そんな約束を取り付けた数日後の放課後。
のんびり廊下を歩いていると窓の外をじっと見つめる一人の女の子を見かける。
髪も目も全部ピンク色の、あの時私に真っ先に声をかけてくれた子。
その様子は打って変わって少し寂しそうだった。だからわたしは──
「だーれだ!」
「わひゃあ!?」
両手で目を隠して驚かせる。
こっちに気付いてないみたいだし、身長もわたしより低いから隠しやすかった。
「穂波ちゃん! ……はこんなことしないし、朝比奈センパイ! じゃ、ないよねー。
C組の子もしないしー……ううーん。誰だー? 誰なんだー!?」
「正解はわたしでしたー!」
「およ? あ、昨日倒れてた赤色の子だ!」
お互いに名前も知らないし、わたしも心の中でピンクの子って呼んでるからお互い様だった。
昨日助けてもらったお礼も兼ねて自己紹介することにする。
「昨日はありがとう。わたし、鶴音文っていうの。あなたの名前は?」
「文ちゃんって言うんだー! あたし、鳳えむ! よろしくねー」
両手でお互いの手を握り締めてブンブンと上下に振る。
これで昨日知り合った人の名前は全部知れたと思う。
それにえむちゃんもすっかり笑顔に戻ったみたいだし、何も問題ないよね。
「あっ、でもえむちゃんも1年生なんだよね。えむ先輩って呼んだ方がいい?」
「どっちでもいいよー。文ちゃんが呼びやすいのがいいな」
「ならえむちゃんで!」
こうして新しい先輩の友達が出来たわたしだった。
「鳳さんに、体験入学生の子、だよね」
「あ、朝比奈センパイ!? ど、どどど、どうしてここに」
「大きな声がしたからつい気になって。他の生徒の迷惑になるから、気を付けてね」
「は、はい! すみませんでした!」
「?」
後ろから声をかけられて振り返ってみれば、紫色の髪の綺麗な人が微笑みながら立っていた。
一方でえむちゃんはひどく怯えた様子。その人に向かってわたしは。
「……お姉ちゃん?」
「? 私はあなたのお姉ちゃんじゃないよ?」
「あれ、わたしなんて……あれ?」
自分でも何を言ったのか分からなかった。でも、自然と口を滑らせたのは分かる。
「えっと、ごめんなさい。人違いでした」
「ふふ、あんまり気にしてないよ。それより貴女も、あんまり廊下で騒がないようにね」
「はい。すみませんでした」
「それじゃあ私は委員会の仕事があるから。鳳さん、またね」
「あ、朝比奈センパイも、お気をつけて!」
凛とした中に柔らかい雰囲気のするその人はそれだけ言って去っていく。
んー、顔も全然違うのになんであんな風に言っちゃったんだろ。
それが分からないまま、わたしはえむちゃんとほどほどで別れて駅へと向かった。
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家に帰れば散々お姉ちゃんに問い詰める。話題は当然お昼に誘ってくれた先輩達のこと。
「どうして教えてくれなかったの! お姉ちゃんばっかりずるい!」
「私もまさか天馬さんが尋ねに行くとは思ってなかったから。
ずるいって言ってもちゃんと天馬さんの連絡先貰えたんでしょ?」
「それはそうだけど、そうじゃないの!」
恐らく知り合ったであろう日の晩御飯でも、
少し知り合いが増えた、くらいしか言ってくれなかった。
お姉ちゃんは特に人の顔と名前を覚えるのが得意だから、
多分先輩達が宮女の人だってことも知ってたはず。
「教えてくれてたらもっと勉強頑張ったのに!」
「じゃあそこの問題、自分で解ける?」
「うっ……」
かくいうわたしは今、お姉ちゃんに勉強を教えてもらっているところだった。
元はといえば宮女の偏差値がそこそこ高いから教えてほしいってお願いしたのを忘れていた。
そこからどうにかして逃げようかって考えて、先輩達のことを聞いて気を逸らそうとしていた。
「分かりません」
「じゃあ、その2つ前で使った公式を当てはめてみて」
「もう忘れましたー」
「……やる気ないなら私帰るよ」
「あー! ごめんなさい何でもするから許してお姉ちゃーん!」
「何でもするなら勉強に集中して」
おもむろに勉強道具を持って、
自分の部屋に帰ろうとするお姉ちゃんを必死に呼び止めて勉強を再開する。
放っておこうとするのは相当怒ってる時の行動だ。これはまずい。二度と教えてもらえないかも。
そうなったら当然宮女のお受験は壊滅的だろうし、先輩達にも会えないだろう。
それになにより、みのりちゃんとも。
「……終わり!」
「はい、お疲れ様。ご褒美は何がいい?」
「最初はお姉ちゃんの演奏が聴きたかったけど、今はお話の方がいいな」
何とか格闘して今日の宿題に加え受験勉強も何とか終える。
最初からご褒美としてお姉ちゃんの演奏を希望していたけど、
先輩達の話で盛り上がってしまった為にもっといろんな話を聞いてみたかった。
「と言ってもまだ天馬さん達と会ったのも割と最近だし、
知り合ったのもバイト先だから何も知らないよ」
「ええー、友達なのにそんなのでいいの?」
「友達だから、あんまり踏み込まないの。文も、そういうところあるでしょ」
そういわれて、わたしも人のプライベートに踏み込まないことを言っていると分かった。
確かにお姉ちゃんがおかしくなった時も、自分のことを優先してあんまり話さなかった。
お姉ちゃんもまたわたしに必要以上に構うことはしない。昔も、そして今も。
だからこそ動画や趣味とかも全く知らなかった。
「それに何より、私は私以外の何者でもないの」
「んんー、難しいこと言わないでー!」
「ふふ、ごめんね」
馬鹿にしたのかな、って思ったけど別に詳しく言わないのはお姉ちゃん特有の優しさだろう。
勉強以外はこういう感じで全然踏み込んだことは教えてくれない。
それでも笑ってくれてるからそれでいいって思えてくる。
そこで、放課後に注意してくれた女の人のことを思い出す。
なんていうか、この笑い方が似てるんだ。あの人と。
でもしっかり優しいし、こうして傍にいてくれる。
その謎は、いつまでたっても解らないままだった。
P.S. 49話目(ニーゴ編サイドストーリー)に奏誕生日記念のお話を投稿しました。
ご興味あればどうぞー。