それは文と言葉が地元の商店街へおつかいに訪れた時であった。
「あ、お姉ちゃん、福引やってるよー!」
商店街の入り口に人だかりが出来ている。
何事かと思い文が何度もジャンプして確認したところ、福引をやっているようだった。
買い物を終えた人々が抽選券を片手に自分の番は今か今かと待ちわびている。
耳をすませばガラガラと抽選機を回す特有の音と、時折ハンドベルが鳴り響いていた。
「とりあえず買い物が先だね。福引はもらえたらやろっか」
「2人だからいっぱいもらえたりしないかな?」
「それはないと思うな」
そんな会話を交えつつ人が混みあわない内にに最短で買い物を済ませる言葉と、
自分の財布と相談しながら関係ないものを詰め込んでいく文。
様々な店を回っても、実際にもらえた抽選券は2つだけであった。
「何円ごとにお買い上げーって感じじゃなかったね。残念」
「でもまあ、2人で来たから2回チャンスがあるし、いいんじゃないかな」
文の中では買い物よりも福引の方が本命になっていたらしく、
どうにかしてもらえないか画策していたらしい。
しかしズルはいけないのでダメと分かると大人しく引き下がっていた。
福引会場では先ほどより落ち着きを見せていたが、それでも並ぶ必要はある。
その間に2人は景品の確認をしていた。
「1等は赤色で、温泉旅行だって!」
「へえ、叔父さんと叔母さんの日頃のお礼にいいかも」
恩返しができるとなると普段は乗り気ではない言葉も少しだけやる気に満ちる。
順番が回ってきてまずは言葉から。数回回して出てきたのは白玉だった。
「こちら箱ティッシュになりますー」
「ありがとうございます。まあ、早々当たらないよね」
「じゃあ次わたしがやるー!」
そういって文は抽選機が壊れない程度に素早く回転させる。
すると黄色の玉が飛び出してきた。
「大当たりー!」
「あ! お姉ちゃん当たったよ!!」
「本当だ……それで、黄色は何だった?」
受付の人がベルを鳴らして盛り上げる。1等ばかりに気を取られてしまうのはよくあること。
2人が景品の内容を調べるよりも先に差し出されたのは──
「こちら、2等のフェニックスワンダーランドのペアチケットになります!」
割と近所にあるテーマパークのチケットだった。
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家に帰った文は手に握られた2枚のチケットを見つめていた。
期限に余裕はあるものの、いざ行こうとなると早い方がいいと今週末に予定を定め、
その為の相手を探していたのだが……。
まずは姉を誘ってみたものの、最近遊びに行ったからという理由で断られてしまった。
それほど最近、というわけではないが新鮮味が失われた今では、
たとえ妹と一緒であってもそこまで魅力を感じないとのこと。
「クリスマス近くだから、恋人と行くには絶好だったかもね」
あいにく2人とも色恋沙汰とは無縁であった。
フェニランのテレビCMでも大きなツリーが映し出されていたり、
クリスマスショーの予定が組まれていたりと、なかなかに心躍る内容ではあるのだが。
自分の中学校の友人達を誘うかと思ったものの、
本来その日は皆でショッピングやカフェを巡る約束をしていた為、
結果としては文が断った形になる。
そんな状況でさらに1人友人を引き抜いてフェニランに行くのは流石に気が引ける。
既に連絡先を知っている2人の先輩を誘ってみたものの鳴かず飛ばずであった。
咲希は当然幼馴染の4人別の予定があり、
みのりはみのりでMORE MORE JUMP!の面々でスタジオレッスンがあるそうで。
いっそのこと叔父か叔母を誘って行こうか、というところでスマホが震える。
それはみのりからであった。
『文ちゃん、フェニラン行く人決まった?』
『ううん、まだー。もしかして一緒に行けるとか?』
『あ、わたしじゃないんだけど、わたしの友達でよかったら……
文ちゃんも知ってる子だから大丈夫だと思うけど、どうかな?』
『本当!? お願いしまーす!』
自分も知っている人物なら大丈夫だろうとその案に飛びつく。
結局のところ誰か名前を聞かないまま、お互いにその日の夜は更けていくのであった。
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待ち合わせ日当日。
フェニックスワンダーランドでは冬季の長期休暇の影響か学生の姿がよく見られた。
「そういえば連絡先って教えてあげてなかった」
と言ってもみのりは既にレッスンが開始しているからか返事はなかった。
一度こういうことがあったな、とみのりと屋上で再会した時のことを思い出す。
しかしこうも人が多いとお互い見知っていたとしても人込みに紛れてしまう。
何か目立つこと、とはいっても他の人に迷惑をかけても悪い。声を上げるなんてもってのほかだ。
そこで文は入場口で流れる曲に合わせて軽いステップを踏んで軽いパフォーマンスをする。
曲が変われば雰囲気を変える。体力には自信があるため気にすることもない。
姉のように人が集まることはないが、同じように待ち合わせをしている者達の目は引いた。
あまり人前でパフォーマンスをしたことのない文であったが、
これはこれで悪くないと思い始めた時のこと。
「あの、えっと……もしかして文ちゃん?」
ベージュのおさげを2つ下げた少女が声をかけてくる。
大人しめなその雰囲気を文は記憶していた。
「あ、こはねちゃん! ご無沙汰してまーす!」
お互いにうさぎの案件でそれきりになっていた2人は、
みのりという共通の友人をもって再び巡り合ったのであった。