膝まで伸びた癖ひとつない白い髪の少女は、虚ろな空色の瞳を携えて、
暗闇に包まれた空間を歩いていた。
「ここ、どこだろう……セカイじゃない……?」
少女の名前は宵崎奏。
先程まで自室で1人作曲に没頭していたのだが、
集中が切れたことでUntitledであった曲を再生し、セカイに行くつもりだった。
しかし気づいてみれば、闇の空間に立っていた。
誰もいないセカイの比ではない。地面も、空も、なにもかもが無かった。
しかしこの少女、暗闇には慣れていた為、とりあえずということで歩き始める。
他のニーゴメンバーがいないので、巻き込まれたかという心配すらない。
どこに向かって歩いているのか解らずとも、止まることは知らなかった。
手がかりのひとつでもあるのだろう、と進んでいく。
「(それに……なんだろう。居心地は、悪くないような)」
それに加えて空間から感じる雰囲気が不安感をぬぐい去っていた。
それこそ、誰もいないセカイのそれに似ている。
むしろこの理由から、どこかに向かってみようと思えたのだが。
体感時間にして5分──といっても奏の感覚であるため極めて正確なのだが。
ふと白い光を見つける。それは一筋の光というよりも、ペンライトに近いものだった。
それもまた、奏にとっては見慣れたもの。次第にその数を増していき辺りを点々と照らしていく。
『あれは、想いの光……みんなの歌がセカイを通じて、誰かに届いたのかもしれない』
はじめてその光を見た時に、ミクが言っていた台詞を思い出す。
「ということは、誰かが歌を歌ったりするのかな」
ひとまずその光が一段と多い場所を目指して歩を進める。
自分の予想が正しければ、と奏は思いの外早足になっていた。
光を掻き分けたその先に、それはあった。
暗闇に覆われた枯れ草の平原、枯れ木の桜。
「やっぱり、ここは誰かのセカイ──」
踏み込もうとして、届かない。
前に進んでいる感覚はあるものの、暗闇と平原の境界を越えることが出来ない。
まるでそれは見えない壁に阻まれているようだった。
するとライトアップされた灰色のセカイに、2人の人物が現れる。
「それでKAITO、ここに態々呼び出した理由を聞きましょうか」
「まあそんなに焦らないでMEIKO。今から説明するから」
「あれって、バーチャルシンガーのメイコにカイト……」
バーチャルシンガーのMEIKOとKAITOであった。
2人とも和装であるが、その髪も装飾も全て白か黒か灰色。
まるでモノクロのフィルターを上からかけたような、色彩の無さだった。
しかし桜の木の下で話しているところを見ると、
誰もいないセカイにおけるミクと同じ存在だろう、と予想を立てた。
そんなことをつゆしらず、KAITOは言葉を続けた。
「最近あの子の調子が良さそうだから、いい歌が聞けそうだと思ってね」
「なるほど、確かにあの曲を聞いてからは、いつにも増して練習に精が出てたわね」
そんな雑談を交わしているなかで、奥の暗闇から1人の少女が姿を表す。
「MEIKO、KAITO、今日も練習付き合ってもらっていいかな?」
「鶴音……さん……?」
その少女もまた、モノクロのフィルターを通して見える。
意外な人物の登場に、奏は目を丸くした。
彼女こそがこのセカイの主。2人の待ち人だと、不意に理解する。
「言葉、いらっしゃい。もちろんいいわよ」
「でも、折角みんなが集まってくれてるし、成果を見せてもいいんじゃないかな」
「あっ、想いの光……そっか、見に来てくれたんだね」
KAITOにつられて遠くの方を眺める言葉。当然奏の存在に気づいた様子はない。
手を伸ばせば届きそうな距離だが、それは決して届くことはない。
「それじゃあ期待に答えなきゃね。MEIKO、KAITO、お願い」
「ええ、いつでもいいわよ」「うん、いつでもどうぞ」
「では、聞いてください。『───』」
その旋律は一陣の風となりて無い筈の木の葉を巻き上げ、周囲を紅に染め上げる。
綴られる言の葉は、かつての約束を思い出させる。
──これから歩む道は違えど、通わせた時は失われない、と。
やがて旋律は止み、言葉は感謝を述べた。
「MEIKOもKAITOもありがとう。今までで一番うまくできたと思う」
「それはよかったわ」
「きっとみんなが聞いてくれたからさ」
「そうだね。皆さんも、ありがとうございます。また機会があれば聞きに来てくれると嬉しいです」
想いの光が歓声をあげるように揺れる。
奏も、その旋律に、音色に心を打たれていた。
いつしか誕生日に送られてきたあの歌よりもずっと、背を押してくれるような、そんな曲。
「さて、雑貨屋さんにお邪魔して少し休憩しようか。練習のしすぎは体によくないからね」
「言葉、今日は何にする?」
「なら、ストレートのジンジャーティーをお願いしていいかな」
そんな雑談をしながら舞台を去っていく3人。
いつしかその平原も光を失い、想いの光の数も減っていく。
やがて奏も光に包まれ、その場から姿を消した。
・
・
「──奏?」
目を覚ませば、ミクが顔を覗き込んでいた。
顔には出ていないが心配したのだろう。思いの外近かった。
数回頭を振って回りを確認する。
そこは誰もいないセカイ。奏達のセカイだ。
「ミク、どうしたの?」
「奏、このセカイで、寝てた。もしかして、疲れてる?」
どうやらセカイに入ったタイミングで寝落ちしていたらしい。
先ほどの出来事も歌も、全部夢の中の出来事だった。
「ねえミク、ここ以外にセカイってあると思う?」
奏は他でもないセカイの住人に聞いてみる。
しかしその問いに対して、ミクは首を横に降った。
「あるかもしれないし、ないかもしれない。でも、あっても、入れないと思う」
「どうして?」
「だって、その人の想いから出来たセカイだから」
人の願い、人の想い、人の夢。それは自分のものではない。
同じ夢を見るのは簡単ではない。ましてや、仲間でないならなおのこと。
ニーゴを通じて、同じ想いを持ったからこそ、このセカイに4人が存在している。
それは同じ想いを持っているからに他ならない。
「でも、確かにあれは鶴音さんの歌だった」
それでも、あの歌は夢ではない。
これが何かの手がかりになるかは解らない。
そして何より、なぜ自分があの場所に居たかも解らない。
──それでも意味がないことなんて無い。
二度と起こり得ぬ奇跡を携えて、宵闇の少女は彼方を見つめるのであった。
言葉綴/hinayukki 仕事してP
※長文注意
というわけで、UA5000達成記念話でした。
アンケ内容が「そのキャラ1人だけの話を書く」と捉えかねられず、
誤解を生んだ方には深くお詫びを申し上げます。
オリ主・オリキャラ物だからオリ主が出ない話はほとんどないです。
アンケ決まってから、執筆時間2時間くらいのクオリティですまない……
ハーメルンにおいてUA5000は大した数字では無いかもしれません。
しかしこういった先の見えないストーリーながらも、
評価・お気に入り登録・普通に読んでくださるゲストの方々に、
何らかしらお礼したかった次第で、こちらを設けさせて頂きました。
(ログインしないと投票できないのは禁句)
こういった形で今後も記念日には、
オリ主と既キャラ(バチャシン除く)の、
絡みの話を書けたらと思っております。
オリ主のお話が主軸の為、絡む機会が圧倒的に少ないものありますが。
楽しんでいただけたなら、何よりです。
この度は皆さん、本当にありがとうございました!