荒野の少女と1つのセカイ   作:kasyopa

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第19話「その少女、乱舞につき」

「みのりちゃん……今度わたしのおすすめのお店教えてあげるから……」

「文ちゃんこそ……わたしのおすすめのTシャツもってきてあげるから……」

 

己のプライドを駆けた壮絶な戦い(?)はようやく終わりを告げ、

何故か肩で息をするくらいまで気力を使い果たしていた。

今回は引き分けという事でお互いに笑い合う。

 

「あははは、みのりちゃんはほんと、元気だよね……」

「ううん、そんなことないよ。

 わたしが元気なのはわたしに"明日を頑張る希望"をくれた人がいたから」

「明日を頑張る希望……?」

「うん。『今日がいい日じゃなくても、明日はいい日になるかもしれない』って!」

 

すごく前向きな言葉だ。その言葉を送った人が誰かはわからないけど、

それはみのりちゃんにとっての太陽となって心の中を照らしている。

例え道が見えなくなってもその光を目印に進めるくらい、明るくて素敵な希望。

 

「だからわたしもそんなアイドルになれたらって頑張って。

 まだまだだけど、でも、友達が暗い顔をしてるなら、ちょっとでも明るくしてあげたい!」

 

再び真剣な表情に戻るみのりちゃん。その大きな瞳にはわたしの顔が写っていた。

軽いステップと共に少し距離を開けて、スマホの音楽を再生する。

それはわたしがここで初めて聞いた音楽。

 

そのダンスはあの日よりもずっと上達していて、それなのに楽しさや初々しさは変わらない。

フルコーラスでもずっと表情は崩れない。わたしとみのりちゃんの2人きりのライブ。

いつしかわたしは今を忘れて歌を口ずさんでいた。

 

やっぱり、好きなものはいくつあってもいい。

それがかつて愛していたものであっても、今から愛することになるものでも。

 

そんな中で沸き立つ情熱を胸の内に滾らせながら、必死にみのりちゃんを応援した。

 

 

 

肩で息をするみのりちゃん。流石にフルコーラス分も踊れば息も上がる。

それも歌いながらともなればそれは並みの運動量じゃない。

 

「どう、だった?」

「とっても素敵だった! 本物のアイドルって感じで……すっごく元気をもらえたよ!」

 

アイドルとしての技術はまだまだだって言う事は、みのりちゃんだって解っている。

それでも、初心者のわたしだってわかるくらいの凄い希望に満ち溢れていた。

 

その言葉を受け取ってくれた彼女は満足げに笑う。

みのりちゃんのこの健気さで元気づけた人達の数をわたしは知らない。

でも絶対にこれを失っちゃいけないんだということは分かった。

 

「みのりちゃんの言葉、遥さんがASRUNの時に言ってたんだね」

「そうなの! それで遥ちゃんに憧れて、

 わたしも希望をあげられるアイドルになれたらって思ったんだ!」

「みのりちゃんなら絶対なれるよ! わたし、みのりちゃんのファンになってもいいかな?」

「うん! 文ちゃんなら大歓迎だよ!」

「ありがとー!」

 

そういってわたしはみのりちゃんに飛びつく。

と言ってもダンスで疲れているから優しく抱きしめる程度で。

 

大好きを伝える為に、もっとみのりちゃんのそばにいてあげたいって思った。

そしてなにより友達に、新しい憧れの存在に、お礼がしたかった。

 

そのおかげか──今は踊りたくて仕方がない。

明るい曲だとか、アイドルが目の前で踊っているからとか、そんなのは関係ない。

自分の空白を埋めるために踊らされていたわたしだけど、今は違う。

わたしが、わたしの意思で踊りたいって思っている。

 

「ねえみのりちゃん。もしよかったらわたしのダンスも見ていかない?」

「……! うん、見たい!」

 

ここでやめたんじゃ、なんて無粋なことを聞く人じゃないことに心から感謝しつつ、

自分のスマホからある曲を引っ張り出す。

 

「いくつもある好きを灯したい! 鶴音文、行きます!」

 

滾る気持ちに火をつけてわたしの大好きな曲を再生する。

マジカルミライ2018のテーマ曲。わたしの中のミクちゃんとの初めまして。

 

ライブではそんなに動きが激しくない曲だけど、今から踊るのは自己流。

他の模倣なんて言われてもそんなの関係ない。今のわたしの気持ちを表現する為に全力を尽くす。

 

わたしの胸にある光で誰を照らせるかは分からない。

でもどこかで誰かが見つけてくれて、その人の好きになれたのなら。それはとっても素敵な事。

アイドルみたいにキラキラした希望じゃなくていい。

自分の中の光を見つけられる灯火になれたらそれでいい。

情熱を燃やす火種になれたらそれでいい。

 

──だからわたしは、わたしの道を行く!

 

曲が終わると同時にその場に倒れ込んだ。夕日が空を黄金に染めている。

そんな空ににてわたしの心も輝いていた。

 

「もしまた動画上げることになったら、その時はライバルになるかもね」

「……えっ!?」

 

そんなわたしの発言に言葉を失っているみのりちゃん。

それもそのはず。最近彼女が知っているわたしの姿は、泣いていた時のわたし。

それが数日と経たずにお礼にと自分のやりたいことをやって見せた上に、

ライバル発言まで下となれば当然の反応だった。

 

「もしかしてわたし、とんでもないことしちゃった……?」

「そうだよ? よろしくね、みのりちゃん!」

 

実際の所は穂波先輩の相談のお蔭もあったりするけど、

やりたいことを見つけ出してくれたのはみのりちゃんに他ならない。

 

「後輩がファン1号でライバル!? え、えっとこれって喜んでいいのかな、それともダメ?」

「ダメに決まってんでしょ!」

 

ドアを蹴破らんと屋上に上がってきたのは愛莉さん。

そのままの勢いでみのりちゃんが説教を受けていた。

 

「心配になって見に来たんだけど、大丈夫みたいね」

「その代わりにとんでもないライバルが出てきちゃったみたいだけど」

 

そんな言葉と一緒にわたしの隣に立ったのは雫さんと遥さん。

遠目にみのりちゃんのことを眺めているのを見ると、

ほんのちょっとだけこのユニットの秘密が解った気がする。

 

この人達みたいに一緒に歩く道もあったかもしれない。でもわたしの目指す場所は別にある。

だとしても、友達として少しでもそばに居られるように。わたしは決心を新たにするのだった。




グリーンライツ・セレナーデ/Omoi

次回、宮女編、最終回
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