家に帰ってスマホの画面を眺める。そこには別れ際に交換したみのりちゃんのIDが映っていた。
これで連絡を直に取り合うこともできるし、
なんなら普通に遊びに行く約束なんかも取り付けられる。
「あ、そうだ。咲希先輩に連絡しなきゃ……」
向こうも志歩先輩の連絡を待っているはずだから、もうその必要はないことを伝えないと。
「えーっと、お蔭様でみのりちゃんと知り合うことができました、ありがとうございますっと」
メッセージを送ればすぐに既読がついてスタンプを送ってくれた。
むこうからしたら何がお蔭様なのか分からないと思うけど、
連絡するために中継を取り持ってくれただけでも感謝しきれない。
思えば凄い遠回りだったけど、その遠回りのお蔭で神様もお慈悲をくれたんだと思えば……
そう思って眺めていると、友達から連絡が飛んでくる。
『ちょっと文ちゃんやばいやばい!』
『そんなに焦ってどうしたの?』
『こんなの回ってきたんだけど!』
『えっ!?』
その後に貼られた自分の動画のリンクに飛べば、それはSNSに投稿された動画だった。
それは宮女の制服を着て屋上で踊っているもの。
動画の終わりには私がバランスを崩したところで終わっており、
その後何とか復帰した部分はどこにも見当たらない。
その動画には『詐欺踊り手の決定的瞬間』と書かれている。
それはそれは大量に拡散されており、その返信欄には自分のチャンネルのURLまで貼られていた。
当然その動画だけでなく私の動画にまんべんなく叩くコメントが見られる。
スレもすごい勢いで伸びていた。
──あの時、誰かが屋上で隠し撮りしていたんだ。
これを送ってくれた友達はわたしの踊りを生で知らないわけがない。
むしろバズらせてくれたのはこの子の助力があったからだ。
今回だって何事かと心配して送ってくれたんだろう。
どっちの通知も切っておいたから気付くのに時間がかかったのは言うまでもないけど。
『どうするの文ちゃん! こんなんじゃ炎上必至だよ!』
『あー、潮時かなー。削除するよ。全部』
『えっ!? マジで!? 逃げたとか言われるよ!』
『どっちみち、ここまで広まっちゃったらダメだって』
文字通り潮時だった。別に収入は得られていたけど、ネットの最後なんてこんなものだ。
花火みたいに盛大に打ちあがって消える。お祭りみたいに笑顔で終われる方が少ないけど。
今拡散されている動画を通報した後、
自分のSNSのアカウントと、動画の投稿チャンネルを何の連絡もなしに削除して終わり。
これでネットでの連絡手段は連絡用のこのアプリと電話だけになったわけだ。
『うわ、本気で消えてる。まあ、文ちゃんがいいならいいけど』
『ごめんね。せっかく流行らせてくれたのに』
『いいよいいよー。バズらせ芸人の私の実力舐めてもらっちゃ困るよー?』
『あはは、ほどほどにねー』
そういってベッドの上にスマホを投げ出し倒れ込む。
そう。これでいいんだ。なのにどうして、こんなに悲しいんだろう。
どうしてか涙が止まらなかった。
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その日の翌日。そのまま泣き疲れて眠ってしまっていたわたしは通学前に朝シャンしていた。
鏡を見れば昨日の影響からか目元が腫れている。
アイマスクの要領で濡れタオルを当てて血行を良くして何とかごまかした。
「文ー、もうすぐいくよ?」
「もうちょっと! もうちょっと待ってー!」
軽く朝御飯を少なめにして早めにお風呂に駆けこんだから余裕があると思ったけど、
目元の腫れを取るのにかなり時間がかかってしまっている。
寒いし湯冷めしたら怖いしもうサクッと出ちゃおうかな。
髪の毛を雑に乾かしてお姉ちゃんと一緒に家を出る。
「そういえばお姉ちゃん、昨日ネットって見た?」
「ネット? ううん、別にこれと言っては見てないけど」
「そっか……ダメだよー? 流行の最前線くらいは自分で調べないと!」
「そのあたりはいいかな。好きなものだけ聞ければ」
確認のために一応聞いてみるけど、それらしいことは気付いていないっぽい。
そもそも動画サイトとか見てたとしてもMEIKOさんやKAITOさんの動画だけだろうから、
わたしの動画を知っているわけもないだろう。極めつけにはSNSをやっていないのも大きい。
今時にしてはかなり珍しい人種だと思う。特に女の子にしては。
でもそれが逆にわたしの活動に感づかれることがないと考えれば、いいことだと思う。
それはそれでちょっと心がもやっとしてしまったけど、その理由は分からない。
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「みんなおはよー!」
元気よく教室の扉を開け放ち朝の挨拶をすれば、自然と視線が集まる。
そいつもならなんだいつもの子か、みたいな感じで視線が外れていくけれど、今日は違った。
ほとんどの人がそのままわたしを追いかけている。
「ん? 何々? みんなどうしたの?」
おおよそ予想はつくんだけど、
それでもその注目が向いているという事を意識させるために態々とぼけた様子を見せた。
効果があったらしく大体のクラスメイトは視線を逸らしたけど、まだ数人ほどは残っていた。
「あ、鶴音さん、ちょっと、いい?」
「田中さん? いいよー」
「えっと、この動画って、鶴音さん、だよね……?」
おずおずと田中さんがスマホを差し出してくる。そこには昨日拡散されていた動画があった。
アカウントが違うところを見ると、バズり狙いで無断転載したんだろう。
「あ、うんそうだよー? もしよかったらお昼休みに踊ろっか?」
「う、ううん!? いいよ別に……それじゃ」
「じゃーねー」
そういって確認だけ取ってそそくさとその場を離れる彼女。
向こうの方ではこそこそとこちらに聞こえないように何か話していた。
「ねえ、あの子があの『Ayaya』って本当?」
「らしいよ。昨日チャンネルもSNSのアカウントも消してたしやっぱり嘘だったんだねアレ」
「うける。因果応報ってやつでしょ。調子乗っててきっもーい」
全部丸聞こえなんだけど、と言いかけるも別にここで反論したらまた燃える材料にされる。
結果として朝の話題はそれで持ち切りとなり、朝礼までその地獄は続くのだった。