荒野の少女と1つのセカイ   作:kasyopa

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第2話「その少女、有名につき」

それはある休日の昼下がり。

お姉ちゃんもバイトで居ないので、

わたしは公園の人通りの少ないところで自分の動画を取っていた。

 

もちろん顔出しだけど生放送ではない。でも一発撮りだから実際はあんまり変わらないかも。

 

ワイヤレスイヤホンから流れてくる音楽に合わせて、

軽快なステップとアクロバティックな動きを織り交ぜて踊る。

そう、わたしが今録っているのはダンスの動画。踊ってみた、といわれるジャンルの動画だ。

 

楽曲は勿論ミクちゃんのもの。振り付けはオリジナル。

マジカルミライとかのライブで見た物とは全然違う。

そんな誰にも真似出来ない鮮烈なダンスを見せつける。

 

「……っと! 終わり!!」

 

曲の終わりにポーズを決めて、しばらくその姿勢を維持。

その後大きくお辞儀をしてから録画をやめて、

スマホの裏に置いていたタオルとペットボトルに手を伸ばす。

滴り落ちる汗をタオルで拭きながら一杯。

 

手だけを洗ってスマホを軽く操作する。今のご時世、スマホ一つで何でもできる。

写真や動画も高画質なものが撮れるし、動画編集だってお手の物だ。

無音状態にしたさっきの動画に曲をのっけて大手の動画サイトにアップする。

それと同時に自分のSNSでも宣伝しておいた。

 

すぐにコメントやいいねが殺到し動画の再生数も伸びていく。

そこで一件の通知が入る。それは自分の動画チャンネルの登録者が増えたものだった。

 

「あ、30万人入った」

 

一度確認したらついに登録人数が30万人を突破している。

 

「あはは、かなり大台になっちゃったなー。とりあえずSNSでも報告をっと」

 

自分のアカウントでも一応報告しておこう。その方がみんなに知ってもらえるし。

そしてそんな中であるコメントが目に付いた。

 

『またまたパクリ乙wwwwこんなの誰が見るわけ?』

『君3Dモデル使うの上手いねー。何のソフト使ってるの?』

『昔バズったからっていい気にならないでください』

 

いわゆるアンチってやつで、正直気にしていても始まらない。

わたしの踊ってみた動画は実際に見れば凄い、の一言で片づけられるほどの物じゃなかった。

解りやすく言えばオリンピックの床競技ぐらいと称されるほどのもの。

 

わたしがこうやって踊ってみたの動画を上げているのも、ただのなりゆきでしかない。

お試しでやってみたアクロバット演技を友達が録画して、

勝手に投稿したところそれが大いに『バズった』。

 

その時は嬉しさより戸惑いの方が大きくて実感すら湧かなかったけど、

その友達の勧めで何度も繰り返していくうち『Ayaya』と名乗り

動画チャンネルを作り不定期更新で踊ってみた動画を上げることとなった。

基本的にはミクちゃんの曲が多いけど、音楽ゲームの歌詞のない曲とかもやってみた。

 

最初の方は良かった。皆驚いてたし、反応も上々でチャンネル登録者数もうなぎ登りだった。

期待の新星だなんて言われたこともあったけど、ある日動画にあるURLが貼られる。

 

それは、自分の動画が全部嘘っぱちというスレだった。

元はこんなに上手かったら動画なんかやってない、という軽い発言によるもので。

それから数珠つなぎのように嫉妬する人達がコメントしていき、

掲示板ではわたしが動画を投稿するたびに、粗探しに必死になった人達によるスレがみつかった。

 

果てには一発撮りの動画でも全部CGで作ったとか、

この振り付けはあのアイドルグループのパクリだとか。

検索妨害の為の嘘動画なんかも上がり始めていた。

 

それも私が動画しか投稿せず、生配信を一切していない上に、

企業案件などのオファーも全て蹴っている。

その中の一つになりすましがあり、

ただただ執拗に案件メールみたいなものを飛ばしてきては無視していると、

その事実を晒されてそれを燃料にまた掲示板が燃え上がったこともあった。

 

今は大分落ち着いた、と思う。嘘動画も全然見ないし沈静化したかもしれない。

でもその爪痕は深く人々の間で残っていて、今でも必ずアンチコメントは見られる。

高評価も多かったが低評価もその半分くらいついていた。

 

勿論これは叔父さんや叔母さん、お姉ちゃんには絶対秘密にしてる。

止めはしないだろうけど、どうしても知られたくなかった。

余計な心配かけちゃうかもしれないから。

 

「あーあ。バッカバカしい! こんなのに気を取られるくらいなら別の見よーっと!!」

 

途中で考えるのがあほらしくなって別の動画のリンクを踏む。

こういう時こそ、私の大好きな動画の一つを見るに限るよね。

 

『みんなおまたせ♪ バラエティアイドル仮面、ハッピーエブリデイここに参☆上!』

 

動画的にはグレー……を飛び越して真っ黒だけど、気晴らしにはちょうどいい。

一時期一世を風靡……したかもしれないアイドル、桃井愛莉さん。

QTと呼ばれるグループに居たけど、

途中からバラエティアイドルとして色んな番組に出演していた。

それこそクイズ番組とかドッキリ企画とか、果てには漫才の審査員まで。

 

すっごく人気でお姉ちゃんが変わってしまった時に、

心にぽっかり穴が開いた気がして代わりを探し回って、行きついたのがこの人だった。

いつでも全力で、テレビの画面越しでもすごく元気を貰ってた。

歌はミクちゃんにぞっこんだったから聞けてないけれど、

それでも憧れの存在であることには変わりない。

 

「やっぱり、好きっていくつあってもいいよね」

 

わたしの登録しているチャンネルはミクちゃんの作曲者さんばっかりだけど、

定期的にこういう動画も見たくなってくる。

人の声に恋しくなる、っていうのかな。やっぱり、実在するっていうのは大きいよね。

 

そんな中で、トップページにおすすめの動画が表示される。

タイトルは『アイドル活動、スタート』と書いてあった。

無意識のうちに手が伸びて思わずタップしてしまう。

 

『皆! こんにちわ! 桃井愛莉よ!』

『桐谷遥です』

『日野森雫よ』

「ええええええええっ!?」

 

ペットボトルの中身を全部流し込みながら見ようとしていた所で、

急に知った声がして中身を全部噴き出した。

近くに人はいなくて、聞かれた様子もなかったからほっと胸をなでおろす。

 

「あ、愛莉さんにASRUN所属だった遥さん!?

 それに元Cheerful*Daysセンターの雫さんまで!? どどど、どういうこと……!?」

 

思わず動画を停止してその部分だけを何十回と見直してみる。

思いっきり自分の頬っぺたをつねってみても凄く痛いだけ。うう、涙出てきた。

ヒリヒリする頬を撫でる痛みも、これが現実だという事を教えてくれた。

 

愛莉さんの動画を見初めてからは、

どうしてもおすすめ欄に他のアイドルの動画も表示されるわけで。

それが結果としてそこそこ有名な人なら知識を付けてくれる役には立っていた。

 

「と、とりあえず見てみよ。まだ動画始まったばっかり──」

『えっと、は、花里みのりです! し、新人アイドルです! よろしくお願いしましゅ……!』

「うええええええええええええっ!?!?」

 

そんなわたしの声が公園中に響き渡る。

 

みのりちゃん!? あの時サモちゃん散歩してたみのりちゃんだよね!? どうして!?

その現実があまりにも信じられず、両方の頬っぺたが真っ赤になってもまだつねるわたしだった。

 

 

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