荒野の少女と1つのセカイ   作:kasyopa

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第5話「自分の望み」

 

言葉は家に着くと叔父と叔母への挨拶もほどほどに、自室のベッドに倒れこむ。

自分を突き動かしてくれた人物に対する答えが、ただ苦しめていたという事実。

恩を仇で返すような仕打ちに、自らがうちひしがれている。

 

「こんなこと、前にもあったな……」

 

いつかの事故や入院時のやり取りを思い出しつつも、言葉は天を仰ぐ。

天井に備えられた照明の光で目が眩み、逃げるようにスマホへと視線を移した。

連絡用のSNSにはこれまでの経緯で増えた連絡先が表示されている。

その中でも最も付き合いの長い友人の物を眺めていた。

 

『私は言葉の友達なんだ。友達を助けるのに理由もなにもないよ』

 

いつか自分を守ろうとしてくれた言葉を思い出す。

こうなってはいつかのように彼女に勘づかれるだろう。

なら、勘づかれる前に自分から話してしまえば……と、そんな考えが頭を過った。

 

「今起きてる? っと……」

 

メッセージを送信してふと思い直す。この話を他人にしていいものかと。

いくら友人とはいえ彼女は無関係であり、

なにより千紗都の過去をおいそれと伝えるわけにはいかない。

しかしメッセージには既読がついており、時既に遅しといったところだった。

 

【どしたの言葉、連絡なんて珍しいじゃん】

【あ、ううん。何でもないよ】

【いや、何でもないってことはないでしょ】

 

これ以上突っ込まれては分が悪い。

言葉が人を動かす天才だとしたら、彼女は人を見通す天才だ。

それは友人である言葉相手でも容赦はしない。むしろ友人だからこそ容赦をしない。

真実をひた隠し、自壊するのを見てきた彼女だからこそ行う荒療治であった。

 

対抗策としてだんまりを続け、SNSも閉じて安泰を得る。

パソコンを起動して時間でも潰そうかと体を起こすと、通知音が立て続けに鳴り続けていた。

流石にうるさいのでログを確認すると、スタンプ爆撃の嵐。

確認と同時に既読が付くも、スタンプ連打は止まらない。

 

【怒るよ?】

【ごめん】

 

これも日頃の馴れ合いだとお互いに理解しているが、きっちり止める理那も律儀であった。

そんな彼女に心が少し軽くなった言葉は、思いきって通話を繋げることにする。

 

『お、珍しいじゃん言葉が通話なんて』

『最近はそうでもないよ。雲雀さんとか宵崎さんとはよく通話してるし』

『へー。ま、それはそれとして、何かあったの?』

『うん、実はね──』

 

こうして言葉は悩みの種を理那に打ち明けた。他でもない、友人として。

 

 

 

『そっか』

 

全てを話し終えた言葉を労ったのは、たった一言。

かなりあっさりとした答えに肩透かしを食らいつつも、次の言葉を待った。

彼女のことならこの後に来るのは大体──

 

『それで、言葉はそいつにどうしたいって思ってるの?』

 

質問だった。予想に対して当たらずも遠からずといった所。

奏がまふゆに対して追求した時のように、覚悟について問いかけていた。

 

『私はあの人を救えない。私にはそんな力なんて残ってないから。……でも』

『でも?』

『私は、あの人の助けになりたい。私があの人の人生に踏み入った時点で、もう無関係とはいえない。

 せめてこの時だけでも、一緒に居てあげられたらって思う』

 

静観するだけの時は終わり、誰かのために人生を使うと決めた少女は止まらない。

それが恩返しの域を越えていることに気付いてた。

 

『なるほどね。それが言葉の見つけた答えなんだ』

 

言葉の答えに対し、感慨深いように答える理那。

それはまるで長年面倒を見てきた親のような反応であった。

 

『どう、かな。理那はどう思う?』

『いや、私がどう思うかなんて関係ないでしょ。

 言葉がその答えで進むか諦めるかのどっちかなんだからさ』

『それは……そうだけど』

 

反応の薄い理那に戸惑い答えを求める言葉であったが、いつかの日のようにバッサリ切り捨てられる。

言うは易し行うは難し、と言うように言葉だけでは覚悟は伝えられない。

しかし自分で言うように、今の言葉には誰かを救う力など残っていなかった。

それは誰よりも自分がわかっている。

 

『私だけじゃ、きっとそれすら叶わない。だから……だから……』

 

『理那。私の友人として、力を貸してほしいの』

 

胸の奥底から引きずり出した言葉。心なしか息が上がっている。

慣れない事はするものじゃない、と思いながらも自分が放った発言を思い出していた。

 

『友人、ね。それを出されちゃ断るわけにはいかないかな』

『怒らないの?』

 

我ながら随分とズルい事を言っている。

相手が友人という言葉に弱いことを知りながら利用した。

そんなことは理那にとってお見通しだろう。しかしこの少女はその先を見通していた。

 

『いや、怒るわけないでしょ。むしろこっちの方こそ大きな借りがあるからね』

『でもそれは一回やり直したし、なかったことにすれば……』

 

理那の言う借りとは恐らくこれまでの偽りの日々のことだろう。

言葉にとってはそれに恩を感じているので、ここもまた奇妙な関係といえた。

 

『無かったことにしても無理無理。なにより人を助けるのに理由なんていらないでしょ』

『理那……』

『おっと感謝はまだ早いよー。それより先にどうやってあいつを元気付けるかが先!』

『そうだね。じゃあ、どうしよっか……』

 

こうして2人はああでもないこうでもない、と悩みながらも夜を更かせる。

といっても彼女に対する情報が少なすぎるので、いい案が思い浮ぶことはない。

 

『……また、フェニックスワンダーランドにでもいってみる?』

『そうだねー。あいつもとっておきの場所だって言ってたし』

『なら、それで』

 

こうして2人が行き着いた答えは、ひどくありきたりなもの。

それでもできる限りの事をしようとプランを練るのであった。

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