荒野の少女と1つのセカイ   作:kasyopa

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第16話「その少女、黄昏につき」

 

家に帰ればお姉ちゃんとの勉強会が待っている。

体験入学がもうすぐ終わるってことは、模擬試験もあるということで。

最近はずっと付きっ切りで見てもらっていた。

 

えむちゃんに元気をもらったけど、やっぱり忘れられなくてやる気も起きないかった。

憧れがどんどん穢れていくようなそんな感じ。

 

「やる気出ないよー。なんか面白いこと言ってー」

「言っても変わらないでしょ。ほら、手が止まってるよ。次」

「はーい」

 

勉強中にそんなことを言い出してしまう始末。

お姉ちゃんはそんな言葉すら聞き流して勉強に集中させようとしていた。

とりあえず出された問題を全部解いて渡せば机の上に体を預ける。

 

「そんなに疲れてたの? それなら勉強会もまた今度でよかったのに」

「いいのー。お姉ちゃんと居られるだけでいいのー」

 

答え合わせをしてくれているお姉ちゃんの方を見る。

凛としていてすっごくかっこいい。それでいて勉強も出来るし笛も吹ける。料理はしないけど。

高校生活もやっぱり、お姉ちゃんと一緒の方が楽しいのかな。

 

「ねえお姉ちゃん、わたしが神高行くって言ったら喜ぶ?」

「……どうだろうね。でも、憧れの人がいたんじゃないの?」

「うっ、それは、そうだけどー!」

 

答案用紙から目を離さないお姉ちゃんは結構ドライな答えを返してくる。

確かに自分で言ったことだけど今それを持ち出してほしくはなかった。

 

愛莉さんに会えはしたけど、わたしの気持ちも何も伝えてない。

それこそみのりちゃんにお願いしたら会えるかもしれないけど、なんかそれは違う気もする。

こんなわたしの気持ちを伝えても、相手は何万、何十万って人々に歌や元気を届けてきた人。

軽く流されて終わりに決まってる。

 

「何か嫌な事でもあった?」

「……何にもない」

「そう。答案終わったよ。10問中8問正解。やり直し」

「えー! ちょっとくらいおまけしてよー!」

「先生はおまけしてくれないからね。ちょっと休憩しよっか」

「あれ? すぐにやるんじゃないの?」

「やる気、出ないんでしょ?」

 

そのままなだめるように、手のひらを頭の上に置いて優しくなでてくれる。

まるで猫をあやすようだったけど、妙にそれが心地よかった。

 

きっとさっきの発言を気にかけてくれている。

あれだけ宮女に行くって言って、最近まではすっごく楽しかった。

それでもわたしのせいでわたしの日常は変わってしまった。もう戻ることは出来ない。

なら同じ人とクラスになる可能性がある学校に行く必要はない。

まあ、神高にわたしのことを知ってる人が居たら意味ないんだけど。

 

「ねえお姉ちゃん、自分でもどうしようもなくなった問題ってどうする?」

「成り行きに身を任せる、かな。結果的には友達のお蔭で何とかなったけど」

「友達? お姉ちゃん友達いたっけ?」

「紹介してないだけでちゃんといるよ。と言っても家に呼んだりはしないけど」

「えー、咲希先輩以外にも友達いるなんていいなー」

「文だってちゃんと中学校の友達がいるでしょ」

「でも友達だって別の高校に行っちゃうんだよー? 全寮制のとことかさー」

 

ベッドの上に飛び込んでゴロゴロと転がって駄々をこねる。

高校ともなれば自分の目指したい事に向かって色々挑戦する子達も多い。

わたし自身が活発だから周りの友達も自分の好きなことに正直で、

離れた別の学校に行く子ばっかりだった。

 

「お姉ちゃん、お姉ちゃんは神高に行って後悔したことってある?」

「文からしたらすごく難しい質問だね」

 

急にベッドに座られた為に勢い余ってぶつかる。

別に痛くはなかったけど突然の出来事に混乱してしまった。

 

「ど、どうしたの?」

「難しい質問をしてるから真剣に答えなきゃって思っただけ。文、ちゃんと私の目を見て」

 

見下ろす形ではあるけど、ちゃんとわたしの目を見て話してくれる。

いつになく真剣な様子に気おされてしまい、起き上がって正座した。

 

「よろしい。質問の答えだけど、今のところは後悔はしてないかな」

「今は、ってどういうこと?」

「これから後悔するかもしれないってこと。文が自分に嘘ついたりしたら、って思うとね」

「あっ……」

 

静かに笑顔を浮かべているけど目は笑っていない。

あんまり踏み入ってこないお姉ちゃんが放つ言葉はナイフのように鋭かった。

 

こういう質問をした時点で自分にもそう思っている、とはよく言ったもので。

それを前置き無しに看破された。伊達にずっと一緒にいるわけじゃないって様子で。

 

「文に何があったかは私には分からない。

 それについて聞きはしないけど、文はまだ一人で悩めるほど大人じゃないでしょ?」

「じゃ、じゃあ誰に相談したらいいの?」

 

恐らくこれ以上お姉ちゃんから聞いてくれることはないだろう。

実際、わたしも心配をかけたくないからこれ以上話すことはしない。

でもそれなら誰に頼ればいいんだろうか。

 

「自分のこと良く知らない相手だから相談できるって人、文にもいるんじゃないかな」

「ん? お姉ちゃんにもいるの? そんな人」

「最近知り合った人に、1人だけね。それでもその人は全然学校に来ないんだけど」

「問題児じゃん!」

「そうだね。でもそれは、学校や社会って範囲から見た場合の問題児だから」

「……?」

 

空気を和ませようとツッコミを入れるもそれを別の言葉で返されてしまう。

その意味も理解できずにフリーズしたわたしを見て、お姉ちゃんは話を切り上げた。

 

「ふふ、ごめんね。文にはまだ難しすぎたかな?」

「あー! お姉ちゃんが馬鹿にしたー!」

「これは解らなくて当たり前だから。さ、勉強の続きするよ」

「……はーい」

 

わかる、わからないはひとまず置いておいて、

まずは試験問題くらいは分かるようになりたいわたしだった。

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