荒野の少女と1つのセカイ   作:kasyopa

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第4話「いやな奴」

絵名と言葉の会合から時は経ち、再び25時、ナイトコードで。

奏によるデモが完成し、各自作業に取り掛かっている時のことであった。

 

『はああああ……』

 

ナイトコードで何とも気の抜けそうなため息が木霊する。

 

『……えななん、マイク切ったら』

『あ、ごめん。でも……はあ』

 

普段はまふゆの毒舌に反発的な彼女であったが、

先ほどは自分が非があったため素直に謝っていた。

しかしその直後にもう一度ため息。どうやら随分と参っているようだ。

 

「えななん、調子悪かったら今日は落ちてもいいよ」

『ありがとK。そういうのじゃないから大丈夫』

『もしかして、言葉のこと?』

『そう、そうなの! あの1年生!』

 

瑞希の声に、待ってましたと飛びつく。頭痛の種はまさしく言葉のことであった。

 

あれから何度か都合をつけて様々なポージングの写真を撮ったり、

デッサンにつき合わせたりしていた。

一つも嫌な顔をせず付き合ってくれる彼女のお蔭で作業は順調に進んでいたのだが、

どうしてもそれが過去のまふゆと重ねてしまい心の中のしこりが大きくなっていく。

 

だから彼女は問いかけた。

自分が題材にされてそれがどんな作品になるかもわからないことに、なんとも思わないのかと。

 

すると答えた。

 

──それが噂ってものじゃないんですか?

 

たったそれだけだった。しかしそれは真理であった。

本人の知らぬところで尾ひれがつき肥大化していく中で、本人の意思が介在する余地はない。

群衆は話題性を求めるものだから楽しければそれでいい。

今まさにその話題に乗っかっているともいえる自分には頭の痛い話である。

 

そういう彼女は疑問の念すら持たずこれからも付き合ってくれるのだろう。

だからこそ絵名は面白くなかった。周りの評価を気にしてしまう自分には。

 

悪い子じゃないのはあらかじめ知っていた。それでも気の合わない人間は存在する。

 

『確かにあの性格だとえななんにはキツイかもね~。えっぐい角度で突き刺してくるし』

『……刺されたんだ。よく無事だったね』

『あのね、例え話だから! 実際に刺されたわけじゃないの!』

『そうなんだ。ごめん、よくわからなかったから』

『あんたねぇ~……!』

 

そのことをかいつまんで説明するとすぐに返事を返したのは瑞希であったが、

珍しく比喩表現が解らないまふゆも反応した。

流石にそれは突っ込まねば収拾がつかなくなると反論したものの、

いつもの定型文に返されてしまい憤怒の念がふつふつと湧いてくる。

しかしその矛先を向ける相手はいないために自然と冷静になっていった。

 

『こんなことなら会わないまま描いてた方がよかったかも』

『噂は噂のままで終わらせた方がいい、ってやつかな。その方が面白いってこともあるよね~』

『今回ばっかりはAmiaに同感。ごめんねK、愚痴ばっかり言っちゃって』

「ううん、気にしないで。まだ時間はあるから、自分のペースで頑張ってほしい」

『……ありがと。私、ちょっと集中するから先落ちるね。皆おやすみ』

『お休み~』

「おやすみ」

『おやすみ』

 

皆の返事が返ってくることを待ってから絵名はナイトコードからログアウトした。

素直に口に出さない彼女がここまで言うとなると、かなり参っているだろう。

それを理解している奏と瑞希だったからこそ、引き留めることはしなかった。

まふゆは条件反射のようなものであるため、何を考えているかは誰にもわからない。

無論、本人もだが。

 

こうしてナイトコードに再び沈黙が訪れる。

普段から会話の主導権を握っている瑞希も相方が居ないためか静かだった。

 

『……あれ』

「どうしたの? 雪」『雪、何かあった?』

 

そんな沈黙を破ったのは意外にもまふゆである。

微かなつぶやきではあったが彼女が声を出すほどの違和感を覚える、

というのはニーゴの面々にとって異常事態の為残された2人は同時に声をかけた。

 

『……音が、出ない』

 

作詞の際に自分のペースでデモソングを演奏するために使用しているシンセサイザー。

随分前の物ではあるが手入れだけは行き届いている。

しかし鍵盤に触れても一部の音が途切れてしまっていた。

 

『大丈夫? ボク達の声聞こえてる?』

『そっちは大丈夫。出ないのは、シンセの方』

『あー……それは、大丈夫じゃなさそう』

 

再起動やプラグの着脱を行うもその音だけが出ないことに変わりなく、

やがて自分ではどうしようもないことだと察し手を止める。

 

「修理出来そう?」

『……それは無理』

 

一度母親に『不要な物』として部屋の外へと持ち出されたこともあったが、

その時にどこかぶつけたのかもしれない。

憶測は尽きないものの、原因が解らないからには直しようがないのは事実。

 

ここまで来ると専門家や業者の問題になるが、自分の友達で機械に強い人間はいない。

それに持ち出そうとなると途端に親に見つかってしまい、

そのまま処分されてしまう可能性が高い。そこまでまふゆの親は世知辛い存在だった。

そしてその一部始終を知っている瑞希もまた、それが難しいことを理解していた。

 

「『『………』』」

 

今までのまふゆならここまでか、と流れるように処分していただろう。

しかし出来ない理由がここにはあった。ただ『奏が曲を作れなくなる』。

今手掛けている曲も、これから生まれるはずの曲も。

 

ただそれだけであったが、まふゆが今を歩み続けるには充分すぎる理由だった。

──本人達からすれば理由などという浅はかなものでは断じてないのだが。

 

『親の目を盗んで……とか無理だよね』

『……無理だね。お母さんに見つかる』

「誰の目にも触れないで持ち出す方法……」

 

まふゆは体育の成績も優秀であったが、

シンセサイザーなどという機材をもって二階から持ち出すようなことはしない。

むしろそんなことをすれば両親に捕まり何が起こるか分からない。

それこそニーゴとしての活動がバレてしまい、取り返しのつかない事態になる。

 

『誰にも……誰も……K! それだよ!』

「Amia?」

『誰もいない場所に持っていけば、まふゆの親に見つからない!』

『……なにを、言ってるの?』

 

いきなり声を張り上げる瑞希に耳を傷めながらも何を言うのだろうかと首を傾げる。

そんな自分達にとって都合のいい場所など、あるはずが────

 

『──もしかして、セカイ?』

 

まふゆの脳裏に、いつまでも傍にいてくれる少女の顔が映った。

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