荒野の少女と1つのセカイ   作:kasyopa

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第3話「チョコを渡すお相手は?」

そして迎えたバレンタイン当日。

言葉の手には楽器ケースではなく大きな紙袋が下げられている。

登校時間は早い為誰にも見咎められることなく教室にたどり着いた彼女は、

いつものように掃除をして読書の時間を過ごしていた。

 

しばらくすれば教室は生徒で賑わいを見せるものの、クラスメイトの興味を引くのはその紙袋。

涼しい顔をする言葉ではあるが、ほのかに漂ってくる香りで大方の生徒は察しがついていた。

それでもそのサイズから誰にあげるのかという話題に切り替わっていく。

 

「おはよー、委員ちょ──ってぇ!? 何その袋、福袋くらいあるじゃん!?」

「おはよう。今日も元気だね」

 

少し遅れてやってきたのはいつものように挨拶を交わしてくるクラスメイト。

しかしそれよりも席の隣に置いてある紙袋に度肝を抜かれる。

まるでリアクション芸人であるが、それが彼女の平常運転ともいえる。

 

「いやいや、何それ、バレンタイン……だよね? 誰に渡すの?」

「それは秘密」

「あー、分かった東雲君でしょ」

「それはどうかな」

「じゃあ青柳君だ!」

「さてどうでしょう」

「うーん神代先輩?」

「当たらずも遠からずかな」

「大穴で天馬先輩!」

「惜しいけど当たりじゃない」

「……もしかして、私だったり?」

「まあ、お昼休みには分かることだから」

「お! 好感触! じゃあ期待してまーす!」

 

上機嫌になって自分の席へと戻っていく。

他のクラスメイトも彼女の声や反応を元にしてさらに予測を絞っていった。

 

 

 

お昼休みに入り、生徒がどこで食べるかなどを相談している中、言葉が教卓へと躍り出た。

 

「皆さんお昼の前に少しだけよろしいですか」

 

鶴の一声とばかりに教室で声が響く。何事かと視線を向ければ注目の的になっていた紙袋もある。

大した予告もなかったためそれぞれが身構えるも、言葉が見せたのは意外な反応であった。

 

「今日はバレンタインデーですので、皆さんに細やかながらチョコをご用意させてもらいました。

 厚かましいお願いですが、取りに来ていただけると幸いです」

 

義理とはいえバレンタインのチョコレート。活発な男子達から教卓の前へと集まっていく。

 

「うおおお、ありがてえ!」

「本当にいいのかよ、これ手作りだろ!?」

「はい。この前のおすそ分けの分も兼ねてですが。簡単なものですみません」

「いやいや、もらえるだけで嬉しいって!」

 

中から取り出された物やラッピングを見れば明らかに既製品ではない。

手作り感あふれる菓子と梱包具合から、興味のなかった者まで引き寄せられていく。

 

「委員長ー! 私の分はー!?」

「もちろんあるよ。クラスの人全員分用意してるから」

「えっ、ほんとに!?」

 

その言葉を皮切りに女子も集まってくる。

あらかた男子にも行きわたり女子へとシフトしていった。こちらも好感触である。

 

「委員長マメだね! 私何にも用意してないや」

「お返しとかは気にしないで。ただ渡したかっただけだから」

「うわ、私も今度からやろっかな」

「そんなこと言って絶対忘れる癖にー」

「「「ハハハハ……」」」

 

クラスも盛り上がりを見せつつ、それぞれが昼食のために解散していく。

そんな中で完全に入るタイミングを完全に見失った生徒が1人──東雲彰人であった。

 

「あー、委員長。その、なんだ。オレも貰えたりするのか?」

 

出遅れたことを申し訳なくも、甘い物には多少興味のある彼はばつが悪そうに口を開く。

 

「もちろん。でも少し教えて欲しいことがあって」

「ん、なんだよ?」

「青柳君にも渡したいんだけど、いいかな」

「別に悪かねーけど、そんな態々直接渡しに行かなくてもオレが渡して」

「青柳君にも少し話があるから」

 

その言葉にクラスの空気が一変した。1年B組の青柳冬弥は神高女子の内でも屈指の人気を誇る。

図書委員だという事は知られており、読書を好む言葉と知り合っているのは周知の事実。

色恋沙汰には全くの無縁である彼女ではあるが、時期も時期であり、言い方も言い方だった。

 

「……はあ、しゃーねーな。昼飯一緒に食う約束してるから、一緒に来いよ」

「ありがとう」

 

そのまま言葉は弁当と紙袋を手にして彰人の後を追い教室を後にする。

教室の外では既に冬弥が待ちぼうけていた。

 

「悪い、待たせた」

「いや、俺も今来たところだ。それにしても随分と賑わっていたが……」

 

そう言いかけたところで、彰人の後ろから現れた少女へ目を向ける。

 

「青柳君、待たせてごめんね。ちょっと用事があって」

「鶴音か。彰人といるのは珍しいな」

「今日はお前に用事があるんだと」

「これ、良かったら」

 

差し出したのは先ほどクラスの皆に配っていたのと同じもの。特段意味があるものとは思えない。

 

「そういえばバレンタインデーか。……いいのか?」

「日頃からお世話になってるし、その感謝も込めて」

「因みにソレ、クラスの全員にも配ってるからな」

「なるほど、さっきの賑わいはそれだったんだな。ありがとう、受け取らせてもらう」

 

そういって彰人が先ほど受け取った物を冬弥に見せる。

この程度で勘違いを起こすような相棒ではないが、特別な意味はないと再確認させる。

C組の賑わいにも納得の様子で快く受け取った。

 

「それで、ちょっと聞きたいんだけど天馬先輩がどこにいるか知らないかな?」

「司先輩? それなら2年A組にいると思うが」

「もしかして、あのセンパイにも渡すのか……?」

「そうだね。直接お世話になったわけじゃないけど、ちょっとね」

 

ふと袋の中をのぞけばまだ小袋に余裕がある。

1つ1つは大した量ではないが、総量がどれほどのものかは想像もつかなかった。

 

「ありがとう青柳君。それじゃあ」

「ああ」

 

そういって言葉はその場を後にする。そんな背中を真面目だなと笑みをこぼし2人は見送った。

 

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