言葉は家に着くと叔父と叔母への挨拶もほどほどに、自室のベッドに倒れこむ。
自分を突き動かしてくれた人物に対する答えが、ただ苦しめていたという事実。
恩を仇で返すような仕打ちに、自らがうちひしがれている。
「こんなこと、前にもあったな……」
いつかの事故や入院時のやり取りを思い出しつつも、言葉は天を仰ぐ。
天井に備えられた照明の光で目が眩み、逃げるようにスマホへと視線を移した。
連絡用のSNSにはこれまでの経緯で増えた連絡先が表示されている。
その中でも最も付き合いの長い友人の物を眺めていた。
『私は言葉の友達なんだ。友達を助けるのに理由もなにもないよ』
いつか自分を守ろうとしてくれた言葉を思い出す。
こうなってはいつかのように彼女に勘づかれるだろう。
なら、勘づかれる前に自分から話してしまえば……と、そんな考えが頭を過った。
「今起きてる? っと……」
メッセージを送信してふと思い直す。この話を他人にしていいものかと。
いくら友人とはいえ彼女は無関係であり、
なにより千紗都の過去をおいそれと伝えるわけにはいかない。
しかしメッセージには既読がついており、時既に遅しといったところだった。
【どしたの言葉、連絡なんて珍しいじゃん】
【あ、ううん。何でもないよ】
【いや、何でもないってことはないでしょ】
これ以上突っ込まれては分が悪い。
言葉が人を動かす天才だとしたら、彼女は人を見通す天才だ。
それは友人である言葉相手でも容赦はしない。むしろ友人だからこそ容赦をしない。
真実をひた隠し、自壊するのを見てきた彼女だからこそ行う荒療治であった。
対抗策としてだんまりを続け、SNSも閉じて安泰を得る。
パソコンを起動して時間でも潰そうかと体を起こすと、通知音が立て続けに鳴り続けていた。
流石にうるさいのでログを確認すると、スタンプ爆撃の嵐。
確認と同時に既読が付くも、スタンプ連打は止まらない。
【怒るよ?】
【ごめん】
これも日頃の馴れ合いだとお互いに理解しているが、きっちり止める理那も律儀であった。
そんな彼女に心が少し軽くなった言葉は、思いきって通話を繋げることにする。
『お、珍しいじゃん言葉が通話なんて』
『最近はそうでもないよ。雲雀さんとか宵崎さんとはよく通話してるし』
『へー。ま、それはそれとして、何かあったの?』
『うん、実はね──』
こうして言葉は悩みの種を理那に打ち明けた。他でもない、友人として。
・
・
『そっか』
全てを話し終えた言葉を労ったのは、たった一言。
かなりあっさりとした答えに肩透かしを食らいつつも、次の言葉を待った。
彼女のことならこの後に来るのは大体──
『それで、言葉はそいつにどうしたいって思ってるの?』
質問だった。予想に対して当たらずも遠からずといった所。
奏がまふゆに対して追求した時のように、覚悟について問いかけていた。
『私はあの人を救えない。私にはそんな力なんて残ってないから。……でも』
『でも?』
『私は、あの人の助けになりたい。私があの人の人生に踏み入った時点で、もう無関係とはいえない。
せめてこの時だけでも、一緒に居てあげられたらって思う』
静観するだけの時は終わり、誰かのために人生を使うと決めた少女は止まらない。
それが恩返しの域を越えていることに気付いてた。
『なるほどね。それが言葉の見つけた答えなんだ』
言葉の答えに対し、感慨深いように答える理那。
それはまるで長年面倒を見てきた親のような反応であった。
『どう、かな。理那はどう思う?』
『いや、私がどう思うかなんて関係ないでしょ。
言葉がその答えで進むか諦めるかのどっちかなんだからさ』
『それは……そうだけど』
反応の薄い理那に戸惑い答えを求める言葉であったが、いつかの日のようにバッサリ切り捨てられる。
言うは易し行うは難し、と言うように言葉だけでは覚悟は伝えられない。
しかし自分で言うように、今の言葉には誰かを救う力など残っていなかった。
それは誰よりも自分がわかっている。
『私だけじゃ、きっとそれすら叶わない。だから……だから……』
『理那。私の友人として、力を貸してほしいの』
胸の奥底から引きずり出した言葉。心なしか息が上がっている。
慣れない事はするものじゃない、と思いながらも自分が放った発言を思い出していた。
『友人、ね。それを出されちゃ断るわけにはいかないかな』
『怒らないの?』
我ながら随分とズルい事を言っている。
相手が友人という言葉に弱いことを知りながら利用した。
そんなことは理那にとってお見通しだろう。しかしこの少女はその先を見通していた。
『いや、怒るわけないでしょ。むしろこっちの方こそ大きな借りがあるからね』
『でもそれは一回やり直したし、なかったことにすれば……』
理那の言う借りとは恐らくこれまでの偽りの日々のことだろう。
言葉にとってはそれに恩を感じているので、ここもまた奇妙な関係といえた。
『無かったことにしても無理無理。なにより人を助けるのに理由なんていらないでしょ』
『理那……』
『おっと感謝はまだ早いよー。それより先にどうやってあいつを元気付けるかが先!』
『そうだね。じゃあ、どうしよっか……』
こうして2人はああでもないこうでもない、と悩みながらも夜を更かせる。
といっても彼女に対する情報が少なすぎるので、いい案が思い浮ぶことはない。
『……また、フェニックスワンダーランドにでもいってみる?』
『そうだねー。あいつもとっておきの場所だって言ってたし』
『なら、それで』
こうして2人が行き着いた答えは、ひどくありきたりなもの。
それでもできる限りの事をしようとプランを練るのであった。