荒野の少女と1つのセカイ   作:kasyopa

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第17話「その少女、温情につき」

朝になって登校すればやっぱり視線は集中する。それでももうすぐ模擬試験となれば話は別で。

基本的には遥さんや愛莉さん、雫さんになんとか取り入ろうとする人達ばっかりなんじゃ、

とも思えてしまう。

 

憧れの人に近付こうという気は解らなくもない。

前までのわたしがしていたことだって、この人達と変わらない。

 

「(馬鹿みたい)」

 

あの人達だって血のにじむような努力をして人の前に立っていた。

それを才能だのインチキだのと罵声を浴びせて観客に引きずり降ろして、

挙句の果てには同情の念を見せて「わたしは味方です」だなんて見せかける。

 

今までのわたしも、誰もが愚かに見えてきた。

 

「……参ってるなー。わたし」

 

授業を適当に聞き流してやってきたお昼休み。

ドロドロした感情を自覚していたからこそ、あんまり人には会いたくなかった。

 

「あっ、文ちゃん一緒にご飯食べよ!」

 

そんな気持ちも知らず元気で明るい声をかけられる。

みのりちゃんだ。その後ろにはこはねちゃんももいる。

 

「ごめん、実は別の子と食べる約束してて。じゃあね」

「あっ……」

 

適当な嘘をついてその場を離れる。

勘の良い人ならすぐに気付けそうなくらいありきたりだったけど、

お互いをそんなに知らない人だから踏み入って聞いてくることもない。

もしかしたら追いかけてくるかもと思ったけど、一方的に終わらせた会話のお蔭かそれはなかった。

 

上手く撒くことができたわたしは、食堂の片隅に空いていた1人用の席に座りお弁当を広げる。

今日は天気もいいから学食を食べに来ない限りは訪れない場所。

気にかけてくれることは嬉しかったけど、良い人だからこそ心配をかけたくない。

それが友達ならなおさらだった。

 

──自分のこと良く知らない相手だから相談できるって人、文にもいるんじゃないかな。

 

「そんな人、いるわけないよ」

 

相談できる時点でわたしの事情に踏み入らなきゃいけない。

それでもなお手を差し伸べようとする人なんて──

 

「あれ、文ちゃん? 今日は1人?」

「あっ……穂波先輩」

 

ふと声をかけられて顔を上げればそこには1人の先輩が立っていた。

望月穂波先輩。わたしが空腹で倒れてたときにパンをくれた恩人さん。

弁当箱を持ってるけど周りには誰もいない。あの時は3人と一緒だったのに。

 

「えっと、はい。穂波先輩も1人ですか?」

「うん。クラスの友達と食べる予定だったんだけど、先生から呼ばれてたみたいで……

 もしよかったら隣、座ってもいいかな?」

「ど、どうぞ」

「ありがとう。いただきます」

 

断る理由もなかったけど、本当は断っておくべきだっただろうか。

この人こそ一番余計な心配をしてしまう人な気がする。

お互いの距離感も解らないのに、どうしてものかと考える。

 

「………」

「………」

 

黙々とお弁当を食べるだけの2人。

穂波先輩はこちらの様子が気になるのか、どことなくソワソワしている。

 

「えっと……良かったらお茶、入れてこよっか?」

「大丈夫です。先輩にいれてもらうなんて後輩失格です。それならわたしが」

「あっ、ううん! わたしも大丈夫だから」

「そうですか」

 

会話はそこで終わり再びお弁当へと視線を戻す。一度助けてもらったのに酷い返事だ。

それに穂波先輩もなんとかして会話を始めようとしているのに終わらせてしまう。

心に余裕がないとはいってもあまりに塩対応が過ぎた。

 

「あの、あの時はありがとうございました。見ず知らずのわたしを助けてくれて」

「あの時は……わたしが勝手にやったことだから、気にしないで」

「じゃあ、わたしはこれで」

 

まだ食べかけのお弁当を片付け、その場を後にしようとした。

 

「あっ、待って」

 

消えそうなくらい小さな声だった。それでもわたしの足を止めるには充分すぎる。

心のどこかで聞いてほしいと願っている、そんなわたしを。

そんなわたしを見て彼女は意を決したように目を見て話し始めた。

 

「もし、悩んでることがあるなら、聞かせてほしいかな。もしそれで楽になれるなら……」

 

この前会った時のわたしを重ね違和感を覚えたんだと思う。

でもそれを相手に伝えるのは、難しいことだ。勇気のいることだ。

 

やっぱりこの人は優しすぎる。優しいからこそ背負い込んでしまう。

一度ならず二度までも差し伸べられた手は、温かいに決まっていた。

 

「……どうして、そこまでするんですか?」

「えっ」

「わたしのこと、何も知らなくて。つい最近知り合ったばっかりなのに」

 

しかしわたしは悪い言い訳ばかりを口にする。差し伸べられた手を振り払おうと努力する。

 

「わたしがお姉ちゃんの妹だから、じゃないですか?」

 

首を突っ込めば格好の見世物になったわたしの火の粉を浴びることになる。

これ以上誰かを巻き込みたくない。引き離す為の言葉を自分の中から引っ張り出した。

ここまで言えば、わたしを酷い人間だと思って見捨ててくれる。

もしくは返す言葉もなく止まってくれるだろう。

 

「鶴音さんのことは関係ないよ。わたしは、文ちゃんの事が心配だったから。

 だから、よかったら話してくれないかな」

 

でも、その人は優しい笑顔で手を差し伸べた。

 

「……穂波先輩は優しすぎますよ」

 

その手を取って席に戻る。頬には一筋の涙が流れていた。

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