皆の頼れる学級委員 前編
「それじゃあこれから委員会を決めていくぞー」
担任の教師が教壇に立ち黒板へこの学校にある委員会の名前を書きだしていく。
学級委員長が一番右に書かれている。
「というわけでまずは学級委員長からだな。誰かやりたい人は──流石にいないか」
このクラスに積極的な生徒はおらず、誰一人として手を上げることはなかった。
それに加えて地域毎に分けられ学校に通う小学校・中学校と違って全員が知らない人が大半。
誰かが推薦するわけでもなく、また教師も同じ立場にあった。
「なら、私がやりましょうか?」
そんな中で一人の女子生徒が手を上げる。
赤みを帯びた長い黒髪を後ろで綺麗に一つに括り、紫の瞳をした少女。
眼鏡を着用しており、一言で表すならば文学少女というのが適切であった。
「確か……つるねだったか? やってもらえるか?」
「鶴音(たずね)です。はい。他の人でやりたい人が居なければ、ですけど」
「皆、鶴音が委員長になるが問題ないな?」
自己紹介の時に名前と出身地くらいしか言わなかったために消極的なのかと思われていたが、
意外な人物が名乗りを上げたことに多少クラスがざわめく。
しかし自分がやらなくてもいい、という助け舟にあやかる為に皆が肯定的であった。
教師からしてもこれで時間を潰すくらいならと、名簿から黒板に名前を書き写す。
「では鶴音、早速で悪いが委員長としての仕事を任せても良いか?」
入学して間もないとはいえこれはクラスの行事に近い。
教師ではなく同じ生徒が進行を務めれば自然と一体感も生まれるだろう、
とのことで司会は鶴音に代わり壇上と上がった。
「ではこれから他の委員会も決めていきますね。
と、それよりも先にバイトや習い事がある人は挙手してください」
ここからどういった采配を見せるのか、というところでいきなり変化球を飛ばした。
お役免除されるかもしれない、という甘い考えから多くの生徒が挙手する。
「じゃあ、挙手した方はそのバイトや習い事の内容を教えてください」
「「「っ!?」」」
今度はプライベートに突っ込みかねない直線的な質問にクラス全体がたじろぐ。
その言葉を聞いて語れる理由が無く手を下げる者が大半で早々に不穏な空気が立ち込め始めた。
傍から見ている教師もやりすぎでは、と思い静止の声をかけようとして。
──それでも一人動じずに手を上げ続ける者がいた。
「東雲君ですね。どうぞ」
「地元のアパレルショップでバイトをしているのと、
後は習い事、って程じゃないけどなにより優先させたいことがあります。
出来れば今回委員会の参加は見送ってもらえると嬉しいです」
「なるほど。クラス行事や学校行事には参加出来そうですか?」
「それくらいなら大丈夫です。そこまで落ちぶれてはないんで」
含みのある言葉を交わす生徒同士の会話は傍から見ている生徒の息を呑む。
なにせ二人共の目が本気なのだと見て取れたからだ。
永遠かと思われる沈黙の時に終止符を打ったのは、意外にも鶴音の方だった。
「解りました。それなら委員会の参加は見送っておきますね。他の人は……あれ?」
満足げに着席する男子生徒──東雲彰人との会話を終えて辺りを見た鶴音だったが、
皆が疲れ切った表情や安堵の表情を浮かべるだけで肝心の挙手をしていなかった。
「えっと、さっきみたいに理由を言ってくれれば出来る限り見送りますけど」
「「「(誰もあんなに堂々と言えるか!!)」」」
こうしてこのクラスに圧倒的な存在感を放つ二人の生徒が君臨することになる。
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「──って感じのことがあったよねー」
「その話、今持ってくる?」
というのは昔の話。
半年という時間が経過した現在ではそんな事もいい思い出であり、
率先してクラスを統率する斬新さと寛容さを見せつけそこそこ慕われている。
「あれから色々あったけど委員長には助けられてます。ありがとうございますって話」
また、自然と学校にも慣れることで気の合う人間を見つけ友というグループを形成していく。
言葉もそんな存在感を放ったことにより一人のクラスメイトに目を付けられ、
よく話したり課題を写させたりとの仲には発展していた。当然写すのは友達の方だが。
「あ、東雲君だ」
噂をすれば影、というべきか部活の助っ人から戻ってきた彰人とばったり出くわす。
「げっ、委員長」
「げっ、じゃないよ。先生が今月末のテストのこと心配してたよ」
彼もまたクラスの運動部に時折助っ人として呼ばれるまでの地位を獲得し、
自分なりの学園生活を謳歌している。
しかし何せテスト範囲を山勘で絞って行うため、外れる場合の方が多く赤点常習犯となっていた。
高校ともなれば生活態度はもとよりテストの結果が成績に響いてくる為、
結果的に学級委員長である彼女の耳に入ることが多い。
「今度は大丈夫だ。今度はな」
「……あんまり言わないけど、ほどほどにね」
悪そうな笑みを浮かべる彼に対して、
やれやれと目を伏せる言葉はその場から友達と共に立ち去る。
勉強の要領は悪くないのだが、その活かし方が悪いのは知っていても指摘は出来ない。
そういう間柄ではないし、何よりそこまで踏み込んでいい問題ではない。
あくまでクラスメイトの関係でしかないのだ。
「あ、委員長。今度またノート見せてもらっていい?」
「この前見せた気がするけど……まあいいよ。どのノート?」
「世界史かなー。委員長得意だったよね」
そんなこんなで、彼女達の日常は過ぎていくのであった。