4人がネオフェニックス城前の広場に到着する頃には日が傾き始め、空が茜色に染まっていた。
自分達の他の来場者達で溢れており、各々が思い思いの言葉を呟いている。
その声からは困惑・期待・高揚といった感情が聞き取れた。
「確かに広いところだけど、ショーをするには設備が足りなくない?」
「そうだね。特別何か仕掛けがあるわけでもないし」
理那と言葉が辺りに目を向けても、それらしい設備は見当たらない。
これでは普段のような演出は望めないだろう。
そんな中、人混みの中から1体のロボットが現れた。
『ショーをご覧にナルカタデスね?』
「あ、えむちゃん達とショーやってるロボットさんだ!」
『ショーを御覧にナルカタは、ゼヒコチラのブレスレットをツケテクダサイ』
「ん? あ、神代センパイの子じゃん。ありがとねー」
ネネロボからブレスレットを受け取る文と理那。しかし……
「いや、我はいい」
「私もご遠慮しておきますね」
言葉と千紗都は丁寧に断る。
それに対して特にいうこともなく、ネネロボは他の客の元へと去っていった。
「言葉はともかくなんで千紗都は断ったのさ?」
「なにも必ず必要というわけではあるまい。
それに我はあくまで観客としてショーを楽しみたいのだ」
「ああ、そういう」
言葉は元より静観する側だが、常連でありながらそれを断った理由が理那には解せなかった。
しかし言葉が意味する事を理解し、多くを問わない。
「しかし先程の放送といい、先程のロボットといい、先輩方がこの件に深く関わっていそうですね」
「またクリスマスショーみたいな事が起きるのかな? 楽しみ!」
状況から冷静に分析する言葉と、一度のショーですっかり魅了され期待に目を輝かせる文。
ほどなくして開演を告げるブザーが鳴り響いた。
「さて、貴殿らの想い、しかと見させてもらうぞ」
誰にも聞こえない声で呟く千紗都は、しかと眼前を見つめるのであった。
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ショーの内容としては以下の通り。
偉大なる魔法使い『マイルス』が弟子である『シャオ』と共に、
焼け野原となった地で魔法を使い笑顔を取り戻していくという物語。
話だけではありきたりとも思える王道ストーリー。
しかし『マイルス』が魔法を使う度、アトラクションがライトアップされたり動き出したりと、
園内全ての施設がショーと連動していた。
「わわ、すごいすごい! 今度はメリーゴーランドが動き出したよ!」
「今度はパークトレインも来たよー。線路もきれいにライトアップされてる」
「なるほど、『パーク全てをステージ』というだけはありますね」
各々が思い思いの言葉をこぼした。
それでもショーは続いていき、様々なアトラクションに命が吹き込まれてく。
そして最後には、ネオフェニックス城がライトアップされ花火も打ち上がった。
「発想として無くはない。だが、実現させるには関係者の協力が不可欠。
なるほど、ここまでだったとは」
そんな光景をどこか遠い目で眺める千紗都。
その声は一歩引いたところでショーを見ていた言葉にだけ届いた。
「雲雀さんは、よく皆さんに本当の想いについて問われていましたね」
「我は本当の想いを見つけても、掴むことは叶わなかった。
だが、本当の想いの強さを知っている。それを忘れて夢を掴める訳もない」
失ったからこそ、その大切さを知っている。
皮肉にも彼女の行動は、そういう想いの元に成り立っていた。
「しかし叶わぬと自ら口にしながら、このような場所に赴いている。
過去に夢を貰ったこの場所ならあるいは、と心では願っているのかもしれない」
「雲雀さん……」
「そこは未練がましいと笑うところだぞ。……さて、ショーはまだ続いている。終わりを見届けるぞ」
少女はいつもの様にショーを見つめる。
その真意を引き出したのは、紛れもなくこのショーのお陰。
そんな輝かしい光景が目に焼き付いていた。
ショーもまもなく終盤。えむが語りの部分を演じている。
『マイルス』は床に臥せってしまい、『シャオ』が看病するも具合は悪くなる一方。
日はすっかりと落ち込んでしまい、それはまるで『シャオ』の心境を表しているようだった。
『誰かが笑えば周りもつられて笑顔になり、
そして自然と、前を向いて生きようとするエネルギーがわいてくるのだ。
それはまるで、魔法のようにな』
自分の想いを『シャオ』に引き継ぐように『マイルス』が言葉を連ねていく。
「笑顔……か」
「あっ、雲雀さん」
その言葉を聞いて、千紗都はおもむろにその場から離れていく。
その後ろを言葉が追い、それに気づいた2人も後に続いた。
「どうかなされましたか? もしかして具合でも」
「いや、我は大丈夫だ。気にせずショーを楽しむがいい」
「いえ、私もここにいます。目を離せばどこかにいってしまう気もするので」
「本当に、審判者には敵わんな」
広場の隅にあるベンチに腰掛け、さらに遠くの方から眺める千紗都。
スピーカーからも遠いこの場所では、役を演じるえむや司の声もぼんやりとしか聞こえない。
『だからな。長いあいだたくさんの笑顔に囲まれたシャオは、
もう立派に魔法を使えるようになっているはずだ。
いや、お前だけじゃない。みんな魔法使いなんだ。この場所にいる、みんなが──』
言葉が隣に腰を掛けた時、パーク内の照明が落ちる。
ショーを見ていた観客達も戸惑いの声をあげていた。
「全く、粋な演出だよ。死を暗示させるための暗闇とはな」
「……………」
しかしショーはまだ終わっていない。
ここからが本当の見せ場だと言わんばかりに、千紗都は舞台を見つめた。
暗闇の中でただ1人『
『あたしひとりじゃ、まだお師匠みたいに魔法を使えないかもしれなくて……。
だから、みんなの力を貸してほしいの!! 笑顔の──魔法の力を!!』
その呼び掛けに答えるように、観客一人ひとりが手を掲げ光が灯る。
それはまるで、それぞれが持つ魔法の力のようだった。
「まさかとは思いましたが、雲雀さんもこれを見越して?」
「ああ。パーク全てをステージとするなら、来場者も巻き込むだろうさ」
そんな光景をただの観客として眺める2人。
その腕に光は灯っていない。それでもショーは続いていく。
『お師匠、あたし、やります! みんなの笑顔の力を借りて──
みんなが笑顔になれるように! えいっ!』
掛け声と共にパーク中が光に包まれ、星となって全てを照らした。
「天の光は全て星。星の光は命の煌めき。これぞまさしく笑顔の魔法よな」
そんな中で、少女はそっと目を伏せるのであった。