荒野の少女と1つのセカイ   作:kasyopa

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第8話「新しい関係」

注文した物が揃い、音楽のことを中心に他愛ない話に花を咲かせる。

話していくにつれて角ばった雰囲気は丸みをおび、普段の口調に戻っていった。

 

「白石さんもRAD WEEKENDを超える為に頑張ってるんだね」

「も、ってことは鶴音さんももしかして?」

「ううん、私のクラスの東雲君がね。随分真剣そうだったから」

「あ、それって結構前のことでしょ? 彰人と冬弥の二人で歌ってた。

 今は四人で歌ってるから、もしよかったら見に来てよ! 瑞希も一緒に」

「そうだね。ボクもちゃんと杏の相棒さんとは話したかったし、またその機会にでも」

 

白石さんの相棒。お化け屋敷で来ていた小豆沢さんのことを思い出す。

一言でいえば彼女とは対照的な、不思議な雰囲気のする子だった。

 

「その時はまたこういう場所で紹介するね。

 瑞希も確かネットのサークルで曲作ってるって言ってたよね。会ったことはあるの?」

「最近は新曲上げるたびに打ち上げて集まってるよー。

 ま、そうでなくても絵名とはよく会って話してるけど」

「その絵名って人、確か夜間クラスの……東雲君のお姉さんだっけ」

「委員長さんよく知ってるねー。もしかして神高生徒全員の名前知ってるとか?」

「全員、ってわけではないけど、基本的に名前と顔は覚えたら忘れないから、その影響かな」

 

それが結果として委員長という立場で役に立っているのは事実だった。

しかしこうやって面と向かって自己紹介でもしない限り、

または天馬先輩や神代先輩のように名前が独り歩きしない限りは知れないのも事実。

 

東雲絵名、という名前を知っていたのも。

いつか姉がいるという話を彼がクラスメイトとしていたのを聞いたり、

放課後にふと見かけただけに過ぎない。

 

「いいなーそれ。私もうちのお店に来てくれる人とか、

 イベントに来てくれる人とか解ったらもっと楽しいのに」

「でも杏ってばビビッドストリートじゃ結構な有名人だよねー」

「それでもまだまだ父さんには敵わないよ」

 

会話は進むものの手は完全に止まってしまっており、

暁山さんは一向にフライドポテトを食べようとしなかった。

 

紅茶のカップを傾けながら冷めきったそれを見つめていると、

その視線に気付いたのか笑顔で応えた。

 

「良かったら食べる?」

「あ、ううん、そうじゃなくて、食べないのかなって」

「あー、ボク猫舌なんだよね。だから冷ましてるんだ」

「そうなんだ……ごめんなさい」

「気にしなくていいよー。好きなんだけど、まあ仕方ないよね」

 

そう言いつつ充分に冷めたであろうフライドポテトを口にした。

暁山さんのこういった面も一部からすれば変わっていると言える。

好きなものと苦手な物が同居している、というのは珍しいことではない。

 

「それでも好きなことに対して素直になれるって言うのは、少し羨ましいかな」

「ん? それってどういう──」

 

話すつもりはなかったものの、自分の過去をかいつまんで説明する。

勿論セカイのことについては省略するも、誰かが関与したということも踏まえておく。

 

決して1人で見つけることができたわけではないのだと。

 

「──って感じかな。だから音楽を再開したの」

「なんていうか、複雑なのによくさらっと言えるね。

 ボク達と知り合ったのなんて昨日の今日みたいなものなのに」

「別に知っておいてほしい、ってわけじゃないの。ただ相手の疑問は晴らしておきたいから」

 

変に遠慮した関係になって、いざという時に動けないのはお互いに困ってしまう。

それに、いつか知られるであろうことであれば別に今話しても問題ない。

 

「私からすれば、白石さんのRAD WEEKENDを超えるイベントをする、

 っていうのと同じくらいのことだよ」

「鶴音さんって急に豪胆になるよね……それだからクラスをまとめられているっていうか。

 ねえもしよかったら今からでも風紀委員にならない?」

「うへえ、そうなったらボクの学園生活も肩身が狭くなりそー」

「今はまだいいかな。まだ自分のことで手いっぱいだから」

 

もっと手を広げるのは自分が満ち足りてから、というのは日常生活でも変わらない。

これからバイトも続けていくし、いい塩梅が見つかるまでは試行錯誤の日々が続くだろう。

 

「……っと、こんな時間。私もう帰らなきゃ」

「えっ、もう帰るの? もうちょっと話そーよー」

「また機会が合えば。お代、ここに置いておくね」

「鶴音さん、また明日」

「白石さんもまた明日」

 

店の外に出れば冬の訪れを知らせる冷え切ったビル風が通り抜ける。

その風でセカイのことを思い出し、久々にMEIKOやKAITOに会いに行こうか、と考えたのだった。

 

 

/////////////////////

 

 

「あらら、ほんとに行っちゃった」

「だね。私達も帰る?」

「ボクはまだフライドポテトが残ってますー」

 

あくまで一本ずつ口にする瑞希の様子を、

冷めてしまったコーヒーを無意味にかき混ぜながら眺める杏。

 

図らずして人の過去に触れてしまった2人であったが、

本人が気にしていないのであればそこまで重要でもないのだろう、と割り切っていた。

 

「ねえ杏」

「ん? どうしたの瑞希」

「やっぱり、真面目な人ほど苦労してるのかな」

 

瑞希も少なからず噂で言葉について知っていた。

部活に入っていないものの、朝一番に現れては教室の清掃を行う学級委員。

クラスメイトの面々から慕われている、絵にかいたような優等生。

 

自分の知り合いにどことなく似ていて、根本から違う言葉がどうも気になった。

彼女もまたあの笑顔の裏で泣いているのだろうかとあらぬことを考えてしまう。

 

杏もまた、それを聞いて幼馴染の少女のことを思い出した。

 

「……そうだろうね。けど、やっぱりその人の問題は、

 その人が納得できる形じゃないと解決できないと思うな」

「もしそれが本人じゃどうしようもないことだったら?」

「そういう時の為に、私達がいるんじゃない?」

 

他人が本人を変えることは出来ない。しかし他人だとしても助けることはできる。

それが正しいか正しくないかは、その時になってみないと分からない。

 

奇しくも2人は一度道が見えなくなったことがあり、それを誰かに救われていた。

一人は幼馴染に。一人は古い友人に。

それは今となっては些細なきっかけだったかもしれないが、決定的なものでもあった。

 

「やっぱり強いね、杏は」

「それ程でもないよ。私だけじゃここまで来れなかった。

 瑞希にも、そういう仲間がいるんじゃない?」

 

脳裏をよぎるナイトコードの面々。誰もいないセカイにいたミク。

どこか欠けたメンバーではあるがそれを互いに補い合ういいメンバーだった。

 

だからこそ、誰かの「どうして」という問いに、「当然」と答えられるように。

人の一生に首を突っ込んだ以上、それくらい強くならないと。瑞希は改めて決心するのだった。




ご無沙汰しております。kasyopaです。
今回のお話でKAMIKOU FESTIVAL編は終了です。
オリ主視点で裏方のお話とかそういうのだと思って頂ければ幸いです。
大体イベントであんまり出番がなかった寧々のお話にもなりましたが。

さて、次回からは年末にかけて募集させていただいた、
ユニット絡みのお話になります。
投票していただいた方々にはこの場を借りて感謝を。

次回「サイハテの終着、彼方の待ち人」編。お楽しみに。
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