夫ですか?」
「ああ、はい! 4名様ですね。テーブル席までご案内します」
通路を通る過程でも、その容姿は客の目を引き食事の手を止めるものも居る始末。
しかし千紗都本人が気にする様子はまるで無い。
注文を済ませお互いに向き合うと、司が口を開いた。
「しかし前から気になっていたが……何故そのような格好をしているんだ?」
「ああこれか。我の体は日光に弱くてな。こうでもしないと焼かれてしまうのだ」
その言葉を聞いて、容姿から彼女の患っているものを割り出す司と寧々。
それでも、その服装から彼女が他の客から向けられていた奇異な視線が気になっていた。
「それなら、日焼け止めクリームは? 最近のは全然焼けないし……」
「はは、その辺りは無論常用しているとも。2重3重の策を講じるのは当然だからな」
ここまで言われてしまえば反論の余地はない。
何より本人が気にしていないことを、事情の知らぬ他人がとやかく言う事もなかった。
「さて、そちらの質問は終わりか。ならばこちらの質問にも答えてもらいたいが……よろしいか?」
「お、おお……それは構わないのだが……」
「えっと、答えられる範囲でお願いしたい、な……」
何気ない疑問でしか無かったが、彼女はさも重大そうに構え、その勢いのまま質問を飛ばす。
その口調も相まって思わず2人は身動いでしまった。
「なに、そんなに大したことは聞かぬとも。貴殿らの想いについて聞きたいだけなのだ」
「オレ達の……想い?」
「ああ。貴殿らの本懐といってもいい。
何せあれだけ素晴らしいショーを築き上げているのだ。並大抵の感情で出来る代物ではあるまい」
「えっ、私達のショー見てたの? 気づかなかった……」
「それは仕方あるまい。他の観客を驚かせぬようこっそりな。
ハロウィンショーやクリスマスショーといったものから、
魔法学園の文化祭を模したものなども見せてもらったぞ」
期待に満ちた眼差しで2人を見る千紗都。
彼女はこれでも司達のショーを何度も見てきている。
それこそ自らのとっておきの場所に選ぶほどだ。よほど気に入っているのだろう。
それ故にショーの変化を知るのは容易く、その想いについても興味が沸いたのだろう。
『だが与えられるだけではいけない。それは本当の想いとは呼べない。
我々が生きているのは現実という名の世界だ。
理想に頼りきっていては、真に生きているとは呼べん』
一方で言葉は、かつて千紗都が口にした言葉を思い出していた。
恐らくこの質問はその確認。自分が抱いた想いなのか、他人から与えられた理想なのか、と。
「ふっふっふ、ならば聞かせてやろう。このオレ、天馬司の本当の想いを!」
「ちょっと、周りに他のお客さんも居るから程々にしてよね」
「何をいう! オレ達のファンの期待に答えなくては、スターとしての名が廃る!」
しかしそんな不安もどこ吹く風。司は千紗都のお膳立てに気を良くしたのか声が段々を大きくなる。
見かねた寧々が内心焦りながらも抑えにかかるが、意味をなさない。
「オレの本当の想い。それは『スターになって皆を笑顔にする』だ!」
その答えに一瞬目を丸くした千紗都だが、すぐにもとの表情へと戻る。
次に目を向けたのは、寧々の方だった。
「そうか。では、貴女は?」
「私は……私も、皆と一緒にショーがしたい。皆を笑顔に出来る、そんなショーが」
「……そうか」
それを聞き終え、千紗都は静かに目を閉じる。
「どうやら我は貴殿らを勘違いしていたらしい。全く、目先だけで判断するとは、らしくない」
「「……?」」
そこで4人の注文していた料理が届き、会話はお開きとなるのであった。
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その後千紗都と言葉は2人と別れ、人通りのない道を歩いていた。
「今日は付き合わせて悪かったな。思いの外注目も浴びてしまっただろう」
「いえ、天馬先輩は常にあのような方ですし。まあ、多少疲れはしますけど彼の本懐が聞けてよかったです」
「そうであろう。動機を知ればもっと面白くなる。観客として演者の想いは汲み取らねばな」
「そう、ですね」
演者の想い。それが無かったが為に自分達はLeo/needに敗北を喫した。
勝敗自体は模擬ということもあり彼女らにとって重要ではないが、
言葉としては彼女がどのような想いで音楽と向き合っているか気になっていた。
「雲雀さんは……自分の本当の想いをご存じなんですか?」
それは当然のように質問していた。
他愛ない疑問。しかしセカイを、バーチャル・シンガーを知る言葉にとっては大きな意味がある。
「どうした藪から棒に」
「ああいえ、雲雀さんが最近他の方々に質問されているので少し気になって」
目を丸めながらも質問で返す千紗都。
理由は他でもない、最近の態度や行動から導き出された疑問でもあった。
『ふむ、ならば問おう。その想いの果てに望む物はなんだ? その想いを、何に繋げる?』
『なに、そんなに大したことは聞かぬとも。貴殿らの想いについて聞きたいだけなのだ』
彼女は他者に『想い』に対して人一倍敏感であった。
そしてどのようなものであっても、彼女は受け入れている。
それはまるで自分なりの答えを見つける為に、駆け回っていた言葉のようで。
疑問の視線で千紗都を見つめていると、普段と違って重々しく口を開いた。
「ああ、知っていたとも。だがそれはもう叶わない。
どれだけ懇願しようとも、その想いに手が届くことはない」
「それは、一体どういう……」
そこまで話したところで駅に到着し、改札前で立ち止まる千紗都。
目的地だぞ、と視線を送ってくるも言葉は納得できない。
このまま彼女にうやむやにされるのはごめんだった。
「雲雀さんからは話してくれないのですか?」
「それに関しては我より詳しい者がいる。その者から事情を聞くことだな」
背を押され、改札を通る言葉。背を向け手を振る千紗都。
威勢のいい彼女が、その時ばかりは小さく見えたのだった。