荒野の少女と1つのセカイ   作:kasyopa

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第3話「その少女、暴走につき」

ただいまも言わずに自分の部屋に入ってベッドの中に飛び込む。

頬っぺたが凄く痛いし、なんなら大声も出したせいで喉が痛い。

あの後追加で130回くらい見直したけど動画は削除されることはなかった。

ドッキリ動画にしては出来すぎてるし、今後生配信するって言ってたし。

 

とりあえず光の速さでチャンネル登録したので今後は大丈夫だと思う。

チャンネル名は『MORE MORE JUMP!』。

一体何が始まるのかなんて全然わからないけど、

あの憧れの人がもう一度頑張るなら全力で応援しよう。

そして何より、自分が最近知り合ったみのりちゃんのことも気になる。

 

「あー、こんなことならアカウント交換してればよかったー!」

 

衝撃的な事実に頭が追い付かず、自分の動画についたコメント通知なんかは全部跳ねのける。

自分のことより他の人のことが気になるなんて久しぶり過ぎて、

感情のぶつける先が無いことに悶えていた。

 

「文ちゃん、お荷物が届いてるわよ」

「ごめん叔母さん! 今それどころじゃないの!」

「あらあら、それなら食卓の机の上に置いておくわね」

 

ドアをノックされ叔母さんが声をかけてくるも、本当にそれどころじゃない。

ベッドの上で足をジタバタさせても発散出来ない。こういう時は落ち着く曲を聴こう!

スマホから自分のとっておきのマイリストを再生する。

そうすると最初に流れてくるのは当然マジカルミライのテーマ曲で……

 

「落ち着かないよー!!」

 

この気持ちを止めてほしいのに、

思いっきり背中を押される曲が流れたらもうどうしようもなくて。わたしは家を飛び出した。

 

 

 

普通なら電車で2、3駅くらいのところを全力疾走して腕で汗を拭う。

辿り着いていたのはお姉ちゃんが働いている楽器屋さん。

流石にこのまま入ったらお店に迷惑が掛かると思いながらも、

どうにかしてこの気持ちを伝えたかった。

 

スマホを取り出してもうすぐ終わる時間かな、と思いながら店前をうろうろ。

行き交う人達が変な目で見ていた気がするけど、自分では到底気付くことなんて出来なかった。

 

「……文、何やってるの?」

「お姉ちゃん!」

 

どれほどの時が経っただろう。多分皆からすれば数分の出来事だったかもしれないけど、

わたしからすれば数時間にも及ぶ葛藤の時間だった。

ひどく疲れた表情を浮かべたお姉ちゃんがカバンを下げて店の中から出てくる。

もしかして今日の仕事が忙しかったのだろうか。

 

「お姉ちゃん、大丈夫? すっごく疲れてるみたいだけど」

「うん。多分大丈夫。これで店前の正体不明の女の子の問題は解決出来るから」

「???」

 

何のことを言っているか分からなかかったけど、まあいいやとお姉ちゃんの腕に捕まる。

 

「ねえねえお姉ちゃん、みのりちゃんの連絡先しらない?」

「みのりちゃん、って誰だっけ」

「あ、ひっどーい! わたしの友達なのに覚えてないのー!?」

「文、お願いだからもう少し静かにして」

 

そういって周りを不安そうに周りを見つめるお姉ちゃんと同じ方を見れば、

通りがかった人達が驚いた様子で駆け足になって離れていく。

 

「お客さん逃げちゃうから、一旦帰ろっか。って、すごい汗、大丈夫?」

「うん。家から走ってきちゃった」

 

えへへ、と笑うと軽くため息をついてハンカチを差し出してくれる。

勢いに任せて出てきてしまったから拭くものを一つも持ってきてなかった。

感謝の言葉を伝えて何とかふき取るも、すぐにびしょびしょになってしまう。

 

「相変わらず凄い元気と体力だね。部活は運動部だっけ」

「ううん、入ってないよー。お姉ちゃんわたしのこと何にも知らないんだからー」

「仕方ないでしょ。今まであんな調子だったんだから」

「あはは、それもそっか」

 

今まで他人どころかわたしのことすら何にも知らないお姉ちゃんだけど、

これから知ってもらえればいいかな。

それでいつかまたあの日と全く同じように何かできればいいなって。

あの時のわたしとは違うんだってことを、声を大にして教えてあげたい。

 

そんな中で、今朝のコメントが脳裏をよぎった。

 

『またまたパクリ乙wwwwこんなの誰が見るわけ?』

『君3Dモデル使うの上手いねー。何のソフト使ってるの?』

『昔バズったからっていい気にならないでください』

 

もしお姉ちゃんが、今わたしの踊りを見ても何も信じないだろう。

ぽっかりと空いてしまったこの3年という空白を埋めるにはまだ足りない。

わたしのことを嘘だと笑う人達がいる限り、わたしの願いは叶うことはない。

誰もが認めてくれるようになって初めて完成する。そうしたら見せてあげたい。わたしの全力を。

 

 

 

一緒に電車に揺られやがて家に着く。

2人で玄関の扉を開けば叔母さんが少し困った様子で待っていた。

 

「文ちゃん、お荷物届いてるって言ったでしょ?」

「え? あ、うん。でもそれがどうかしたの?」

 

今のご時世態々荷物を送ってくれる友達なんていない。要件は全て全部スマホで済むからだ。

通販も最近頼んだ覚えもなかったから、

いつもの教材とかの販促物が送られてきたのかもしれない。

それよりも高鳴る気持ちが抑えきれずに忘れてしまっていたことも大きいけど。

 

そう思って首を傾げていると、封筒を手渡された。そこそこ分厚い。

メール便とかじゃないからCDでもないし、最近グッズを頼んだ覚えもない。

ちょっとだけ乱暴に封筒を破けば、そこに書かかれた文字が顔を出す。

 

『宮益坂女子学園、体験入学のお知らせ』と。

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