荒野の少女と1つのセカイ   作:kasyopa

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第4話「賽の河原」

いつの日か訪れた和食の店へと訪れた2人は個室に入り、注文を済ませて向き合う。

出された茶をすするも、千紗都の閉じられた眼が開かれる事はない。

 

「さて、我についてはどこまで聞き及んでいる?」

「雲雀家が音楽の名家であることと、貴女のお祖父さんについて。そして……」

 

そこまでいって躊躇う。

3年前の事故と冬弥は言っていたが、一般的にはそう処理されているだけで、

千紗都が語ったことが真実であると理解していた。

己が無知なことが今更恨まれる、そんなやるせなさに言葉は戸惑っている。

 

「どうした、貴様の口から語らねば始まるまい。それとも、我の口から言わせるつもりか?」

「! それは……」

 

余りにも酷なことだと理解している。

彼女のためを思うなら自分で事実を告げるのが最も適切。

相手の覚悟に付け入る形になるものの、言葉は進むことを選んだ。

 

「貴女が、既に死んでいる、と」

「……………」

 

その言葉を聞き届け、笑顔をこぼす千紗都。

まるでそれを待っていたと言わんばかりの態度で、湯飲みを置いた。

 

「審判者よ、よくぞ逃げず我へと踏み入った。その勇気を称え、我の真実を今説こうではないか」

「ありがとうございます」

 

以前の言葉ではここまで誰かに踏み入ることはなかった。

これもある意味で恩返しという動機に過ぎないが、随分変わったように思える。

 

「雲雀家の歴史は常に音楽と共にある。

 あるものは演奏家として、あるものは作曲家として代々名を残してきた。

 そしてその中でも最も秀でていたのが我が祖父、源十郎というだけだ」

 

彼女は自分の祖父がどれだけ音楽に関わって来たのかを語る。

作曲者や指揮者として数々の名誉を欲しいままにし、今は協会の重鎮……といってもほぼトップに君臨していた。

自分の血を引く千紗都の父も有名な楽団に属し、その名に恥じぬ活躍を見せる。

そして後に生まれた千紗都もクラシックにおいて秀でた才を持ち、

祖父からの英才教育を施されていた。

一度は投げ出そうかとも考えたものの、ある時見たショーを境に自らもそれを望むようになる。

 

その矢先に起こったのが、あの事故。

高名な家柄故、世間体からのバッシングは想像を絶するものであった。

言葉の下した判断も、裏で金が動いていたり、権力で押し黙らせたのでは、と憶測が飛び交う。

 

その結果両親の自殺、という結末に至るのだが──それを事故による一家の全滅という形で処理された。

それは紛れもなく、祖父の圧力によるもの。

自らの名と栄光にこれ以上泥を塗らないため、自殺による現実逃避という目を欺くため、

事故の被害者として、世間体からの風当たりを弱める。

発生当初は罰が下されたと騒ぐ者もいるが、『死』という終着点にいつまでも執着するものはいない。

 

「全く、祖父の身勝手さにもほとほと呆れさせる。

 雲雀の名に恥じぬ人物であれと育てられながら、今度は名を広めることすら許さぬと来た」

 

現実離れした事実ほど、信憑性が薄れるのが人の性。

名前を変えずとも、古くからの友人でない限りその存在に気付くことはない。

そういった判断の元に千紗都はこの地にやって来たのだという。

 

「……………」

 

言葉は何も口にすることはなかった。

ここであらゆる言葉を漏らしても、彼女を励ますことはできないのだと。

同情など彼女は望んではいない。そういう人間だと理解していたからだ。

 

「さて、ここまでで何か質問はないか?」

「あ、では……何故それなら私の裁きを喜んだんですか?

 その物言いだと音楽は忌避するもののように聞こえますが」

「ああ、その事か。それは──」

 

そこまで話したところで、店員が注文した品を持ってきた。

会話は一時中断され食事へと移る2人。

しかし言葉は答えを待っている為か上手く喉を通らなかった。

千紗都が半分ほど食べ終えたところで手を止める。

 

「どうした、口に合わなかったか?」

「ああいえ、大丈夫です。ただ箸が進まないといいますか」

「ふむ……審判者相手に引き伸ばすのも酷であったか」

 

露骨な変化に彼女も思わず手を止め、再び語る姿勢を整える。

 

「それが『両親のような演奏家になりたい』という、我の本当の想い──否、夢に繋がっていたからに他ならん」

 

彼女が告げたのは、彼女自身が抱く想い。

これまでかわされ続けていた為に、理解することが叶わなかった真意。

それに差異はあるものの、どこか言葉の抱いた願いと似ている。

しかし、彼女はこうとも口にしていた。

 

『ああ、知っていたとも。だがそれはもう叶わない。

 どれだけ懇願しようとも、その想いに手が届くことはない』

 

と。

 

「それならおかしいです。雲雀さんはその想いが叶わぬとも仰っていました。

 それでは私の裁きは貴女にとって辛いものなのでは」

「当然だ。断罪とは罰とはそういうものだろう?

 我は言ったはずだぞ。幾多の罰の中で音楽(それ)を選び取るとは、とな」

「ですが、ですがそれはあまりにも……」

「おっと、勘違いしてくれるなよ? 我は死者であり罪人だ。

 そんな者は夢を見る資格すらないのだからな」

 

それから2人の間に会話が交わされることなく。

言葉はあの時のように完全に手が止まってしまうのであった。

 

 

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