いくつものビルの合間から覗く空は雲に覆われ、今にも雨を降らせそうだった。
コートを着込みながら歩く街には、時折吹き抜けるビル風が冬の訪れを知らせている。
「お姉ちゃーん! 早くしないと置いてっちゃうよー!」
「そういう文も急ぎ過ぎて道に迷わないでね」
赤髪の少女がこちらに手を振りながら声を上げる。彼女の名前は鶴音文。私の大切な妹。
私の両手にはいくつもの紙袋が下げられており、人混みを避けるのにも精いっぱいだった。
どうしてこうなったかといえば、話は少しだけ時間をさかのぼる。
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「おはようお姉ちゃん! 叔母さんも!」
「おはよう文」
「おはよう文ちゃん。朝はトーストでいいかしら?」
「うん。3枚焼いてー」
朝食終わりの紅茶を傾けていると文が勢いよく食卓に飛び込んできて向かい側に座る。
ありふれたいつもの光景。今日もいつもと変わらない日常が始まる、筈だった。
「お姉ちゃん……その服、どうにかならないの……?」
トーストが焼き上がるまで暇な彼女は私の服を凝視していた。
私が今着ている長袖の上着には白地に大きく『404 Not Found』と書かれている。
「どうにかって、別に気にしなくてもいいよ。今日は特に外に出る用事もないから」
「でもそれって一応内外兼用の服でしょ?」
「まあ、うん。近くのコンビニくらいは行くかもしれないけど」
別に自分がどうとも思っていないから問題ないと思う。
近くにクラスメイトが住んでいるわけでもなければ、
「因みに、今持ってるお姉ちゃんの選んだ服ってどんなの?」
「白地に『敗訴』って書いてあるのと、白地に『ひとりぼっち』って書いてあるのかな」
「なんで全部白地!? それになんか全部可哀想だよ!?」
「まあ、安かったから」
「安くても買わないでー!」
「やめて文。紅茶こぼれるから」
テーブル越しに肩をもって体をゆする彼女に静止の声をかける。
ティーカップは既に空になっていた為大惨事にはならなかったものの、
耳元で大声を出されたためか少し耳鳴りを起こしていた。
「はいはい文ちゃん、言葉ちゃんのセンスが壊滅的なのは元からでしょ」
「そうだけどー。ねえお姉ちゃん、今日バイトじゃないよね」
「うん。今日は何も予定入れてないよ。ビビッドストリートにもいかないし」
「よーし! なら私が久々にお姉ちゃんの服を選んであげるからね──熱っ!」
叔母さんがトーストを文の前に置き、身を乗り出しているのを元に戻すよう促した。
私の持っている外行きの服は全て妹基準で選ばれたものであり、
個人的に購入した物は全て部屋着として別の所に入っている。
納得がいかないのか頬を膨らませる彼女に、今日の予定がないことを伝える。
話がまとまったことで張り切り焼き上がったトーストを頬張るも、熱さに驚いていた。
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そんなこんなで今は文に連れられながら様々な服屋を巡り、
私の一番気に入った色の物を選んではそれに合った組み合わせを選んでくれている。
後は流行の物もあれやこれやと増えていき、両手はいつの間にか紙袋で埋まっていた。
因みに今着ている服は先ほどとは違い外行きの服になっている。
「大丈夫お姉ちゃん、重くない?」
「大丈夫。全部自分の物だから、私が持たないと」
「と、とりあえず近くの公園で休も?」
「うん、ありがとう」
やせ我慢をして何とか持ってみるも指先の感覚がなくなっていく。
なんとか公園のベンチにたどり着き荷物を横に置く。
今度からはキャリーカートを持ってきた方が良いかもしれない。
地元のお年寄りみたいになるけど背に腹は代えられなかった。
「もうすっかり冬だねー」
「そうだね。ありがとう」
そういって近くの自動販売機から温かい紅茶のペットボトルを差し出してくる。
お礼を言って受け取ると、本人は『おでん缶』と書かれた謎の缶の中身を器用に食べていた。
温まったことで吐く息は白く染まっている。
地元に比べれば雪が降らない分ずっと寒くはないのだが、
その分風がきつく別の意味で辛い所はあった。
「ねえ文、体験入学の応募はした?」
「宮女のでしょー? 大丈夫ばっちり! 後は抽選だからどうなるか分かんないけど」
文は文の方で自分の進学校を宮女に決めてその為に努力を始めようとしていた。
勉強が苦手なこの子でも、なんとかしてしまいうそうな気がする。
遠くの方では少女がボールを投げ、
飼い犬であろう真っ白い犬に取ってこさせては投げてを繰り返していた。
何とも微笑ましい光景だと眺めていると、
手からボールがすっぽ抜けこちらの頭上を越えていく。
そうなれば当然その飼い犬はこちらに向けて猛突進してくるわけで。
「お姉ちゃん、これ持ってて!」
不意におでん缶を渡され文は犬に向かって駆け出していく。
その進路を塞ぐように腕を広げれば、勢いもそのままに懐へと飛び込み押し倒した。
「ああっ! ごめんなさい!」
「あははは! くすぐったいよー!」
追いついた飼い主が謝っているが、押し倒された本人はそのまま笑顔でじゃれ合っている。
これといって気にしている様子はなく、むしろ楽しんでいた。
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「あの、本当にすみませんでした! うちのサモちゃんがご迷惑をお掛けしたみたいで」
「気にしないでくださいよー。ほーら! とってこーい!」
ワンッ! と元気よく一鳴きした白い犬──サモちゃんは文の投げたボールを追いかけている。
一時は彼女の顔のありとあらゆるところが舐められドロドロになっていたが、
不可抗力だといって遊びに加わっていた。
「せ、せめてお詫びだけでも何かさせてください!」
「じゃあ、サモちゃんモフモフさせてください!」
走ってボールを持ってきたサモちゃんに、彼女の同意も無しに思いっきり撫でる。
といってもそれは荒々しいものではなく、毛づくろいをするように優しい物。
私は遠目で眺めるだけであったがそのふわふわ具合たるや羨ましくなるほどだった。
それにしても何とか成り立っているが、傍から聞いていれば会話のドッジボールである。
かろうじて聞こえる声を聞きながら眺めていれば、
文がしばらく撫でまわした後少女と短い会話を交わし戻ってくる。
「サモちゃんの撫で心地はどうだった?」
「あれ、お姉ちゃん聞こえてたの?」
「あれだけ大きな声してたらね。それで、最後は何話してたの?」
「それはねー。自己紹介! またねーみのりちゃーん!」
大きく手を振り声を上げた先にいるのはあの少女。
ちょうど首輪にリードを付けて離れようとしているところだった。
「またねー文ちゃーん!」
彼女もまた負けじと元気な声で返事をすれば、サモちゃんも元気よく一鳴きする。
不思議な縁だなと思いつつ、確かこの子は動物に好かれる傾向にあった気が、
といつかの旅先のことを思い出すのであった。
※長文注意
改めましてご無沙汰しております。作者のkasyopaです。
今回のサイドストーリー編では、
「もし常設星1~3までの鶴音言葉のカードがあった場合どうなるか?」
という設定で組ませていただきました。
なので時系列が飛び飛びになってしまいましたが、何卒ご理解のほどをお願いします。
プロセカにおける常設のサイドストーリーの時系列は
星1:前編・後編ともメイン開始前
星2:前編・後編ともメイン20話後
星3:前編はメイン中間、後編は20話後
星4:前編・後編ともメインまたはイベ終了後が多い
という感じですね。こはねも星1のストーリーでは髪長いままなので。
星4のストーリーは残念ながらありません。(まだ主役イベント書いてないので)
ご了承ください。
長くなりましたが、ここまでお読みくださりありがとうございました。
次回、『KAMIYAMA FESTIVAL編』でお会いしましょう!
追記:活動報告に言葉の設定(メインストーリー20話終了時点)を公開しました。
作者名をクリック後、活動報告から読めますので気になる方どうぞー。