神高祭当日。私達の教室の前には怖い物見たさに集まった人達で賑わっていた。
「きゃああああ!?」「怖かった~!」「あそこのお化け屋敷やばいぞ!」
中々好評なようで出ていく人のほとんどが怖がってくれている。
「いやー、委員長は毎回いいネタくれるよね」
スクリームマスクを被った友人が暗幕をくぐって戻ってくる。
黒い服に暗幕を纏えば白い顔が宙に浮いてるように見えるから企画した私でも怖い。
「ネタって言っても話題のアニメとかの手法をそのまま使っただけなんだけど」
「それでも受けは良かったじゃない」
教室で凝った事は演出は出来ない。そしてなによりスペースが足りない。
となれば順路を迷路のように制限して動かせば案外広く使える。
後は後ろからお化け役の人を投入したり、暗幕の向こう側からシルエットや手を出したりと、
驚かす方も楽しんでいた。
入る人数も1組に限定して女性の場合はお化け役を全員女子に変えたりと、安全面も考慮した。
私は裏方で『あること』をしていたのだが──
「あ、委員長! 彰人と連絡取れないんだ! 受付どうする!?」
「えっ!? と、とりあえず私が受付するからお客さんにはちょっと待ってもらって!」
と、そんなこともあって今では受付をやっていた。
受付の主な仕事は入場管理と注意事項の説明、内部伝達。そして。
「よければこちらもお使いください」
入場時に心拍数が図れるリストバンドを渡している。当然退場時は回収する。
これを受け取るかは参加者の自由だし、これで何があるわけでもないが。
強がってるのに内心では怖がっている人とか、怖がってるけど全然怖くない人とか。
ただ内輪で話題になってくれればいいと用意したものだった。
その特殊性も手伝って意外と反響を生み、リピーターもそこそこいる。
「(こんなことなら文も来れたら良かったんだけど)」
妹の文は友達とどうしても外せない用事があったため、来ることができなかった。
実の妹をお化け屋敷に呼ぶというのも変な話ではあるのだけれど。
まあ実際日付が被っていることに気付いてからは、
ものすごく悔やんでいたし何かお土産を買ってきてほしいとはお願いされた。
「ねえこはね、本当に入るの……?」
「大丈夫だよ杏ちゃん。フェニランのお化け屋敷より怖くないと思うし」
「それはそうだけど~」
列に並ぶ人も大体消化できたかというところで、見慣れた人物が姿を現した。
本人はかなり怯えているようだが、隣にいる女の子は割と乗り気であった。
「白石さん、他の人と一緒なんて珍しいですね」
「あれ鶴音さん? 彰人はもしかして、中?」
「本当なら東雲君が受付だったんですけど、戻ってこなくてですね……」
「ま、まあいないならいいか」
白石杏。
1年A組の生徒であり、サバサバした性格な上にしっかりと自分の意見を通してくる子。
同じ1年生とは思えないほどに出来た人で、風紀委員としての活躍は目を見張るものがある。
彼女も彼のことをよく知っているのかいないことに疑問を抱いていたが、
すぐに別の感情に塗りつぶされたようだった。
「とりあえず、2名様ご案内で……少しお待ちください」
連絡アプリで中の人に連絡を飛ばすと、すぐに返事が返ってくる。
そして来客が来客なだけあって私も本来の仕事に戻る為、他の人と受付を交代し中へと戻った。
・
・
「来たよ! 委員長お願い!」
横笛に息を吹き込む。寒さを誘うような高い音と共に、隣にいる子が太鼓を小刻みに揺らす。
ヒュウ、ドロドロと聞き馴染みのある音色が教室に響き渡った。
私の本来の仕事。それはお化け屋敷の最後の演出。
フルートがあるなら弾けるんじゃない? みたいな軽いノリで提案され、
実際に神楽用に持っていた横笛を持ち出したのがきっかけだった。
といってもあくまでこれは演出。お化け屋敷内を歩くお客さんから私達の姿は見えない。
ただこの曲が流れる頃に、薄暗くライトアップされた作り物の井戸がお出迎えする。
中から何かが出てくるかと思いきや鏡が立ててあり、一時的に錯覚させる。
それが自分と気付いた頃に後ろから幽霊役が現れ驚かせる、という算段だ。
「うわー、白石さんすっごく怖がってる」
「いや、流石に白石さんの演技だと思うよー」
クラスメイトの人達は暗幕からこっそり様子を伺っている。
そんな中で合図が飛び幽霊役の子が突撃していく。
「きゃああああああああ!!!!」
そんな絶叫が私達の演奏を上回る音量で鳴り響き、そして止まった。
「あ、杏ちゃん!? しっかりして!」
何事かと飛び出し駆け寄ると、
そこには目を回して倒れている白石さんと、必死に声をかける知り合いの子の姿がある。
クラスの人達も何事かと覗き込んでいたが、一番戸惑っていたのは幽霊役の子だった。
「とりあえず下がっていいよ。次のお客さんには待ってもらって」
「う、うん!」
「ところで貴女は……白石さんの知り合い?」
「あ、はい。宮益坂女子学園の、小豆沢こはね、です」
「私は鶴音言葉です。よろしくって言いたいところだけど、白石さんがこんな状態だから」
「うーん……」
隣でずっと白石さんの心配をしている子がいる。こうなった経緯も知っているかもしれない。
それを聞こうとしたところで彼女が目を覚ました。
「よかった、気が付いた」
「あ、こはね。えっと……何があったんだっけ」
「多分思い出さない方がいいですよ。立てますか?」
「あ、はい。大丈夫です……」
一度驚いて我に返ったのか、小豆沢さんの手を取りながらも立ち上がると、
そのまま出口へと歩いて行った。
流石にやりすぎたかもしれない。来年やる機会があればもう少しこういう要素は控えよう。
そう少しだけ心に決めることになった出来事であった。