ひとまずということでMEIKOが全員分の紅茶を振る舞う。
しかし理那はそれを断りルカの淹れるコーヒーを受け取っていた。
それから千紗都の軽い説明を受ける2人。
「……つまり、ここは元々千紗都のセカイだったけど、
途中で居なくなって、代わりに言葉が受け持ったってこと?」
「まあ、雑にいえばそうだな」
「え、じゃあじゃあ、ミクちゃんはずっとこのセカイでひとりぼっちだったの?」
「ううん、ずっとじゃない。文ちゃんが来てくれたから、寂しくなかったよ」
「ああ、本人もこう言っている。だから鶴音妹……いや、文よ。我からも感謝を送ろう。ありがとう」
「あ、えっと……!」
文は声を震わせながらも言葉の後ろへ逃げてしまう。
今までの堂々とした態度とは一変、自分だけに向けられた事に戸惑いが隠せなかった。
「しかしまぁ、数年間1人にしたといえばひどい仕打ちだったな。不器用な我を許してくれ」
「不器用って言えば……その口調もそうだよね。前は『僕』って言ってたのに」
「僕ぅ!?」
ミクの発言で理那は思わずコーヒーを吹き出しそうになる。
それもそのはず。演じている、ということは本人から聞いていたが、かつての彼女の姿を知る物は誰もいない。
「アハハハ、女の子で僕ってそれマジでいってるの?」
「いちいち勘に触る奴だなお前は! 祖父から下僕のように扱われていたんだぞ!
そんな幼少期を送っては心のひとつやふたつも折れよう!」
「あー……そっか、そういうこともあるよね。ごめん、今のは私が悪かった」
「分かればいい」
「でも、そのお陰であの腕前が身に付いたとなると、複雑ですね」
「そうだな。祖父としては尊敬にも値しないが師としては……いや、そちらも大概ではあったな」
意外な過去が明らかになるも、その事自体を悔いている様子はない。
ある程度自分の中で踏ん切りが付いたのだろう。
3人が話し込んでいる中、一方の文はというと。
「へー、メイコお姉さんとカイトお兄さんがお姉ちゃんと居たんだね。
ずるいなー、こんなに美味しいお菓子と紅茶出して貰ってたなんて」
「ふふ、でもこれからは文ちゃんも食べられるわよ?」
「ただ、晩御飯が食べられなくなるかもだから程々にね」
「大丈夫です! 叔母さんの作る料理は最高だから別腹です!」
「……だからってもう1箱平らげてるわ、そろそろ止めておきなさい」
「はーい」
提供されたお菓子とお茶に舌鼓を打ちつつ、ルカからやんわりと注意を受けていた。
端から見ればMEIKOが母親、KAITOが父親、ルカが姉である。
「あ、そうだ。千紗都、これ」
「ん……? これは?」
「千紗都が居なくなってからつけ始めた日記だよ。戻ってきた時の為に見せようと思って」
「これまた大層な品だな。わかった、受け取ろう」
千紗都がミクのつけた日記を丁寧に読んでいく。
理那が覗き込もうとするも、言葉がやんわりと制止した。
「理那、止めておいた方がいいよ」
「えー、言葉も気にならないの? バーチャル・シンガー、それもミクがつけた日記だよ。気になるじゃん」
「そうだけど、せめてミクを通してからじゃないと」
「構わないよ。でも、その代わり──君達の、本当の想いと、それから生まれたウタが聞いてみたいな」
「そうね。貴女達の想いから見つけたウタがどんなものか、気になるわ」
歌姫はまるで、自分の興味を条件として提示するように語りかける。
セカイに住まうバーチャル・シンガーとしては当然の事であり、ルカもその発言に続いた。
MEIKOとKAITOは文と理那に、ミクとルカは言葉へ注目している。
「ま、期待されちゃやらないわけにもいかないか。私が先にやるよ。次はどっちがやる?」
「わたしがやりたいです! とっておきの明るい曲で盛り上げますよ!」
「なら最後は私かな。みんなもそれでいい?」
言葉の確認にバーチャル・シンガーと千紗都は首を縦に振る。
小さな街の小さな雑貨屋で、ウタが鳴り響くのであった。
・
・
最後に言葉が歌い終え、ささやかながらも拍手が上がる。
安堵のため息を付くなか、千紗都が1人歩み出た。
「うむ、お前達のウタで我は確信した。やはり皆同じ想いをもってここに集ったのだと」
「そういえば……その想いとはなんなのですか?」
「それは……ミク、教えてやれ。セカイの住民が言う方が重みがあるだろう」
後ろの方でのんびりしていたミクだが、
セカイの主にこう言われては前に出ないわけにもいかない。
千紗都の隣に立ち、言葉・文・理那の順でぐるりと見渡して口を開いた。
「それは──『自分らしくありたい』って想いだよ」
「自分らしく……ありたい?」
言葉の呟きに、ミクが力強く頷く。
「そう。『自分の音を奏で続けていきたい』のも、『わたしらしく大好きだって伝える』のも、
『誰かの傍にいる』のも、全部。『自分らしくありたい』から、想ってる」
「きっと辛いことも悲しいこともいっぱいあったんだと思う。
だから他の皆と違って、当たり前の事が大切なんだって気付くことが出来た。だから皆、同じ想いなんだよ」
ミクがそう告げた時、それぞれのスマホの画面が輝き始める。
それは想いからウタが生まれた時と同じもの。
光が落ち着く頃にはそれぞれの手には楽器があり、街の広場へと移動していた。
「場所が……変わった?」
「あ! なにか光ってるのがあるよ!」
その広場を囲むように建物の窓や遠くに無数の小さな明かりが見える。
まるでそれは観客が掲げるペンライトのようだった。
「あれは、想いの光。君たちの奏でた歌が誰かに届いた時、見えるものなの」
「へぇ、つまりこの人達をこの曲で盛り上げればいいってことね」
「そうだな。せっかく馳せ参じて貰ったのだ。最高の舞台を見せねば演奏家の恥と言うもの!」
理那と千紗都はその光を観客と見立て意気込む。言葉と文もそれに応えるように構えた。
「それじゃあ、一緒に歌おう?」
「「「「うん(ああ)!」」」」
その楽曲が謳うのは少女に訪れた悲嘆の物語。
化け物と罵られ、自分の切なる願いも叶えられない。
ただ生きることを喜びたいだけなのに、それすら罰として受け入れて進むしかない少女。
しかし切なる願いは誰かの元へと届き、いつしか普通の少女へと戻っていくというもの。
曲の終わりと共に、新たな楽曲が4人のスマホに現れる。
その名前は────
罪の名前 / ryo