荒野の少女と1つのセカイ   作:kasyopa

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第4話「ふたつの思い出」

両親を失ってから叔父さん達に預かってもらうことになったけれど、

あいにく二人の家は東の方にあった。

 

そこで急に生活が変わるのも悪いとのことで、

一旦こちらに引っ越してきてくれて遺品整理などをした後、

文が小学校を卒業してから引っ越しすることとなった。

 

私の小学生最後の日。帰り道を妹と一緒に歩きながら私は口を開く。

 

「えっ、お姉ちゃん音楽辞めちゃうの!?」

「うん。中学に入ったらバイトするって決めてたから」

「でもコンクールとか頑張るってあんなに言ってたのに」

 

心底残念そうな顔をするも、私は心に決めていた。

 

「もしかして、お父さんとお母さんが死んじゃったから?」

「うん。それに叔父さんと叔母さんにお世話になるって言っても、やっぱりお金は必要だからね」

 

ほんの少しでもいい。ゼロより1の収入があれば負担が減るはず。

 

「大丈夫。バイトって言っても新聞配達くらいだから」

「そっか……お姉ちゃんのフルートとか、好きだったんだけどな」

「それは、ごめんね」

 

好きと言ってくれることは嬉しかったけれど、それよりも優先すべきことがある。

これからお世話になっていくからこそ今までと同じように甘えてはいられなかった。

 

 

 

家に帰ってからはその旨を二人に伝える。

 

「別にやめることはないんだよ?」

「言葉ちゃんのやりたいことをやってくれたら、私達も満足だから」

 

かけられた言葉はとても優しいものだった。実の子供こそ居ないが本当に優しい人だ。

口調こそ他人行儀に聞こえるが、それは二人の性格から現れたものだろうから気にしなかった。

だからこそ、その好意に私は甘えるわけにはいかなかった。

 

「今は、バイトがやりたいんです。社会勉強をして就職して、少しでも負担がかからないように」

「負担だなんて、私達のことは気にしなくてもいいんだよ?」

「そうそう。蓄えもいっぱいあるからどこに進学してもいいし、何だったら音楽学校だって」

「いいんです。これが私の、やりたいことだから」

 

二人はそれに対して、

学校を休むようなことがあったり、成績が一つでも下がった場合はすぐにやめること、

という条件付きではあるが認めてくれた。

 

その後私は登校前に新聞配達をして学校に登校し、

部活に入ることもなく夕方も夕刊配達のバイトへと駆り出していた。

絶対に無理はしないように毎日ではなく週に2~3回程度。

それ以外の日は勉強や読書をしたりして過ごした。

 

お給料は大人から見れば大したことのない金額だったかもしれないけれど、

何よりも自分の力で稼いだお金ということが嬉しかった。

 

お給料が出たその日私はそれを二人に渡しにいった。

しかし二人は断固として受け取ってくれなかった。

私がバイトの話で食い下がらなかったように、二人にも何か考えがあったのだろう。

 

「それは言葉さんが稼いだお金だ。ならそれは自分の為に使いなさい」

 

その時言われた事は深く心に残った。だったらと私はその日からお小遣いをもらうのをやめた。

別にムキになっていたわけじゃない。ただその言葉を返しただけに過ぎない。

そしてそのお金の半分は、妹の為に使った。

 

一緒に街へ行って流行りのおもちゃや、普段買わないような高いお菓子。

時にはちょっとだけ貯金をして、

遊園地なんかにも連れて行ってもらった時に二人分を自分の財布から出したこともあった。

その時の叔父さんと叔母さん、スタッフさんの苦い笑いは今でもほんの少しだけ覚えている。

 

そして妹の卒業が近づくにつれて引っ越しの準備も進めていた。

荷造りする時は出来る限り物を捨てた方が荷物が少なくなるし、荷解きにも苦労しない。

 

押入れの中にしまい込んでいた楽器ケースを高く積み上げ眺める。

 

「もう演奏しないのに、持っててもしょうがないよね」

 

楽器の処分方法が分からない私は、何気なく叔父さんを呼ぶことにした。

部屋に入るなりそれを見つめた彼は私の頭に手を置く。

 

「叔父さん?」

「これはとっておきなさい。

 言葉さんにとってお父さんとお母さんとの大切な思い出の品だからね」

 

確かに両親に買ってもらったものだけれど、使う理由が無いなら捨てるべきでは。

そう言いかけた私は頭を強引に撫でられ言葉を飲み込んだ。

 

叔父さんと叔母さんの家に引っ越し、

妹が中学に上がってからは彼女も自分の友達と遊ぶ事が増えた為、

給料の半分を妹に渡すようにした。

その為か流行やトレンドが行きかう街で、妹からいろんなものを教えてもらえた。

私は相変わらずバイトと勉強漬けで外の情報には疎かったからだ。

 

 

 

「あ、これこれ。今クラスのみんなで話題になってる曲!」

 

その日もそんな彼女に連れられて街を散策している時だった。

ふと立ち寄ったCDショップで妹が何かを見つけて持ってくる。

そのジャケットには水色(もしくは緑色)のツインテールの少女が大きく描かれていた。

 

「えっと、マジカルミライ……?」

「うん! バーチャルシンガーって言って、パソコンのソフトが歌ってるんだよ!」

「パソコンのソフトが、歌うの?」

「そうそう! とりあえず聞いてみて!」

 

背中を押されて強引にCDの試聴を始めさせられてしまう。

 

そしてその瞬間から私は知ることになる。

人でないものが歌う人の温かさを。人でないからこそ励ましてくれるそんな存在を。

その中でも特に私の胸を打った歌声は。

 

「ねぇ文、この男の人の声のバーチャルシンガーって誰?」

「あれ、ミクちゃんじゃないんだ。お姉ちゃんなら一曲目が好きそうなのに」

「一曲目は……明るすぎるっていうか、激しすぎるっていうか、眩しいって言うかで」

 

それになんとなく、この子のことを知ってる人向けの曲がした。知ってて初めて感動出来る曲。

この男の人の曲は『はじめまして』って言ってくれている感じがした。

 

「そこに書いてあるでしょー? ローマ字でKAITOって」

「KAITO……そういえばさっきの曲も」

 

私は何曲かトラックを巻き戻し、デュエット曲にたどり着く。

 

「この曲はMEIKOって人と歌ってるんだね。凄く、大人で素敵な曲」

「人じゃないよー。バーチャルシンガーだよー。ってもう聞こえてないか」

 

それが私のバーチャルシンガーとの出会いであり、

何より大好きなMEIKOとKAITOとの出会いだった。

それからというもの、自分のお金で少しずつCDを買いそろえて、

静かでゆったりとした曲や、

かつて自分が弾いていた楽器の音色がする曲を好んで聞くようになる。

結果としてセカイが出来た時、二人が導き手となるなど当時の私が知る由もなかった。

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