荒野の少女と1つのセカイ   作:kasyopa

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全8話構成、三人称視点になります。

バレンタインボイス実装前の執筆となるため、
内容を反映しておりません。ご注意ください。


バレンタイン編「感謝の気持ちをプレゼント・フォー・ユー」
第1話「甘い香りに誘われて」


ありふれた日曜日。鶴音姉妹はいつものように街中で休日を謳歌していた。

内容としてはショッピングモールでウィンドウショッピングを楽しんでいるだけで、

これといって欲しい物があるわけではない。

 

「うーん、本屋さんも行ったし、CDも見て回ったし、服屋さんはまた今度でいいし……」

「行きたいところは大体行った感じ?」

「うん。でもまだもうちょっとなにかありそうかなーって」

「それならどこかカフェにでも入る? 流石に歩き疲れちゃったかな」

「あっ、ごめんねお姉ちゃん。それなら……あ、あそこの喫茶店限定スイーツだって!」

 

様々な飲食店が軒を連ねる通りで、文が1つの立て看板に興味を示す。

そこには『バレンタイン限定!』と銘打たれたスイーツの写真が張り出されていた。

折角だしと2人は店の中へ。店員はテーブル席へと通しお冷とおしぼりを置いて去っていく。

真っ先にメニューを手に取ったのは文であった。

 

「限定メニュー、やっぱりチョコレート系が多いね」

「もうすぐバレンタインだからね」

 

時期としてはまだ節分にもなっていないのだが、

年々加速する商戦の影響か、我先にと季節感を先取りしている店舗が多かった。

店内を見渡せばその季節特有の赤いリボンで装飾されている。

 

「ねえお姉ちゃん、せっかくだし食べさせあいっこしよ?」

「いいよ、どれ頼む?」

「じゃあじゃあ、このロールケーキとガトーショコラで!」

「なら私はザッハトルテで」

 

それぞれの注文が決まったところで店員を呼び、

先のメニューに加え紅茶とミルクティーを注文する。

 

「ザッハトルテかー。あれこの前食べたけどすっごく苦かったんだよねー……」

「文は苦いの苦手だもんね。私はそれが好きなんだけど」

「お菓子食べてるのに苦いのってなんか違わない?」

「そんなこというと、私の分あげないよ?」

「あー、それはダメー。苦くても我慢して食べるからちょうだーい」

「はいはい」

 

文は食べ物に関して嫌いなものは無いのだが、唯一例外的に苦い物は苦手であった。

といってもビターチョコレートやコーヒーといった、嗜好品に属する食べ物限定である。

ピーマンなど料理での苦みは気にならない。

 

程なくしてお互いの飲み物とスイーツが行きわたり、舌鼓を打つ。

自分が口を付けるよりも前に姉の皿へと自分のスイーツを分けていく。

 

「お姉ちゃん、そっちのどう? 苦くない?」

「ちょっと苦いかな。カカオ80%くらい?」

「解んないよー。あーん」

 

まるで親鳥に餌をねだる雛のように口を開けて待つ文に対して、

周囲を気にしつつも少量だけ掬って口の中へ。

 

「もぐもぐ……んんっ!?」

 

数回口を動かしたと思えばカップに入っていたミルクティーを口の中に流し込み、

果てには角砂糖を1つ口の中に放り込んだ。

どうやら文にとっては十分すぎるほど苦かったらしい。

 

「ごめんね。文にはちょっと苦すぎたかな」

「うー、お姉ちゃんの嘘つき!」

 

涙目になりつつ抗議するも、一度差し出したそれを取り上げる事はしなかった。

そのあたりはしっかりわきまえているのだろう。

 

そんなこんなで2人の時間はこの後も何事もなく続いていく。

 

 

 

「「ただいまー」!」

「あら、おかえりなさい」

 

家に帰った2人を出迎えるのはいつものように叔母である。

しかし家の中では独特の甘い香りが漂っていた。

 

「叔母さん、何作ってるの?」

「これ? そうね。出来てからのお楽しみかしら」

 

見ればキッチンにある2台のオーブンがフル稼働しており、香りはそこから発せられていた。

形状と香りからおのずと予想がつくものの、とりあえず手洗いうがいが優先事項である。

 

事を済ませて戻れば食卓の上には様々なチョコレート菓子が並べられていた。

 

「わー! これ全部叔母さんの手作りだよね!?」

「そうよー。良かったら食べて。感想の方も聞かせて欲しいわ」

「お安い御用です!」

 

そういって先ほどまで2つもチョコレートケーキを食べていたにも関わらず、

満面の笑みで頬張っていく。

 

「言葉ちゃんも良かったら」

「私はさっき食べてきたから後で。それにしても、凄い種類だね。急にどうしたの?」

「趣味と実益を兼ねて、ね?」

「……? あ、なるほど」

 

バレンタインデーは鶴音姉妹にとってまったくの無縁というわけではない。

叔母が料理教室を開いている関係でこういった季節物、特に料理が絡む際はそれに合わせている。

 

年末年始にかけては一番の稼ぎ時ということもあり、

叔母の気合の入りようも日頃の献立という形で表れていた。

 

鶴音姉妹にとってバレンタインデーはまた別の意味を持っているのだが、それはまた別の話。

 

「もしよかったら言葉ちゃんも何か作ってみる? 教えてあげるわ」

「いいんですか? でも私好きな人なんて」

「ええ。私にとってもこの時期は初めての生徒さんも増えるからその練習にもなるし。

 それに、バレンタインって好きな人だけに送るのはもう古いのよ」

「あ、お姉ちゃんばっかりずるい! わたしも何か作るー!」

 

まだ贈る相手が定まらないままでも、ある意味こういった立場は役得と言えるだろう。

こうして2人はバレンタインに向けて行動を開始した。

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