荒野の少女と1つのセカイ   作:kasyopa

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第6話「しかして動く者は」

夜も更けた頃。25時、ナイトコードで。

 

『……おまたせ』

 

奏が点呼を取り終わりまふゆが居ないことに疑問を覚えた絵名が、

瑞希から状況を聞き終えると同時に差し込まれた声。

 

「! 雪、その、大丈夫だった?」

『…………うん』

 

長い長い沈黙の後、まふゆは口を開いた。

昼間のように明るく感情豊かな面影はどこにも残っていない。

 

『よかったー。セカイ様様だね!』

『Amiaから聞いた時はどうなるかと思ったけど、まあ、良かったんじゃない?』

 

シンセサイザーが壊れた日に導き出した答え。

それはセカイへ一度持ち込み、

再び外からアクセスすることで親に見つからず持ち出す、単純なものだった。

 

一時的に部屋からシンセがなくなるものの、まふゆの両親からすれば逆に都合が良く、

晩に別のシンセがあっても楽器に疎い為違いに気付くことなどなく、

一時的な楽器の消失も単に模様替えと言えばそこで話は終わってしまう。

偽りであってもまふゆと両親の信頼関係は厚かった。

 

店側からの連絡もまふゆのスマホに直接送られるため、見られる心配もなかった。

 

『そんなこと言って~、えななんが一番心配してたんじゃないの?』

『ちょ、そんなことないし!』

『……ありがとう、Amia』

 

またいつものように絵名と瑞希の口論が始まるかというところでこぼれた一言は、

文字通り度肝を抜いた。

 

『それは本心から、って受け取っていいのかな』

『……わからない。でも、その方が正しいって思ったから』

 

その言葉を噛みしめるように問いかけるも、帰ってくるのはいつもの返事だけ。

それでも正偽の判断を微かに感じ取っただけでも、彼女からすれば随分と進歩したと言える。

 

「それじゃあ、今まで通り各自作業でも大丈夫そう?」

『……問題ないよ』

『よーし、雪も無事に戻ってきたしボクも張り切っちゃおっかなー!』

『はいはい調子に乗らないの。でも、私も頑張らなきゃね』

 

いつもよりやる気を8割増しにしたような瑞希と、対抗意識を燃やすように張り切る絵名。

またいつもの空気が戻ってきたのかと思い、自然と笑みがこぼれる奏であった。

 

 

 

「Amia、今いい?」

『ん? どうしたのK』

 

黙々と作業をしていたニーゴのメンバーであったが、キリが良かったのか奏が声をかける。

 

「あの時、モチーフの子の演奏の話をしたときだけど」

『うん』

「言葉に詰まったのが、少し気になって」

『あー……』

 

この話をモチーフにして曲を作ろうとした理由。

絵名がその噂に対して相当詳しかったからというのも大きいが、

なによりもその人物を知る瑞希が意図的に言葉を伏せたからである。

 

『(やっぱりKは鋭いな)』

「話し辛いことなら、無理に言わなくてもいいけど」

『ううん、話すよ』

 

瑞希の見つめる画面。そこには作業中のMVがリピート再生されている。

本来の幽霊に分かりにくいものではなく鮮明な物。

歌詞やタイトルを前面に押し出した、歌詞を読ませるための演出。

まるで己のことを包み隠さずに吐き出す彼女の如く。

 

Amiaは語る。彼女と何度も会話して得た人間性。

噂は噂に過ぎぬと一蹴し己を律する芯の強さ。他人に意見せずただ尊重し追及はしない。

皆の味方であるのに誰の物にもならない、その複雑さが自分の興味を引いたのだと。

 

『だからボクは面白いよ』『だから私は苦手なの』

「えななん……?」

 

声が重なる。それをどちらも聞き逃さなかった。

それが引き金となったのか。今度は絵名がひとりでに語り始める。

 

どうとも言えない態度。他人を肯定するだけで自らの意見はほとんど言わない。

こちらが黙りこけていて初めて定型文のような台詞を口にする。

自分を持っていないからこそ受け入れることはするが、踏み入るほどの中身がない。

 

「そっか、えななんはそういう風に見えたんだ」

『だからアイツには今回の作品を見せてやりたい、って思った。感想の1つくらいよこせって』

『でもそれしちゃったらボク達がニーゴだってバレちゃうんじゃないの?』

『それは、あれよ。この曲おすすめって言って感想聞いたらいいじゃない』

『なるほどね。さっすがえななん』

 

大方その役割を担うのは瑞希になりそうだ、ということは伏せておくことにした。

 

『……皆楽しそうだね』

「雪はそう思わない?」

『……さあ。私は会ったこともないし。それに、会っても何も変わらないと思う』

「そっか」

 

確かにまふゆがもし言葉と会っていたとしても、それは『いい子』のまふゆに過ぎない。

それを看破できる人間など──まふゆの知るところでは1人(えむ)しかいない。

そんな奇跡体験などがありふれているわけもなかった。

 

しかし瑞希と絵名に影響を与えている人物だからこそ、奏本人も気になっていた。

自分の目から見た時、その人物はどう映るのかと。

それこそ今回の、または今後作るであろう曲のよい発想を得られるかもしれない。

 

「Amia、その人と連絡って取れる?」

『え? あ、ボクは連絡先知らないかなー。大体お昼休みに行けば会えるし』

「そうなんだ」

 

声のトーンは変わらないものの機会を失ってしまい残念がる。

頻繁に会っている瑞希ではあったが、連絡先を交換するまでの関係には至っていない。

そのあたりを変に気を聞かせてしまうのは自分の悪い癖かもしれない、と瑞希も反省していると。

 

『私、連絡先交換してるし、なんなら今週末に会うけど』

「! 本当、えななん」

『うっそ、ボクでも持ってないのになんでえななんだけ!? ずるーい!』

『態々資料集めの為だけにアンタ使ってらんないでしょ! だからあの後、教えてもらって』

 

さっきまで苦手だと嘆いていた絵名が言葉を零す。

段々と尻すぼみになっていくあたり自分の行動に後悔もあるのだろう。

今や彼女と会ったとしても、反骨精神を燃やしながら無理やり描いているだけ。

創作者として『描かなければならないもの』と向き合い続ける苦難など地獄でしかない。

 

『K、言いたいことは分かるよ。でも、私はあんまりおすすめしない』

「うん……解ってる。でも、お願い」

『……分かった』

『あ、じゃあボクも行くよ。雪も良かったら』

『私、その日はお母さんと用事があるから』

『はいはい。場所は……いつものファミレス?』

「うん。そこでいいと思う」

 

一人の呪われた少女は立ち上がる。救いたい人を救うためならば、と。

その出会いがどういった影響を及ぼすか、それは誰にも分からない。

 

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