休日のビビッドストリート。
この通りは昔から音楽好きが集い互いを高め合う、巷では名の知れた場所。
時間はちょうどお昼過ぎといった所で店も人もにぎわっていた。
今日もいたるところから様々な音楽が鳴り響く中で、
新参者の少女──鶴音言葉が一人楽器の準備をしている。
楽器の演奏という点においては何ら珍しくないのだが、
楽器ケースの中から姿を見せる楽器はどれも見慣れぬものばかりで、
演奏前に組み立てられるその歪な形から通行人の目を引いた。
少女が奏でる音楽は秋風が香るこの季節に合った荒野を行く音楽。
ケルト音楽とも称される民族音楽の旋律は周囲の雰囲気を一変させた。
プロのように卓越した技術もなく、場慣れしているように堂々としたものでもない。
ただそれは楽し気な音楽でノリのいいもの。
何人かが立ち止まり聞きほれる。
大半は物珍しさからであったが、客側がこういったストリートミュージシャンに慣れている為、
散策中の物見としては絶好の対象であった。
「ふう……聞いていただきありがとうございました」
「お嬢ちゃん、その楽器はなんていう楽器なんだい?」
律儀にお辞儀をする少女に観客は快い拍手を送る中で、先頭で聞いていた男性が問いかける。
「これですか? これはティンホイッスルっていうんです」
「へー、リコーダーとは違うんだな」
「外国の方では凄くポピュラーな楽器なんですよ。もしよければなにかリクエストでも」
「お、嬉しいね。なら────で頼むよ」
リクエストされたのは国民的アニメ映画の主題歌。
自然をモチーフにした作品も多く雰囲気はぱっちりであった。
快く引き受けた少女はフルコーラスで演奏を始める。
どことなく聞きなれた音色と曲の知名度からか瞬く間に立ち止まる人が増え始め、
曲の終盤では口ずさむ人も出てくるほどであった。
「ありがとうございました……!?」
一息ついて飲み物を口にしようとしたところで予想外の観客と拍手の多さに驚いてしまう。
寸でのところで咽そうになるのを抑え込み、再度お辞儀をする。
「えっと、出来る限りリクエストには答えていきますので、もしよろしければ」
「なら────で!」
「わ、わかりました」
食い気味にリクエストされたのは最近放映されたドラマの主題歌。
未だに人気が衰えることを知らない曲で音楽ゲームにもよく採用されていた。
群衆ができるほどではなかったものの、観客は入れ代わり立ち代わりで絶えることを知らず、
演奏が終われば途端に次のリクエストが入る為曲のレパートリーが尽きることはない。
そんなこんなでほんのりと日が傾き始めた頃にはお開きにして帰り道につく。
思いのほかリクエストやアンコールに応えていたからか心身ともに疲れていた。
どこか適当なところで一服してから帰ろうと思い立ち、見かけたカフェに立ち寄るのだった。
・
・
入店を知らせるベルが鳴り、一人の少女が髪を揺らしながら出迎える。
「いらっしゃいませー。1名様ですか……ってあれ!? あの時の店員さん!」
「あっ、シンセサイザーを買いに来てた……」
金髪に赤のグラデーションが掛かった特徴的なツインテール。
名前こそ知らないもののお互いに見知った仲であった。
特に言葉にとっては忘れられない思い出であり、その後がどうなったのか気になる存在でもあった。
「どうしたの天馬さん、そっちの席空いてるわよ?」
「あっ、ごめんなさい! こちらの席へどうぞー」
「ありがとうございます」
「ご注文がお決まり次第お呼びください。ごゆっくりどうぞ!」
いくら知り合いであっても片方は勤務中かつ接客中である。
別の店員から教えられた二人用の席に案内しつつも戸惑った様子で早足に立ち去って行った。
一方で言葉はそんな背中を見送りながら明るい子だなと頬を緩ませながらメニュー表に目を向ける。
キャリーカートに括られた楽器ケースは一時的に店内にいた客の目を引いたものの、
ビビッドストリートの存在が知れているからかすぐに視線を外した。
「(晩御飯までもうすぐだしドリンクくらいでいいかな)すみません」
「はい、お待たせしました! ご注文をどうぞ」
先ほどの少女が待ってましたと言わんばかりに飛び出し注文を取りに来る。
「ホットミルクティーをお願いします」
「はい、ホットミルクティーですね! かしこまりました。ご注文は以上でよろしいですか?」
「はい。お願いします」
「それでは、失礼いたします」
礼儀正しく接客するも、少女は隣で存在感を放つ楽器ケースが気になってしょうがないのであった。
しばらくして別の店員が紅茶とミルクをテーブルへと持ってくる。
言葉はティーカップを傾けながら、ふとセカイでの出来事を思い出していた。
「(そういえばあの時のかまくら、よかったな。また二人と思い出作り出来たら)」
言葉の様な年頃であれば、空想だと思っていた存在と会話ができるなど、
夢と間違えてしまうほどのシチュエーション。
だからこそ何気なくてもいいので数多くの思い出が欲しかった。
「すみません、相席いいですか?」
「構いませんよ……って、さっきの」
「はい。この度はご来店ありがとうございます!」
そんなことを考えている時に、上から声をかけられる。
そこには私服に着替えた先ほどの少女が相席を求めていた。
「あ、自己紹介まだだったね。アタシ、天馬咲希! よろしくね!」
「私は鶴音言葉と言います。よろしくお願いします。天馬さんは今あがり?」
「ううん、本当はもうちょっと後だったんだけど、今日は特別にって店長さんが」
なるほど、と納得したところへ別の店員が水を持ってくる。
そのタイミングで同じく紅茶を注文するのだった。