バイトを終えて帰宅した私は宿題を終え、静かにKAITOのソロ曲を聴く。
ピアノの伴奏だけでただ、優しい歌詞が流れるだけの様な曲だ。
一年位前の曲でも、KAITOの曲からすれば随分と新しく感じてしまう。
「こんな静かな、温かい曲もたまにはいいよね」
秋はもの悲しさを覚える季節、とよく言われる。だからだろうか色んな事を悲観的に考えがちだ。
特に考えてしまうのは、セカイの事。
『セカイは、君の想いで出来たこの場所のことを言うんだ』
決して荒れた街並みなんかじゃない。明かりがないわけでもない。
色彩が失われ鈍色に覆われたセカイ。
これから終わっていく兆しを見せるような冷たい風。命が感じられない大地。
枯れた桜の木もまだ根を張っていたがいつ倒れるかもわからない。
初めて見た時は考えようとして、やめた。家に帰ることだけを考えていたから。
けれど今やることもない私が考えてしまえば、阻むものなどどこにもなかった。
いけない傾向だと頭が警告を発し始めた頃、ちょうど別の案が降ってくる。
「そうだ、ネットなら何か情報が乗ってないかな」
こういった不思議な現象が起こっているのなら、
一部の界隈で話題になっていてもおかしくはない。
パソコンからSNSや都市伝説をまとめたウェブサイトなどをはしごしてみる。
しかしヒットするのは明らかに誤変換の文章や、
ウェブ小説などで意図的に変換しているものくらいだった。
クラスメイトに聞いてみる……のもやめておこう。
オカルトに詳しい友達なんて一人もいないし、逆に聞かれて色々ボロが出たら怖い。
それに大体そんなことを言っても、アニメか何かの話だと思われて終わりだろう。
騒がれていないという事は本当に誰も知らないのか、
知っている人が少なすぎる上に隠している、という可能性がある。
どのみち私が今ここでそういった情報を発信する度胸はなかった。
スマホにはまだUntitledが残っている。
再生すればセカイに行くことができるし、
なんならMEIKOやKAITOに聞くことだってできるだろう。
しかしセカイとはなんなのかという、私はまだ本当の意味を知らない。
そもそもセカイとは、という問いに対しての回答が曖昧過ぎる。
私が知りたいのは成り立ちや、それが自分にとって本当にいいものなのか、ということだ。
端的に言えば、安心できるのか否かという単純な物に過ぎない。
『私の、本当の想いを……こんな寂しいセカイでも、あるっていうの?』
『あるわ、必ず。今はまだ見えないかもしれないけれど、それを手伝うために私達が居るのよ』
あの時のMEIKOの顔は真剣そのものだった。
どこからそんな自信が湧いてくるのか分らないけれど、
大人の女性が言うことだからとこちらも信じてしまった。
──そもそも何故彼女達は私を助けてくれるのだろうか。
MEIKOもKAITOも、私の知るソフトとしての存在じゃない。
ちゃんと人格を持ちセカイの中では実体を持つ。
現実世界に干渉してこないのは騒動などを予見してのことだろう。
あそこまで高度な人工知能も自分の知りえる範囲では存在していないのだ。
もしあれほどの精度のものが作れるのなら、よほどの天才か変態かに違いない。
どの道社会不適合者であるのも違いないだろう。オタクからは称賛されるだろうけれど。
最初はあちらから誘われた。何らかの事故だったのなら二度と繋がりはしないだろう。
二度目は私の方から訪れた。無事に帰ることも出来たから害のある物とは考えづらい。
でももし、彼女達が自分のことをだましていたら。
要点だけ器用に話さず上手くことを運ぶ様な事をしていたら。
彼女達に悪意はなくても、第三者が介入してきたり操られている可能性だってある。
こんなのはただの疑念に過ぎない。それでも考え出したら止まらないのが私の性だった。
ともなると今セカイに行く気は起きない。
かといってこの疑念に身を任せUntitledを削除する気も起きなかった。
なにより大好きで尊敬する存在が、私の生み出したセカイで二人孤独に待ち続けている。
私の、『本当の想い』というものを見つける為に。
あのセカイが、どういった経緯で生まれたかは知らない。
でももし、あの場所に彼女達の言う本当の想いがあるのだとしたら。
それを懸命に探してくれる誰かの想いを消し去りたくはない。
彼女達の終わりを決めるのはいつも私達の様な、聞く側の人間なのだ。
私達が見つけた時にその存在が確立され、居ないと言えば居なくなってしまう妖精の様なもの。
実体を持たないとされる空想の存在。忘れられ、捨てられる。
そんな出来事をモチーフにした曲もたくさん歌われてきた。彼女達がそんな存在であるが故に。
消えてほしくないエゴと、終わったという観衆に揉まれ彼女達は私達が憎くないのだろうか。
歌いたくもない曲を歌わせるよりも、それはもっとむごいことではないのだろうか。
「そんなこと、聞けるわけないよ」
ベッドに倒れ込み天井を仰ぐ。考えすぎかそれとも単に眠かったからか。
私は急に重くなった瞼を閉じ、眠りの世界へと落ちていくのだった。