文は早速チケットをこはねに渡してゲートをくぐる。
いつにも増してお客さんで賑わっていてこれもクリスマスシーズンの影響だろう。
「わー、前に来た時と全然違うー!」
こちらに出てきて初めて行ったときに比べれば目新しいものばかりで、
思わずテンションが上がってしまう。
「もしかして文ちゃん、フェニランに来るのは久しぶりだったり?」
「うん。中学上がりたてくらいの時だったかな。叔父さんと叔母さんが連れて行ってくれたの」
「数年振りなんだね。もしよかったら私よく来てるし、案内しようか?」
「はい! お願いします!」
こはねの案内の元フェニランを回る。
田舎出身の文からすれば2時間や3時間待ちと表記を見るだけでもうんざりしてしまうのだが、
そのあたりを完璧に熟知しているこはねからすれば見慣れた光景。
無論それを考慮に入れて練りに練った巡回コースのお蔭で、
大して待つことなくアトラクションを楽しむことが出来た。
「凄いねこはねちゃん、このコース自分で考えたの?」
「うん。お父さんとよくここに来てて、中学の時は年間パス買ってもらって毎日来てたんだ」
「ひええ、それじゃあフェニランマニア……ううん、フェニランマスターだよ!」
「フェ、フェニランマスターって、そんなことないよ」
「そんなことある! そこまで好きになれることって凄いんだよ!」
文にとってのミクがそう説いたように、そこまで好きを貫き通せる事は凄いと力説する。
それを語る為に思わず手を取って説得する瞳が、こはねを説得した相棒にどことなく似ていた。
フェニランマスターと言う呼び方もまた、彼女の友人に言われた二つ名と同じだった。
「あっ、あっ、ごめんねびっくりしたよね」
「だ、大丈夫。それよりもうすぐお昼だからどこかに入らないと混みあうかも……」
「なら早く行かなきゃかもだね。こはねちゃんのおすすめってある?」
「それならこの近くにあるから、そこでよかったら」
時刻としてはまだお昼時とは言えないものの、ここはテーマパーク。
そんな時間にお昼を取ろうものならどこでもいっぱいなのは目に見えている。
ここでもこはねのオススメが炸裂し、他のお客よりも先に昼食を摂ることにした。
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「おいしかったー! こはねちゃんありがとう!」
そういって文は店から出た後、近くの売店で売っていたチュロスを頬張る。
「どういたしまして。でも……あんなに食べて大丈夫だった?」
「平気平気ー。お財布的には大丈夫じゃないけど」
そもそもよく食べることに加え出てくるもの全てが美味だった為、
いつもの調子であれもこれもと頼んでいた。
しかしテーマパークの価格設定ということをすっかり忘れており、
店を出る頃には財布は薄くなっていた。
それでもデザートにチュロスを食べている辺り全くこりていないのだろう。
こはねとしてはお腹の調子の方で心配していたのだが、その面に関しては全く問題ない様子だった。
「ねえ次はどれに行く? ジェットコースター? それとも観覧車?」
お昼時と言うこともあり大体のお客はレストランに流れる。
そのうちに人気のアトラクションに行くものだと考えていたのだが。
「もうすぐワンダーステージってところでショーが始まるから、そこに行きたいな」
「ショーって、特撮とかのショー?」
「ううん、ミュージカルショーだよ。ワンダーステージ以外にもステージはあるんだけど、
私が一番好きなのがワンダーステージのショーなの」
「フェニランマスターこはねちゃんが言うなら間違いないね! 行こっか!」
「だ、だからフェニランマスターは恥ずかしいからやめてほしい、かな……」
それでもまんざらではないのか頬を染めつつ後を追う。
ステージの入り口には目玉ともいえる巨大なツリーが様々な装飾に飾られており、
その先では今まさにショーが始まるかというところであった。
お昼時ということもあり座れないほどではないため、
出来るだけ前の席を確保した2人は開演前の説明に滑り込む。
紫髪で高身長の青年が注意事項を述べた後、ブザーと共に幕が開いた。
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ミュージカルも終盤。
降雪機の雪とステージのライトに彩られ1人の少女が清らかに歌い上げる。
その光景に2人は思わず息をのんだ。
「(あの人、すっごく歌上手い……なんていうか、よくわからないけど、凄い……)」
引き込まれる理由は技量だけではないと心のどこかで解っていたものの、その答えが見つからない。
その答えが見つかるよりも前に歌は終わってしまい、もう1人の主演である青年が飛び出してきた。
『それじゃあ、また次のクリスマスに会おう! メリークリスマス!』
『うん! メリークリスマス!』
少しばかり救われたその少女の笑顔と共に舞台は幕を閉じた。
いつの間にか満員になっていた客席では拍手が巻き起こる。
2人もまたその例にもれず拍手を送っていた。
「ミュージカルなんて初めてだったけど、こんなにいいものなんだね!
わたしファンになりそう!」
「うん! それにこの台本も演出も、全部さっき出てきてた人達が全部作ってるんだよ」
「さっきの人達って、高校生くらいだよね。すご~い………」
自分達とあまり年も違わぬ人達が演じる劇に心を打たれた文は、
改めて世界が広いのだという事を知るのだった。
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日が傾き始めた頃。2人は観覧車に揺られながら外の景色を眺めていた。
「こはねちゃんのお蔭でフェニランのことがもっと好きになれました。ありがとうございます」
「ふふ、どういたしまして」
わざとらしくお辞儀をする文に対して笑みをこぼすこはね。
感謝の気持ちは本物だったが全てのことに素直な文は見ていて飽きないのだろう。
「あの、もしよかったら記念に連絡先とかもらえたりは……」
「うん。私なんかでよかったら」
「ありがとー! これからも友達だね!」
「わわわっ!? あんまり暴れたら危ないよ!」
思わず飛びつこうとしたところでゴンドラが揺れ、それを軽い身のこなしでいなした。
その光景にふとこはねの脳裏に入り口で踊っていたことを思い出す。
「そういえば文ちゃんってダンスやってるんだよね?」
「あ、うん。少し前に辞めちゃったけど、またいつか再開したいなって思ってるんだ」
そういってスマホから最近撮影した自分の動画を見せる。
そこには到底人間業とは思えないような荒業を繰り出しながらも、
曲に合わせて踊っている文の姿があった。
「す、凄い! これってホントに文ちゃんが踊ってるの!?」
「えへへ。皆最初はそういうんだよね。もし機会があったら見せてあげる」
「あ、ごめん……でも、歌ったりはしないんだね」
「あー、それは歌うとボロボロになっちゃうからなんだよね。舌噛んじゃうかもしれないし」
動画で鳴っているのはあくまで原曲の音源で文の歌声ではない。
実際踊り手であっても歌っている者は少ないのは事実であった。
ましてやバク転なども組み合わせている以上、口を開けばそれこそ危険が伴う。
それこそ動きが少なくなれば歌うことも叶うだろうが、それは文の望むところではない。
「こはねちゃんももしかして踊ったりしてるの?」
「踊るっていうか、私は歌う方かな。もちろんちょっと踊ったりはするけど」
「ほんと!? 動画あったりしない?」
「サイトには上げてないかな……。もしよかったらまた今度、聞きに来る?」
「はい、ぜひ行かせてもらいます!」
意外な共通点をまたしても見つけた2人は再び笑い合う。
こうして長くも短い一日は終わりを告げるのであった。