演奏が終わると同時に街に変化が訪れる。
想いの光が消えていくのと同時に街並みが荒野へと変わり果てていく。
「これは……一体どうして」
「なに、かつての想いから今の想いへと変わっていくだけに過ぎん。
我も同じ願いを持つならば、かつての情景は不要ということだ」
千紗都自身も同じセカイにいる、ということは過去の自分の想いとは違うということ。
時間の経過、人との出会いを経て、心情が変わるようにセカイが作り替えられていく。
「千紗都さんは、こんな終わりでいいんですか?」
「構わんさ。届かぬ星に手を伸ばすくらいなら、内にある光を抱いて進むだけの事よ」
千紗都はバイオリンを持ちながら不敵に笑う。
その姿は今まで見た中で最も晴れやかな表情をしていた。
ふと言葉は、千紗都が最後の茶会と言っていたのを思い出す。
おそらく彼女はこのセカイを訪れた時からその事を予見していたのだろう。
やがてセカイの全てが荒野に代わり、想いの光も見えなくなった。
「……で、これから皆はどうするの?」
理那はその疑問を真っ先に口にした。
本当の想いで繋がった4人だが、元々はただの知り合いや友人同士。
セカイを共にしている以上、もはや見て見ぬふりはあり得ない。
「そういう貴様はどうなのだ」
「私はルカからDJの事教えてもらうって約束があるの。
今よりもっと上手くなって、言葉と並んでも大丈夫なくらいにね」
「理那はもう十分すごいと思うけど……」
「いんやまだまだだね。もっともっと極めていかなきゃ」
「なら、わたしももっと頑張りたい! もっと私の好きを表現できるようになりたい!」
文も高みを目指すのは同意見らしく、我先にと手をあげた。
「なら我も同じだな。結局のところ音楽は自分を自分たらしめてくれるものよ」
「それなら私も同じかな。なんだか今までと変わらないね」
「でも落ち着ける場所がなくなっちゃったね。ずっと外だと寒いし……」
文にとってこのセカイ自体が落ち着ける場所であるもの、
ずっと屋外で旅を続けていたため、
寒いセカイでずっと屋外というのは少し厳しいものがある。
「なら、ここにずっといる必要もないし、どこかに行けばいいんじゃない?」
「いや、しかしこのセカイは既にミクが旅を終えたであろう」
「でもそれって道なりにでしょ?
これだけ人数いるんだし、いっそのこと新しい道を作るのもアリでしょ」
理那がそう言いつつ、道から外れた別の地平線を見つめている。
その先もまた地平線となっていて終わりが見えなかった。
「そういえばお馬さんもどこか行ったっきり戻ってこなかったし……
別のところになにかあるのかな?」
文と理那にとって今まで旅をしていた分、新たな旅を始めることに抵抗がなかった。
一方の言葉と千紗都は顔を見合わせる。
「ふむ、なかなか面白い発想だな。新天地を求め自ら道を切り開くとは」
「理那らしい発想だけど……でもそっか。そういう見方もあるもんね」
そんな突拍子のない発想でも、理那という人間を知っているからこそ受け入れることが出来る。
そして、このセカイがどういう場所なのか4人はいまだに知らない。
「ふむ、しかしそうなると何か我々らしい名前がほしいところだな」
「と、いうと?」
「なに。これから先も共にセカイで行動を共にするのであれば、
1つの肩書きがあった方がまとまりが出るであろう」
「あ、それは言えてる。○○団とか、○○組、みたいにさ」
「なんだそのダサい名前は。もっとしっかりとした名前があるだろう」
「そういう千紗都はどうなのさー」
話の流れによって自分達の肩書きを決める事になった4人。
といっても勉学に秀でたものはそのうちの半分しかおらず、形にするのはその2人になるだろう。
「とりあえず……セカイの旅人って感じですかね?」
「そのまま過ぎる。もっと洒落た名前の方がいいだろう」
「はいはーい! なら英語にすればいいと思う!」
「旅人ならTraveller、Strangerかな。Touristってのもあるけど、あれは観光客って感じだし」
「ストレンジャー、ってどういう意味?」
「知らない人・他人って意味だよ。それから転じて旅人って感じかなー」
「ならそれでいこう。後もうひとつ……そうだな、我らが生きるのは現実故、それを表すものがいい」
片方の文言が決まったものの、あともう一息といったところ。
確かに英単語だけでは自分達だと認識させるには力不足だった。
「現実、現実ねぇ。そう言ってもそのままぶちこんでもダメなんでしょ?」
「当たり前だ。これから名乗っていくのであれば、我々だと一瞬で認識出来るものがいいに決まっている」
「うーん、うーん……お姉ちゃん何かあるー?」
「……空蝉」
英語には弱いものの、歴史などには強い彼女。伊達に本も読んでおらず、変わった言い回しが飛び出した。
「空蝉? セミの脱け殻のこと?」
「まあそれもあるが本質ではないな」
「この世に生きてる人のこと。元々は別の言葉だったんだけど今ならこっちの方が聞こえがいいかなって」
「んー、難しい……」
「まあ雑に言うならこの世の事。セカイ、ということだ」
「なるほどー! 流石お姉ちゃん!」
「じゃあ両方を組み合わせて、『空蝉Stranger』ってことでいいかな」
言葉の確認に3人が首を縦に振った。
こうして彼女達は心持ちを新たに、現実とセカイの両方で旅を始める。
光を目指して進むのではなく、自らの光を導として。
・
・
セカイで本当の想いから生まれたウタを歌い上げてから数日後の休日。
4人の姿は意外なところにあった。
「ぬおっ! なかなか俊敏なやつだな貴様は! ええい、少しは落ち着け!」
「あはは、千紗都ってば弄ぶところか弄ばれてるじゃん。ほれほれ、こっちへおいでー」
「えへへ、今日も皆いい子だねー。いっぱい可愛がってあげるからちゃんと順番守ってねー」
それぞれが自らに寄り添ってくる猫の相手に手一杯の様子。
そんな光景を、言葉は1人紅茶を飲みながら眺めていた。
「すみません、急に皆で押し掛けてしまって」
「ふふ、気にしないで。貴女達ならいつでも大歓迎だから」
そう、ここは文が行きつけの保護猫カフェ。
千紗都は初来店であるものの、それなりに楽しんでいるようだ。
「それに……あんな事を言われたら出迎えないわけにいかないもの」
店主の視線の先。そこにはいつかの文が持ち込んだ動物用のケースがある。
その前には1匹の黒猫が今か今かとその時を待っていた。
やがてニャオ、と痺れを切らせたように一鳴きして言葉の元へとやって来た。
「ふふ、お待ちかねかな? オニキス」
「ニャオ」
「あら、言葉ちゃんも平気なのね」
「ええ。文が特別好きみたいですが、飼ってた時は私にもよく反応してくれたんですよ」
オニキスがお客を出迎える際に招くのも、姉の帰りを出迎える為に仕込まれたもの。
言葉の事も慣れていなければ出来ない芸当であった。
「それで、本当なの? その子を預かってくれるなんて」
「はい。厳密には私達の恩人が、ですが」
「そうなの。良かったわねオニキス」
「ニャオ?」
理解しているのかいないのか、オニキスはただ首をかしげる。
程なくして、オニキスは荒野のセカイの新たな住民として受け入れられるのであった。
・
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そして、荒野のセカイ。
桜の枯れ木の下、1人の少女が石碑に何かを掘っていた。
「言葉、もうすぐ出発だよ」
青髪の青年が後ろから声をかける。名前を呼ばれた少女──言葉は手を止めて振り返った。
「あ、ごめんね。もうすぐ終わるから待っててくれるかな」
「何を掘ってたんだい?」
「ん? それは……」
そっと横に移動して見ることを促す。
KAITOの目に写ったのは、4人の少女と4人のバーチャル・シンガーの名前。
そして、この場所で過ごした内容が短く綴られていた。
「街は消えちゃったし、この記憶もいつか忘れちゃうかもしれない。
けど、こうして残しておけばいつか思い出せるから」
楽しいことも悲しいことも、忘れてしまうのが人間である。
しかし忘れたくない事・伝えたい事を、こうして形として残すのも人間だ。
「それじゃ、行こっか」
少女はその言葉と共にその場を立つ。
前へと進む言葉の背中を、風と桜の花びらがそっと押すのであった。
ご無沙汰しております。kasyopaです。
これにて、鶴音 言葉から始まった4人の物語は完結となります。
これで幕引き……となる予定でしたが、最後の1話が残っていますね。
というわけでアンケートで選ばれたユニット絡みを最後の1話に据えて、一旦すべての物語を完結とさせていただきます。
最後の挨拶は、そのときにでも。
次回、荒野の少女と1つのセカイ。
エンドロールでお会いしましょう。