荒野の少女と1つのセカイ   作:kasyopa

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第12話「その少女、愛玩につき」

 

「ごめんね文ちゃん、協力してもらって」

「ううんいいのいいの。お安い御用だよー」

 

うさぎを抱きかかえながら3人で飼育小屋まで歩く。

 

「その子って体験入学生の子だよね。知り合いなの?」

「うん、紹介するね。わたしの友達の鶴音文ちゃん! それで、こっちが」

「小豆沢こはねです。お手伝いしてもらっちゃっててごめんね」

「こはねちゃんっていうんだ。よろしくねー」

 

これまでの話を聞く限りだと、2人は飼育委員でこのうさぎのお世話をしているらしい。

そして今日のお昼は委員会の集まりがあり、

放課後には冬に備えて屋内の飼育小屋に移動させようとしていたとのことで。

ただカゴに入れる前に手違いで何羽くらいかが脱走してしまったとか。

 

そんな経緯で探していたところを、そのうちの1羽がわたしの元にやってきた。

その子は今でも私の腕の中でご機嫌に鼻を鳴らしている。

 

「なんだかとっても嬉しそう。もしかして文ちゃんもペットでも飼ってるの?」

「飼ってないよ。でも昔からなんでか動物には好かれやすいみたいなんだ~」

「す、すごい! あ、でもうちのサモちゃんも随分懐いてたから……」

「うんうん。サモちゃんも可愛かっしすっごくモフモフだったしー……あれ?」

 

中庭を抜けて校舎の中にあるという飼育小屋を目指していると、

ちょうど見覚えのある人影を見かける。

グレーの髪の女の子がギターケースを背負ってしゃがみ込んでいた。

 

「あれって志歩先輩じゃない?」

「あ、本当だ。何かあったのかな」

「志歩ちゃーん、大丈夫ー!?」

「みのりにこはね!? それに文まで……な、なんでもないから!」

 

3人で思い切って駆け寄ってみると、

今まさにその手がうさぎの頭に届こうとしていた所だった。

しかしこちらに気を取られたからか引っ込めてしまう。

 

「よかったー、志歩ちゃんも見つけてくれてたんだね。ありがとう」

「……別に。それよりどうして飼育小屋に居るはずのうさぎがここにいるの?」

「あ、それは私から説明するね。実は……」

 

こはねちゃんがかいつまみながらも解りやすく話してくれたおかげか、すぐに納得してくれた。

 

「確かに屋外だとうさぎに悪いからね。それで……」

 

先ほど撫で損ねたうさぎはわたしの足元にすり寄ってきている。

当然腕の中には別のうさぎがいて、好きな人からしたら羨ましいことこの上ない。

 

「もしよかったら撫でます?」

「いい、それより早く戻さなきゃいけないんでしょ」

「大丈夫、志歩ちゃんが見つけてくれたこの子で最後だから!」

「うん。見つけてくれたお礼もあるし、ちょっとくらいなら」

「そ、そこまでいうなら」

 

ちょうど撫でやすい位置にあったのか、抱いているうさぎを撫でる志歩先輩。

最初はその手触りに驚いていたけど、段々と顔の緊張がほぐれていく。

その光景を3人でただ微笑みながら眺めていた。

 

「その、ごめん。みのりのことで連絡できなくて」

 

しばらく撫で続けていたものの、ふと我に返ったのか急にわたしへ謝ってくる。

多分今日のお昼のことだと思う。

 

「あはは、気にしてませんよ。わたしもみのりちゃんとまた会えたって連絡できませんでしたし」

「なら、お互い様だね。私はバイトがあるから。今日はありがとう、それじゃ」

「またねー」「日野森さん、またね」

 

2人もお別れの挨拶をして、屋内の飼育小屋にうさぎを入れにいく。

ん? あれ? 確か日野森って……。

 

「ねえみのりちゃん、志歩先輩ってもしかしてCheerful*Daysのセンターだった雫さんの……」

「うん、妹さんだよ」

「あ……そうだったんだ」

 

なんていうか、世界って広いようで狭いんだなと思うわたしだった。

 

 

 

帰り道。お姉ちゃんに今日は遅くなるかもと連絡を飛ばしつつ、2人でセンター街に来ていた。

こはねちゃんは先に帰ってしまったけど、わたしとしては都合が良かった。

 

流行は終わってもまだ店を連ねるタピオカミルクティーを飲む。

2人分だけどわたしの分は今回のお礼も兼ねて奢ってくれた。

 

「ありがとう。先輩と一緒に飲むのもおいしいね」

「あ、そっか。文ちゃんって今中学生なんだよね。全然そんな感じしなかったからつい……

 なんていうか猪突猛進、みたいな? B組の子みたいに」

「あはは、よく言われるよー。特攻隊長とか単純馬鹿とか」

「最初のはとにかく、最後のそれって悪口……」

 

そうかもねー、と生返事で返しながら再びミルクティーを飲む。

柔らかい白玉団子みたいな触感とミルクティーのまろやかな甘さが口いっぱいに広がった。

 

「気にしてないからいいの。そんなことでくよくよするなら今を楽しめって話だから」

 

まあ、私も動画のことで曇ることもあるけど、お姉ちゃんのこともあるし、

何より早く死んでしまったお父さんとお母さんの分もわたしは生きている。

 

そう思うと後ろを向いて悩んでいる方よりも、前を向いて進む方がずっと大切だった。

まあ、だから色々失敗しちゃったりすることもあるけど、後悔はしないって決めたから。

 

「文ちゃん?」

「あ……ごめんね! なんの話だっけ?」

 

自然と思考に囚われて足が止まってたみたいだ。自分の想いを胸に仕舞い込んで隣に並ぶ。

少しだけ不思議そうにわたしを見つめるみのりちゃんだったけど、何も聞いてはこなかった。

 

「わたしのことで何か聞きたいことがあったのかなーって。ほら、志歩ちゃんも言ってたし」

「それなんだけど、この動画でね……」

 

そういってMORE MORE JUMP!の動画を見せる。

まだあの時の動画だけだったけど再生数は更に伸びていた。

 

「あ、文ちゃんも見てくれてたんだ! 嬉しいな~」

「そ、そうじゃなくて! ほんとにネットアイドル始めるの?」

「うん! 先輩達に比べたらまだまだだけど、

 もっともーっと頑張っていつか立派なアイドルになって見せるんだ!」

 

──ネットって、そんなに簡単なものじゃないよ。

 

そう言いかけた時に満面の笑みを見せつけられる。

どうしてもその笑顔を曇らせたくなくて、その言葉を口に残ったタピオカごと呑み込んだ。

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