荒野の少女と1つのセカイ   作:kasyopa

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第6話「その少女、忘却につき」

 

放課後のホームルームでは、

お昼休みのこともあって体験入学生は早く帰るように言われてしまった。

以後は節度を思って接すること、とまで言われてしまい、

目的を果たせなかったであろう生徒達がうなだれていた。

普通なら部活の見学とかもあるけど、今日は初日ということもあって解散。

 

わたしもそんなに用事はないから駅前でお姉ちゃんと待ち合わせをする。

待ってる間もずっとスマホで音楽を聴きながら、目を閉じてそのMVを思い浮かべる。

自分ならどう踊ろうか、どう表現しようか、なんて。

 

その動きで当然参考にするのは偉大な先人やアーティストの動きになるわけで。

それを意地悪な家政婦が指摘するみたいにつつかれて、叩かれて。

嫌になって独自の動きを取り入れれば出来るわけがないと否定されて。

それでも見てくれる人のために頑張って。ここまでやってきた。

 

──でも、なんでこんなことになったんだっけ。

 

「文。お待たせ」

「あ、お姉ちゃん!!」

 

イヤホン越しに聞こえた声に顔を上げれば微笑むお姉ちゃんの姿がある。

なんだか妙にうれしくなって抱きつけば、少し驚きながらもちゃんと受け止めてくれた。

 

「お姉ちゃん大好きー!」

「もう、文ったら……とりあえず人目につくから落ち着いて」

 

10秒くらいだったけどお姉ちゃん分を摂取しておく。

そのまま切符を買って電車に乗り込んだ。

 

「でも憧れだったんだー。お姉ちゃんと一緒に帰るの」

「中学校は方向違うからね。どうだった? 初めての学校は」

「まだ内緒ー。晩御飯の時に話すね」

 

本当なら今すぐにでも話したいけど、我慢我慢。

 

 

 

「「「「いただきます」!」」」

 

今日の献立はお鍋。

皆で食卓を囲みながら、空になったお椀に叔母さんがお鍋に入った具を取り分けてくれる。

 

「文ちゃん、今日の学校はどうだった? 楽しかった?」

「うん! 前に知り合った友達とも再会できたんだー」

「それってもしかして、あの時公園で話してた人?」

「そうそう。花里みのりちゃんっていうんだよー」

 

そういえばあの時のサモちゃん、モフモフしてて気持ちよかったなー。

またお散歩中にでも会えるかな。

 

「文さんが楽しそうでなによりです。

 あそこは偏差値も高いと聞きますから、勉強も頑張ってくださいね」

「うう、それは考えないようにしてたのに」

「確かに文の成績だと少し厳しいかも」

「お姉ちゃんひどーい! わたしだってやればできるんだよー」

 

頬を膨らませながら反論するけど、わたしの成績は平均より下。

体育ならオールA評価でこれ以上ないって程だけど、勉強はあんまり得意じゃなかった。

数学とかわけわからなさ過ぎて赤点ぎりぎりだし。

 

「はいはい文ちゃん落ち着いて、お替りよー」

「やったー! ありがとう!」

 

そんなことより御飯がおいしい!

 

「言葉さんは今日はなにかありましたか?」

「私は……あんまり変わらないかな。白石さんの課題の手伝いを少し手伝ったくらい」

「あら、その白石さんって新しいお友達?」

「友達って程でもないけど、風紀委員で神高祭の時に知り合って。

 勉強あんまり得意じゃないらしいから、ほんのちょっとだけ」

「言葉さんからも新しい話題が聞けるのはいいことです」

 

そう言いながら叔父さんは黙々と箸を進めていく。

公務員でお役所勤めらしいんだけど、ずっとこんな感じだからすっごく不思議な人。

でも昔はお仕事お休みの時にお出かけにも連れて行ってくれたし、

今でも誕生日とかクリスマスにはプレゼントを贈ってくれるし、

記念日には叔母さんとディナーに行ってるとか。

 

「叔母さん、お替りー!」

「あらあら、このままじゃ皆の分全部食べちゃうんじゃないかしら」

「食べ過ぎて動けなくなっても知らないよ?」

「大丈夫ー。お姉ちゃんももっと食べなきゃ!」

「私は小食だから。文が食べてるの見たらお腹いっぱいになりそう」

 

そういって苦笑するお姉ちゃん。

そこに前みたいな無理している感じは無くて、それだけがただ嬉しかった。

 

 

 

「はー美味しかった!」

 

大の字になってベッドに背かなから倒れ込めば、羽毛布団が包み込んでくれる。

そのままスマホに手を伸ばして自分の動画についたコメント通知を読み飛ばした。

 

「何か忘れてる気がするんだけど……なんだったっけ?」

 

自分の動画の再生数を確認しながらつぶやく。

何か大事な事だった気がするんだけど思い出せない。

こういう時こそ他の人の動画を見て気を紛らわせるに限るよね。今が無駄になっちゃう。

 

視聴履歴をさかのぼっていると、一つの動画に行きつく。

 

「あ、MORE MORE JUMP! の動画、再生数すっごく伸びてる」

 

サムネイルに見えるメンバーの豪華さもあってか、既に100万再生に到達していた。

 

「みのりちゃんも凄いよね……こんな人達に囲まれても頑張ってて……あれ?」

 

ふと口から出た言葉を自分の中で復唱する。

みのりちゃんは宮女の生徒さんで、わたしの友達で……MORE MORE JUMP!のメンバーで!?

 

「あー!! この動画のこと聞くの忘れてたー!!」

 

連絡先も聞いてないし、何やってたのわたしー!!

その後お姉ちゃんに怒られるまでベッドの上でただひたすらに悶えているのだった。

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