荒野の少女と1つのセカイ   作:kasyopa

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宮女編 サイドストーリー
アニマルフレンドシップ 前編


1人の少女が街中を歩く。その足取りは軽くその手には紙袋が下げられていた。

 

「~~♪」

 

彼女の名前は鶴音文。今日は動画で稼いだお金で自分用の服を買い求めている最中であった。

 

「やっぱり若者の街って感じだよねー。

 地元の方じゃ全然手に入らなかったトレンドもすぐ手に入るし」

 

元々鶴音姉妹は叔父と叔母に預かられた関係でこの付近の出身ではない。

その為トレンドを追おうとしても品数の少ない地方では到底追いつくことが出来なかった。

今では街を歩くことにも慣れ雑誌の立ち読みなどで仕入れた情報を元に、

様々なお店をはしごするまでになっていた。

 

「とりあえずお姉ちゃんの服も買えたし、

 ミクちゃんのライブ動画も見たいからもうそろそろ帰……あれ?」

 

ふと路地裏で丸まっている黒い影を見つけ思わず駆け寄る。

そこには一匹の黒猫がビル風に震えて身を縮めていた。

 

「猫さんだ! でも寒そうにしてる……」

 

この辺りで野良猫というのも珍しい話ではあったが、

安直に移動させては環境の変化や他の野良猫との縄張りの関係もあり、

そう簡単に干渉していい問題ではなかった。

 

特に餌をあげるのはもってのほかであり、そのあたりは文も重々に理解していた。

迷っているうちに猫は文の存在に気付いたのかじっと眺めた後、そっと頭を摺り寄せてくる。

 

「あうう、寂しいよね、寒いよね……でもごめんね。うちペットダメなんだー」

 

叔父と叔母の仕事の関係上面倒は見てやれない。自分達も学生として出来ることは限らている。

お金に余裕がある家庭とは言え、時間に余裕のない家庭でもあった。

しかし文自身もこんな場所で見つけてしまったからには、放っておけないのも事実。

 

「うーん……そうだ!」

 

何かを思いついた文は猫を抱きかかえ走り出した。

 

 

 

人目を誤魔化してなんとかたどり着いたのは自宅。

晩御飯の支度をしている叔母に気付かれないように急いで自室へと駆け込み、紙袋を置いた。

 

「ふー、もういいよー猫ちゃん」

 

服が入っていたはずの1つの紙袋が自然と倒れ、中から先ほどの黒猫が顔を出す。

しかし見慣れぬ空間であるからか不安がって尻尾が変な方向へと向いており、

見つけた時と同じように縮こまってしまった。

 

「怖いよね。でも大丈夫だよー。お水持ってくるね」

 

そういって扉を開けた先、笑顔で佇む1人の女性が居た。

 

「文ちゃん、帰ってきた時はちゃんと挨拶くらいはしたらどう? それにその猫、どうしたの?」

「お、叔母さん……」

 

当然文の後ろにいる猫の存在にも気付いている。

しかしその背後からは般若のお面が見えるかの様な怒気を発していた。

 

「お願い叔母さん! ちょっとの間! ちょっとの間だけだから!」

 

謝るならば先手必勝と言わんばかりにその場で勢いよく土下座してなんとか許しを請う。

漫才やアニメの如く見事なものであったが、それに動じるほど甘くはなかった。

 

「文ちゃんのお願いだから聞いてあげたいんだけど、流石にペットはね」

「里親探すのはダメ!? ほら、叔父さんの勤め先に張り出してもらうとか!」

「うーん、それくらいならいいけど、もし見つからなかったらどうするの?」

「ね、ネットで募集する……」

「……はあ、とりあえずあの人にもちゃんと言うのよ。

 それでだめだったら元の所にもどしてくる。いい?」

「……分かった」

 

普段は優しいが家庭内で決められたルールというものは存在している。

ダメなことはダメという叔父と叔母であったため我儘に育つことこそなかったが、

それでも堪えてしまうものはあるのだった。

 

 

 

叔父が帰ってきてからの交渉の末、半月ほどなら面倒を見ていいとのこととなった。

それに気分を良くした文は近くのコンビニで餌を買ってきて与えている。

 

「お腹空いてたよねー。ごめんねドタバタしちゃって」

 

ペースト状になった餌を無我夢中で舐めとる仕草は見ててほっこりするものの、

その必死さからそれまでの過酷さが見て取れた。

 

餌の時間が終わってからは少しでもいい所に貰われるためにと、

ブラッシングなどで毛並みを整えていく。

その際もしかして迷子の猫かもと首輪を確認してみたものの、そんなことはなかった。

 

ただ動物に懐かれやすい体質であることは自負していても、扱いに慣れているわけではない。

ネットの海から得た情報を元に簡単に出来ることは全てやるつもりだった。

しかし、問題が1つ浮上する。

 

「お風呂、どうしようかな……」

 

流石に屋外にいた猫であるため、衛生面でも猫の健康面でも気にかかる汚れ。

今は大人しくしているが豹変してしまう場合もあり得る。

だといって入れないわけにもいかなかった。

 

「文、お風呂空いたよ」

「あ、お姉ちゃんありがとー。うーん」

「どうしたのそんな思い悩んで。もしかしてこの子のこと?」

 

言葉がノックの後、扉の外から声をかけてくる。

しかし思い悩んでいる彼女にとってそれはあまり関係のないことだった。

 

「うん。お風呂に入れてあげたいんだけど、やっぱり嫌がるかなって」

「それならホットタオルでどうかな。別に濡らすわけじゃないし嫌がることはないと思うよ」

「お姉ちゃんナイスアイディア!」

 

その後、無事外見を洗い終えた文はお風呂を済ませて自分のベッドにもぐりこむ。

 

「あとは里親探しかな。よーし、頑張るぞー!」

 

気合を入れる中で、もぞもぞと動く小さな影。

猫が新たなぬくもりを求めて同じくもぐりこんできたようだ。

 

「喉に悪いかもだけど、暖房付けっぱなしで寝ようっと。この子の為だもんね」

 

短い間とはいえ新たな家族であることに変わりはない。

ほんのりとそのぬくもりを感じながら、文は眠りに落ちるのだった。

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