荒野の少女と1つのセカイ   作:kasyopa

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全9話構成、三人称視点になります。


ニーゴ編「サイハテの終着、彼方の待ち人」
第1話「ありふれた日の出来事」


神山高校のお昼時には必ず笛の旋律が流れるのだという。

一時期は学校の七不思議になりえるかとまで言われたその演奏は、

神高祭の後夜祭にてあっさりとそのヴェールが脱がされ、

音楽室から近い教室の生徒からはただの放送音楽程度の認識になっていた。

 

そして今日も変わらずのその旋律は響いている。

 

「ふう……」

 

少女──鶴音言葉が一人音楽室で笛を下ろし息を吐く。今日も観客はいない。

仲のいい生徒は少なからずいるものだが、その者たちは自分の友を優先している。

居ない理由といえば、ただそれだけのことであった。

 

自分の方へと向けたスマホを止めた時、拍手をしながら教室に入ってくる生徒が一人。

 

「今日も絶好調みたいだね」

「暁山さん。おはよう」

「うん、おはよ~」

 

暁山瑞希その人。神高祭をきっかけに知り合った仲ではあったが、

時折学校で出会っており今では瑞希が名前で呼び捨てするほどの仲にまで進展していた。

 

「今日のお昼ご飯もおいしそー。ねえねえ、ボクにも1個ちょうだーい」

「暁山さんって私の演奏を聞きに来てるの? それともおかず食べに来てるの?」

「んー、どっちもかなー。それでも学校に来ない方が多いけどね」

 

弁当箱の中を覗き込みおかずをねだる瑞希だが、

自分の手には購買で買ってきたであろうサンドイッチが握られている。

それでも言葉は断る理由がないからか大人しく弁当箱を差し出した。

しばらく悩んだ後、1つだけ入っていたからあげを摘まむ。

 

「うわ、これも最高! ほんと言葉の叔母さんって料理上手だね」

「お料理教室で先生してるからその影響かな」

「もしかして言葉も料理上手かったりする?」

「ううん私は作らないから……おにぎりぐらいなら作れるかな」

「なんだ、残念」

「流石に叔母さんとは血がつながってないからね」

 

自虐的に笑う言葉であるがそのあたりをサラッと言う性格というのは瑞希も知っている。

それでも割と急に挟んでくるため、苦笑で返すことしかできなかった。

 

「言葉ってさ、自分のことはよく話すのにあんまり人には突っ込まないよね」

 

瑞希にとって、ありのままの自分を受け止めてくれる事が何よりも嬉しい。

しかし本来の友人とは違って彼女はここ最近の知り合いでありながら、

どこぞのだれかのように面白がって声をかけてきたわけでもない。

 

今まで自分の特異性について尋ねなかったのかと、遠回しに聞いてみることにした。

 

「そこに関しては、簡単には変われないって思ってるから、かな」

 

思い当たる節があるのか、箸を置いて懐かしむような表情でどこか遠くを見つめる。

 

「頑なになったら、どんな言葉も届かないんだよ」

 

それを聞いて思い出すのは、1人の少女のこと。

仲間とは到底呼べない歪な関係で結ばれた1つの形。

 

その一連の騒動で知った少女の闇と心。消えたいと願った少女の行く末。

突きつけられた言葉と、退いてしまった現実。

たった一言で人が変わる()()を知っていたが、自分達の思いでは変えられなかった。

 

言葉から告げられた一言も中々に強烈であった。

自分が少女に告げた言葉に似ていたものの、こう相手に言われると響くものがある。

 

「それでも何も言わずに見守ってくれる人達がいたから、私は変われた。

 だから私もあの人達みたいになれたらなって思ったの」

 

かつての両親が、音楽を始めることを止めなかったように。

セカイの2人が、本当の想いを見つけるまで追及しなかったように。

 

瑞希からすれば、あの少女は何も言わなければそのまま消えていただろう。

必死になって3人が言葉を紡いで、もう一人の少女が繋ぎ止めてくれた。

そうしてようやく本当の想いを見つけることができた。

 

そんな違いがあるものの、共感しつつも少女の想いを肯定した自分の考えと似ていた。

 

「それは、素敵なことだね」

「ありがとう。私の実体験に過ぎないんだけどね」

「そういう事話す相手には気を付けた方がいいよー? ダシに使われるかもしれないし」

 

あまりにも自分のことを話し過ぎる。

こんなことではいつか個人情報を抜き取られて質の悪い詐欺などに巻き込まれないかと、

別の意味で心配になってくる。

 

「そこそこは選んでるつもりなんだけど、なんでだろ。暁山さんだから話せる、のかな」

「そっか」

 

お互いをよく知らないからこそ踏み込める領域というものはある。

敏感な部分であればなおさらで付き合いが長いほどに躊躇してしまう。

人間関係においてよくある事ではあるが、実際そこまで話す人も珍しい。

あの屋上で出会った旧知の友人でさえ、自分の素性を話すことはなかったのに。

 

そこまで話したところで予鈴が鳴り響く。

 

「じゃあ私はこの辺で。暁山さんはどうするの?」

「ボクは今から見たい映画があるからねー。委員長さんも良かったら一緒に見てみない?」

「また機会があればお願いします」

「あらら、振られちゃった」

 

わざとらしく残念がる瑞希に軽く手を振り職員室へと急ぎ足で向かう言葉。

 

「(なんていうか、面白い子だよね。ボク達とはまるで違うのに)」

 

一方で瑞希は1人校舎を飛び出し街中へ駆けだしていく。

その足取りは軽く、瞬く間に人混みの中に消えていくのだった。

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