荒野の少女と1つのセカイ   作:kasyopa

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アニマルフレンドシップ 後編

文の元に猫がやってきて1週間が経過しようとしていた。

里親募集の張り紙を自作し区役所に掲載してもらっているも未だに希望者は現れず、

自分のアカウントで募集をかけてみるも鳴かず飛ばずであった。

 

むしろ猫の方が文達の生活に慣れてしまい、特に文に対しては完全に心を許しているようで。

 

「ただいまー」

 

帰ってきた挨拶をすればすり寄ってくることは日常茶飯事で。

時折待ちきれない様子でドアに爪を立ててしまうこともあるほどだった。

もちろんその修理費は文のお小遣いから天引きされている。

 

部屋の隅で毛布にくるまっていたところ、

その声に気付いた途端に起きだし喉を鳴らして近付いてくる。

なんとも愛くるしい仕草ではあるが、それでも残された時間が延びることはない。

 

「誰か引き取ってくれる親切な人はいないかにゃー」

 

今では日課になった猫用のじゃらすおもちゃでまったり遊ぶ。

最近は猫用のおもちゃや餌で文の財布事情も苦しくなっていた。

かといって今更見捨てるわけにもいかない為、

早く里親になってくれる人物が現れるのを待つしかない。

 

愛着が無いと言えばウソになる。それでも現実はそう甘くはない。

文からしても叔父と叔母には頭が上がらないのは当然のことであった。

 

「ただいま」

「あ、お姉ちゃんおかえりー」

 

帰ってきた姉に対し、前足を持って招き猫のポーズで歓迎する文。

それに気付いた言葉も思わず笑みをこぼした。

 

「まだ里親、見つからないんだよね」

「そうなのー。お姉ちゃんの方もダメだった?」

「そうだね。友達も親が病院勤めだから無理だって」

「うーん、どうしよう」

 

言葉の方もよく話しかけてくれる友人に尋ねてみたものの空振りだったらしい。

不安で手が止まったことに違和感を覚えたのか、ねだるように頭を擦り付けてきていた。

慌てて再開すればまた心地よさで喉を鳴らしている。

 

「こんなに可愛いのにねー。動物でも猫は動物園じゃ預かってくれないし」

「動物園……もしかしたら」

 

何か思いついたのかスマホを取り出して軽く調べる言葉。

名案を期待して猫を抱えたまま近付いていく。

 

「あった。行き場のない猫を保護して猫カフェにしてるところ」

「猫カフェ?」

「うん。前に情報番組でそういうお店があるって見たから。

 そこならもしかしたら引き取ってくれるかも」

「そ、そこの住所教えて! わたし連れて行ってくる!」

「落ち着いて。今から行っても開いてないよ。

 むしろこの人達だって里親募集してるから、預かって貰えるって決まったわけじゃないし」

「うー、そんなに簡単に行かないかー」

 

ひとまず当てずっぽうに募集をかけるよりかはいい。

文は一縷の期待を胸に再びそばに寄り添っていた猫の頭を撫でた。

 

 

 

ひとまず休日に都合を合わせ、最寄りの猫カフェへと向かってみたところ……

 

「あら、鶴音さんの所の。事情は先生から伺ってるわ。入って入って」

 

オーナーの女性にそう言われて通されたのは店の中。

開店直後の為か客はまだいないものの、既に数匹の猫達が各所に散っていた。

 

「えっと、先生って?」

「先生は先生よ。あなた達の叔母さん、といった方がいいかしら?」

 

自分達の叔母が料理教室の先生を勤めていることは承知していたが、

その生徒である人物が猫カフェを経営していたことは当然知らない。

なにより叔母が知らぬうちに手を回していたことも初耳であった。

 

「えっと、猫カフェで料理、ですか?」

「あら、食べ物のメニューがあっても何も珍しいことじゃないわよ?

 それに、出来れば猫ちゃん達にも手作りで育ってほしいじゃない」

「随分こだわっているんですね」

「もちろん。この子達だって立派な家族ですもの」

 

里親を募集しているとはいえ、今の飼い主は彼女である。

そのあたり妥協できない性格なのだろう。

 

「話を戻すけど、その子が預かってほしい猫ちゃん?」

「はい。大人しい子なので、新しい所だとびっくりしちゃうかも……」

 

動物用のケースを開けて出ることを促せばゆっくりと姿を現す。

しかし見慣れない光景に驚いたのか文の方へ近寄り丸まってしまった。

 

「あら可愛い子。随分と懐いてるのね」

「はい。わたし動物とは仲良くなるの得意なんです。でも、このままじゃいけないなって」

 

心細いのは分かっていた。見知らぬところに行くことは怖かった。

それでも守ってくれる人の元でなければ生きてはいけない。

かつての自分のように甘えるだけではいけないのだという事は、当の昔に気付いている。

 

「だから、この子をどうかお願いします」

 

心からのお願いで頭を下げる。いつものお茶らけた雰囲気はどこにもなかった。

 

「はい。責任をもって預からせてもらいます。

 そういえば文ちゃん、その子の名前を付けてあげないの?」

「えっ、でも今はオーナーさんの猫だし……」

「何言ってるの、元々の家族はあなたでしょ。子供には責任もって名付けなきゃ」

 

里親になる人物の為に名前を付けないようにしていたのだが、仮にも一度は迎え入れた身。

少しだけ考えて、文は口を開く。

 

「なら、オニキスで」

 

その黒い毛並みから名付けられたことを知ってか知らぬか、

オニキスは上機嫌に、ニャオと一鳴きするのであった。

 

 

 

それからしばらく経った後のこと。文が夕食後リビングでのんびりテレビを見ている時。

あるバラエティー番組で芸能人が街巡りをしているものだった。

生放送ではないのだが、近所を紹介するとのことで言葉も隣で眺めている。

 

『そういえばこの辺りで話題のカフェがあるみたいですよー』

『あ! 知ってます! なんでも猫ちゃんがお出迎えしてくれるとか……』

『よくご存じですね! こちらになります!』

 

リポーターの合図でカメラが向けられた先にあったのは、文が訪ねたカフェであった。

カメラは店内へと移りオーナーが出迎える。

 

「あ、あの猫って文が面倒見てた子じゃない?」

 

レジの横では小さなクッションの上に1匹の黒猫が鎮座しており、

来客の存在に気付て器用に前足を片方だけ動かしていた。

その動きこそ、姉が帰宅した際に毎度の如く文がやっていた動きそのものである。

 

「うんそうだよー。お姉ちゃんと勘違いしてるのかもね」

 

テレビで取り上げられるまでになれば、オニキスの里親が見つかるのも時間の問題だろう。

 

「愛莉さんも続けてたら紹介してくれたりしたのかも……」

 

そんな淡い期待を抱いてしまう。

しかし愛莉は猫好きであるが猫アレルギーということを、文はまだ知る由もない。

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