荒野の少女と1つのセカイ   作:kasyopa

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第11話「その少女、杞憂につき」

翌日はようやくの晴れ。この様子なら咲希先輩の連絡を待たなくても屋上で会えそうだ。

 

「というわけでやってきました屋上! ……けど誰もいないね」

 

屋上に続くドアを開け放ち太陽の光を一身に浴びるも誰もいない。

流石に秋も深まってきたし寒くなってきた影響もあると思う。

スマホを確認してもまだ連絡はない。志歩先輩大丈夫かな。あんまり乗り気じゃなかったけど。

 

「また今度、謝りにいこうかな」

 

わたしの無理を押し通した感じになっちゃったから、期待するだけ無駄だったかもしれない。

もしかしたらみのりちゃんと仲が悪かったり、そんなことは……

物事を悪い方へと考えそうになったところで頭を振って考えも振り払う。

 

「うん、うん。こういう時は踊ろう! 騒……ぐのは先生に怒られるからやめよう」

 

といってもあんまり激しいのを踊ってこの後の授業に響いたら困るし、簡単なので。

 

スマホの再生リストからあるミクちゃんの曲を引っ張り出してくる。

凄くクオリティの高いアニメーションとその作曲者さんらしいテクノポップで、

再生数は400万回再生も行ってる曲。

制服だけど投稿するわけじゃないから自分の振り付けの確認のために録画。

 

『────♪』

 

わたしにできるのはミクちゃんの歌に合わせてただ一心不乱に踊る。

暗い想いを全部跳ねのける為にも。

 

──こうやって踊り始めた理由も、現実逃避でしかなくて。

  続けているのも自分の為ではなく、動画を見てくれる人がいるからやってるだけで。

  楽しいけれど、その楽しささえ他の人達の意見でダメになることも多くて。

 

──わたしが踊る意味は、どこにあるんだろう。

 

「っ!」

 

バランスを崩したところで両手を着き一回転。なんとか怪我無く終わった。

スマホのカメラを止めてため息を吐く。

動画を見直せば後半から別のことに気を取られて軸がぶれているのが見て取れた。

簡単なダンスにしたのが悪かったかな。

 

スマホの通知が増えていたので確認してみれば、それはSNSのアカウントにつけられたコメント。

 

『失踪ですか?』

『前より動画投稿遅れてますよ』

 

「………」

 

期待した自分が馬鹿だった。

 

「いいや、お昼食べよ」

 

咲希先輩から連絡はなさそうだし、みのりちゃんも上がってくる様子はない。

今日は多分別の人とお昼でも食べているんだろう。

空は晴れているのに心は曇り空。気分転換に聞くミクちゃんの曲も今はあんまりノれない。

 

通り抜ける風がわたしの心と体を冷やしていった。

 

 

 

やっぱり諦めきれないと授業と授業の合間に確認しても、

通知でやってくるのは誹謗中傷のコメントばかり。

日も傾き始めた放課後に、わたしは一人教室でスマホを眺めていた。

 

『最近こっちでも投稿してないし、死んだんじゃないの?』

『メンタル雑魚すぎwwwお子様かよwww』

『実際中学とか高校くらいだし所詮子供でしょ?』

『クソガキ乙』

 

「他人事だって思って、ほんと、好き勝手いえるよね。ネットって」

 

顔が見えず特定される危険はない。だから『安心して暴言を吐ける』。

派手なことをすれば当然特定班なんて言われてる人達が躍起になってくるけど、

わたしも他の人もそんなところまでは行っていない。

 

むしろそこまで行かないように最近はSNSの投稿すら控えている。

余計なことを言えばまた昔みたいに炎上の材料にされるから。

この前の30万人突破したっていう報告より後の呟きはしていない。

それに何より、『今はネットより現実の方が大事』だから。

 

片方を優先すれば片方が成り立たなくなるのは当たり前。

 

『友達だから、あんまり踏み込まないの。文も、そういうところあるでしょ』

 

お姉ちゃんの言葉を思い出す。

その苦労を知っているから何も踏み込まないのに。それなのに相手の方からぐいぐい迫ってくる。

そんな人達の為にまたわたしは踊ることを繰り返して。

踊ってももてはやされるどころか、非難の声がどんどん大きくなっていく。

 

「踊るの、やめようかな」

 

こういうのは全部削除してしまえばいい話だ。

話題の相手が消えれば時間はかかるけど話題にする『新しいネタ』がなくなり忘れていく。

なくなったらそのかわりになる他のコンテンツを探すだけ。

最終回を迎えたアニメも、完結した小説も、飽きるまで聞いた歌も同じだ。

 

「やっぱり、好きっていくつあってもいいよね」

 

今ではすっかり口癖になってしまったこの言葉をつぶやく。

意味合いは変わってしまったけど素敵な言葉だ。

 

「……! でも、ダメ!」

 

ここでやめてしまったら昔のお姉ちゃんと変わらない。

折角最近になってあの頃と同じように一緒に居られるようになったんだから、

わたしがここで折れるわけにはいかない。

一度夢を諦めたお姉ちゃんがもう一度前に進めるように、余計な心配をかけるわけにはいかない。

 

「絶対、絶対折れない! 負けない! 挫けない! 根性あるのみ!」

 

右腕を思いっきり突き上げて席を立ちあがり、その勢いで両ひざを机にぶつける。

 

「い、痛いよお……」

 

しばらく膝を抱えて涙目になる。

い、今だけは泣いてもいいよね……物理的ダメージは、ノーカンだよね……

 

また騒いだら先生に怒られてしまうため、この叫び声は胸の中だけに響かせることしよう。

それでもぶつけた時の音で何事かと入ってきた先生に、余計な心配をかけてしまうこととなる。

 

「(うわーん、最近こんなことばっかりだよー!)」

 

やっぱり憧れと現実って違うんだな、と思うわたしだった。

 

 

 

少し休憩してから教室を出て校門へと向かう。

 

「今日もみのりちゃんと会えなかったなー」

 

最後の1回と決めてスマホを確認してみるも連絡はない。

因みにあれから動画とSNSの通知は切りました。

 

残念がりながらもスマホをカバンの中にしまって前を見た時、小さい影が目の前に躍り出てくる。

それは校庭に居るはずのないもの。茶色くて大きい耳を立てた小動物。

 

「あれれ、どうしてうさぎ? ……おいでー」

 

こちらがうさぎを見つめれば、うさぎもこちらを見つめ返してくる。

誰かのペットなのかなと手を差し出せば、鼻を鳴らしながらこっちにすり寄ってきた。

 

「ごめんねー。餌は持ってないんだー」

 

そんな声をかけてもわかるわけもなく、足元をくるくると回り始める。

多分遊んでほしいんだと思う、けど遊ぶ道具も持っていない。

 

「すみませーん! そっちにうさぎが──って文ちゃん!」

「あれ、みのりちゃんだ」

 

2人の女の子がこっちに向かって走ってくる。その1人はわたしが一番会いたい人だった。

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