荒野の少女と1つのセカイ   作:kasyopa

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桃の節句、ひな祭り特別回です。

時系列的には
「Color of Myself!」後、
「響くトワイライトパレード」前になります。


健やかな成長を祈って 前編

3月3日、桃の節句。その日に執り行われる行事と言えば雛祭りである。

 

雛人形を飾り、ちらし寿司や雛あられに舌鼓を打ちながら、

女の子の健やかな成長や幸せを祈る伝統行事なのだが……

 

それを過ぎたある休日。

 

「第一回! Leo/need二人羽織選手権ー!!」

「いえーい!」

 

赤髪の少女──鶴音文が音頭を取り、咲希が歓声を上げる。

日野森宅の一室にて、何やらおかしなことが始まろうとしていた。

 

 

 

ことの始まりは、Leo/needの面々が週末に雛祭りパーティーの準備をしている時だった。

場所は和風な造りである志歩の家がいいとされ、応接間を借りていた。

 

「そういえばお雛様が着てるこの服の名前ってなんだっけ」

 

ひな祭りではかかせない雛人形を飾りながら、ふと一歌が呟く。

 

「たしか十二……そこまでは覚えてるんだけど……」

「はーい! アタシ解っちゃった! 答えは十二色相環!」

「それ色だから。正解は十二単」

 

いざ問われるとその答えが出ないもので、悩む穂波に咲希が盛大に間違える。

それをすっぱり切り捨てながら志歩が軌道修正に努めた。

 

「おおー、さすがはしほちゃん、お母さんがお琴やってるだけあってよく知ってるね!」

「それはあんまり関係ないと思うけど」

「でも確か、ものすごく重いんだよね。小さい頃は憧れてたけど、今はいいかな」

 

小さい頃の憧れも、成長と共に様々な知識を得て、現実と向き合うこととなる。

総重量、約20kgといわれる十二単を今さら着たいとは思えない一歌であった。

 

「……すごく重いからこんなにスタイルいいのかな」

「穂波?」

「あっ! ううん、なんでもないよ!?」

「スタイルもなにも、これだけ重ね着してたら解らないでしょ」

「そ、そうだよね! それだけ重いと誰か入っているって言ってもおかしくないもんね!」

 

どうやら以前咲希に言われたことを引きずっているようだ。

志歩のフォローで現実に帰ってこられた穂波。

混乱しているようで何を言っているかは自分でもわからなかった。

 

「誰か入って……そうだ!」

「咲希、どうかした?」

「いいこと思い付いちゃった~」

 

そんな中、その発言から着想を得た咲希がここにはいない友人に連絡を飛ばす。

気になりはしたものの、とりあえず今は準備をと3人は作業を再開した。

 

 

 

そして、今に至る。

 

「文ちゃんもありがとー、ごめんね急に呼び出しちゃって」

「いえいえ、暇してましたし、それに先輩方のお願いなら火の中水の中です!」

 

小道具の用意と動画撮影役として文が召喚され、一歌と穂波の前には雛あられが置かれていた。

 

因みに初手は一歌が咲希に食べさせてもらい、

穂波が志歩に食べさせてもらう形となった。

 

「いや、あの流れで二人羽織はないでしょ」

「だってテレビで見たときから1回くらいやってみたかったんだもーん!」

 

当然それは入院中の話であったが、

何せ咲希の『学校に行けるようになったらやりたい100のことノート』である。

内容には同時期に入院していたご老人の知識やバラエティの知識がも多少は混じっていた。

 

「それにそれに、これでうまく食べられたら、バンドとしての結束力も上がると思うし!」

「志歩、ここまで来たらもうやるしかないよ」

「一歌まで……わかった。やるからには真剣にやるからね」

「そうだね。リズム隊としても頑張らないと」

「では行きますよー、用意、スタート!」

 

文の合図によって、戦いの火蓋がきっておとされた。

 

「うーん、雛あられはどこだー?」

「………」

「さて始まりました! どちらが無事に完食できるか、楽しみです!」

 

右往左往する2人の手のひらがシュールであり、一歌と穂波は笑みをこぼす。

 

「ほら穂波、笑ってないで指示して」

「う、うん。右手がもうちょっと前、そのまま内側に」

「よし、つまんだ。このまま上に持っていって……」

「もう少し上……あともうちょっと……はむ」

「っ!?」

 

顎の下辺りまで来た雛あられを上手に首と口を使って絡めとる。

しかし突然の感触に志歩は勢いよく手を離してしまった。

 

「ほ、穂波! 食べるときはちゃんと合図して!」

「ご、ごめん! 食べやすい位置にあったからつい……」

 

背中から抗議の声を飛ばす彼女に対し謝罪する穂波。

 

「おおー、熱々ですなー」

「ほら咲希も、早く食べさせてくれないと負けちゃうよ」

「はーい。まかせて!」

 

こちらも負けじと咲希は気合いをいれて皿ごと持ち上げる。

そのまま勢いよく天に掲げた。

 

「いくよいっちゃん、受け止めてね!」

「えっ、ちょっと待っ──」

 

一歌の制止の声もいざ知らず、空から勢いよく雛あられの雨が降り注いだ。

必死に口を開けて受け止めようとするも、大半が机に散ってしまった。

 

「あはは、ほとんど溢れちゃったね。ならもう一回!」

「さ、咲希、私達も2人みたいにちょっとずつで」

「それだと負けちゃうよ! ほらほらいっちゃん、食べて!」

 

机の上をかき集めて掴んだそれを一歌の前に差し出す。

さながら溢れるのを防止するために添えられた手だが、今は完全に皿の役目を果たしていた。

 

「ん……まず、1個」

「あはは、くすぐったいよー」

 

それを舐めとることはせず、1つ1つ息と共に吸い付ける。

時おりその唇が咲希の手に触れ、笑い声をあげた。

 

一方で志歩と穂波は順調に1つずつ丁寧に摘まんでは口元へを繰り返していた。

 

そんなこんなで食べ進めていき、先に食べ終えたのは……

 

「勝者、穂波先輩&志歩先輩チーム!」

「ふふ、ありがとう志歩ちゃん」

「まあ、当然でしょ」

 

どうやら一歌と咲希は初手で派手に散らした為残りを探すのに手間取り、

その隙に穂波と志歩が完食したらしい。

 

「でも文、なんで途中から実況止めたの」

「それは──4人の思い出を邪魔したくないなって。

 あと、見てるだけでも面白かったですし!」

 

気を利かせてのことだったらしい。

しかしその本心を隠せるほど大人ではないらしい。

 

「(この辺りはお姉さんに似てるかも)」

 

いつか聞いた言葉の選曲を思い出しながら、志歩はそんなことを思うのだった。

 

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