荒野の少女と1つのセカイ   作:kasyopa

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第8話「一番星に背を向けて」

「おーい言葉ー! なにしてんのさー!」

「お姉ちゃーん! 雲雀さーん!」

 

幻想的な光景が空に広がるなか、人混みを掻き分けて現れたのは理那と文。

ベンチに腰かける2人を見つけ勢いよく駆けつけてきた。

 

「どうした2人とも。こんな素晴らしいショーは二度と見られんぞ?」

「いや確かにそうだけど、2人ともなにも言わずにどっか行っちゃうんだからさ」

「よかったー……スマホ使っても返事なかったし……」

「ごめんね。ちょっと話し込んでたから」

 

2人を挟むように言葉側へ文が、千紗都側に理那が座る。

すると理那は空に浮かぶ景色に向けてスマホをかざした。

 

「うん。やっぱりここからだと、お客さんの雰囲気とか空とか全部撮れていい感じ」

「なんだ貴様、写真ならもっと近くでとればいいだろうに」

「あんな人に囲まれてたらゆっくり撮れないって。あ、そうだ」

 

もう一度空に向けてスマホを掲げる彼女は、画面をこちらに向ける。

 

「はーい撮るよー。はい、チーズ!」

「ちょ、貴様!」

「チーズ!」

「あっ……」

 

千紗都が制止するよりも早くシャッターが切られ、写真には4人の姿が納められていた。

 

「はい、というわけではじめての集合写真でーす。欲しい人は連絡先ください」

「あ、じゃあわたしと交換しましょう!」

「いいよいいよー。文ちゃんなら大歓迎だ。あんたはどうする?」

「い、いらん! むしろ消せ! 肖像権で訴えるぞ!」

「そういうのは遥とかの有名人に使うんですー。あ、言葉には後で送っておくね」

「うん、ありがとう」

 

他の来場者から離れたところで、のんびりとショーを眺める4人。

もうフィナーレだろうとふと司達の方へ目を向けると、驚きの光景が飛び込んできた。

 

「ねえあれって……!」

「ちょ、マジで……!?」

「あれは……」

「バーチャル・シンガーか……!」

 

夜空を背景に写し出されたのは、6人のバーチャル・シンガー。

それぞれがサーカスを思わせる衣装に身を包み、意気揚々と会場を盛り上げている。

 

「皆すっごく楽しそうだね! ワンダショの人達も、ミクちゃん達も!」

「そうだね。そっか、あんな風にも笑えるんだ」

「はは、なにこれ。こんなの最高以外の何物でもないじゃん」

「……なあ、お前達」

「「「?」」」

「お前達は──あの輪の中に入りたいとは思わないのか?」

 

3人が各々の感想を述べるなかで、千紗都は問いかける。

その視線は真剣そうで、どこか憂いに満ちていた。

 

「光に満ちたセカイはさぞ楽しいだろう。行くなら今のうちだ。ショーが終わる、その前に」

「「「……………」」」

 

まるで自分は別物と言わんばかりに送り出そうとする彼女。

しかし誰一人としてその場から動く者はいなかった。

 

「どうした。夢の時間が終わってしまうぞ?」

「いや、まあそうだけどさ。私は夢の中でどうこうっていうのは好みじゃないからさ」

「は……?」

 

そんな中で真っ先に口を開いたのは理那であった。

思わず言葉を失う千紗都に対し、矢継ぎ早に投げ掛ける。

 

「素敵な物だ、って言える夢なんてただの一般論だよ。そういうのは大抵本人の意思は関係ないからね。

 そんな夢を他人に押し付けて不幸にするくらいなら、私自身が傍にいて一緒に生きるよ」

「それは茨の道だぞ。それに、裏切られる可能性もある」

「そんなことわかってるよ。でも私は私の信じた物の為に生きるって決めたんだ」

 

そう言い残して理那は口を閉じ、再び写真撮影へと戻った。

表情こそ笑顔だが、これ以上千紗都が何を言っても動くことはないだろう。

 

「鶴音妹よ。貴様はどうなのだ。あんな希望に満ちた場所へ行ってみたいと思わないか?」

「うーん……行ってみたい、とは思う……」

「なら」

「──でも、今はその時じゃないかなって」

 

この中で一番幼い文であれば説き伏せられると思ったのだろう。

しかし、彼女も頑なに動かなかった。

 

「わたし、大好きな友達に誘われたんです。歌と元気と希望をもっとたくさんの人に届けられる場所に。

 でもその時気がついたの。わたしがずっと大好きで居られたのは、守ってくれてた人がいたからだって」

「貴様……まさかそこまで」

「うん。だから最初に大好きだって伝えなきゃいけないのはその人で。

 わたしばっかりじゃなくて、その人にも大好きな事をして欲しいから。

 今はいいの。今は大好きな人の傍で大好きだって伝えたいから」

「……まったく、姉も姉なら妹も妹か」

 

アテが外れ、やれやれ、と首を振る千紗都。最後に視線を向けたのは言葉であった。

 

「さて、聞くまでもないが……審判者よ、何故貴様もあちらに行かない?」

「それは当然、あの人達の想いと私の想いが違うからです。それになにより、あの明星の光は眩しすぎます」

「はは、だろうな。あそこまで輝いていては目も焼かれよう」

 

そう言って司達の方へ視線を向けると、今まさに来場客へ向けて感謝を送っているところであった。

それをもってショーは終わりを告げ、来場客はライトアップされたアトラクションへ我先にと足を運んでいく。

 

「つまるところ、夢と想いは違うものということだな」

 

席を立ち千紗都は3人の前に躍り出る。

ライトアップされたアトラクションを背に、お嬢様の如く優雅なお辞儀をした。

 

「3人とも、感謝する。これで我も我なりの想いを見つけられそうだ」

「それはよかったです」

「えへへ、どういたしまして」

「ま、頑張りなよ。あんたは強いんだからさ」

 

こうして少女は再び前に進むことを決めた。

それはいつか見た夢とは違うものの、幸せなものに変わり無いのだと。

 

「ああ、それとひとつ。我のことは千紗都と呼んでくれ。我が盟友達よ」

「盟友って……前から思ってたけど、千紗都ってなんでそんな口調なのさ」

「なに、些細な話よ。遠い昔、病弱な妹を笑顔にさせようと意気込む少年と出会ってな。

 辛そうにしていては他者に漬け込まれる故、我もそれを真似てみたのだ」

 

積年の疑問のように理那が訪ねると、思いの外すんなりと答えてくれる。

これも盟友と認めてくれたお陰かもしれない。

 

「千紗都さんにもそんな方がいらっしゃったんですね。その方々は今どこに?」

「さてな。出会ったのも我が両親が全国を飛び回っていた頃の話だ。

 だが、今もどこかで誰かを笑顔にしているに違いない」

 

清々しい笑顔を浮かべつつ、少女は一番星(スター)に背を向ける。

こうして少女達は自分達の帰るべき場所を目指すのであった。

 




ご無沙汰しております、kasyopaです。
今回の時系列としては言わずもがなですが「ワンダーマジカルショウタイム!」になります。
ショーを終える頃には皆笑顔に戻っているので司的にも問題ないということでひとつ。

千紗都は芯がかなり強いので、問題提示と解決はかなりさっぱりしてます。
どういった答えを見出だしたかはまた次回の章で。

さて……長くなりましたが、物語に終わりは付き物。
次の章で「荒野の少女と1つセカイ」は終わりになります(エピローグは別計算)。
そして今回も1週間ほど……予定としては8/8に更新再開を目処にがんばります。

それでは次回、第3部終章「Around the World」
お楽しみに。


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