荒野の少女と1つのセカイ   作:kasyopa

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第4話「その思いは届くのか?」

お昼休みが終わろうとした時に言葉が教室に戻ってくる。

その顔はどことなくげんなりとしており、自分の席に着くなり突っ伏してしまった。

 

「どうしたの委員長ー、青柳君にでも振られたー!?」

「バッカ何言ってんの!?」

 

冗談交じりに仲のいいクラスメイトが自分の席を持ってきて隣に座る。

それに別の生徒が声を上げた。

彰人と共に教室を出てからは冬弥に告白しに行ったものだと話題が持ちきりだった。

 

そんな状態で彼女に話しかける生徒など誰一人としておらず、

噂だけが独り歩きしようとしていたところで藪から棒である。

 

「解ってるのによく聞くの? 『 理那(りな)』は」

「私を呼んだな! って言ってる場合じゃない。大分参ってるっていうか怒ってる?」

「疲れてるの見え見えなのに、冗談かまされてる人の気にもなったらどう……?」

「うわ、関西弁出てるよ。あー……はい。ごめんなさい」

 

顔だけを上げてジト目で友人に向かって口を開く言葉。

いくら周囲を気にしない彼女も人間であり、精神が限界を迎えることもある。

普段は滅多に呼ばないその名を、たっぷり籠った怒りの念と共に呟いた。

 

斑鳩(いかるが) 理那(りな)。神山高校1年C組の生徒にして唯一言葉によく絡む人物。

フェニックスワンダーランドへ連れて行ったのも、神高祭を一緒に回ったのも彼女である。

 

「それで? 何があったの」

「天馬先輩にも渡しに行ったんだけど「なるほど凄く感謝されて振り回されたと」……

 どうして貰えないって嘆いてて「それで渡したらめちゃくちゃ感謝されたと」……

 そうしたらクラスの人が哀れみでチョコ上げてて凄く喜んでて「渡すに渡せなかったと」そう」

「ははーん、それで天馬先輩の陽の気に当てられて参っていたと」

「直接じゃないけど、あのテンションはきついよ」

「そりゃそうだよー。私だってキツイもん」

 

理那であってもただハンカチを届けに行っただけで大層感謝され、

極めつけにはフェニランのチケットを渡されたという始末。

実際のところ、その時の司はショーユニットを結成して間もない頃であったため、

何かにつけてフェニランのチケットやチラシを配っていたのはここだけの話である。

 

「うーん、諦めるの?」

「放課後にまた行ってみるけど、居なかったら流石に諦める」

 

流石に手作りの菓子ともなれば消費期限も短い。

そして時期を逃してのチョコというのも味気ない物であった。

感謝を伝えるのであれば時期など関係ないのが、

むしろこの時期を利用して日頃の気持ちを伝える者が多いのも確かである。

 

「そっかー。ねえみんなー! 委員長が放課後青柳君に告白する──」

「斑鳩理那さん? ちょっと黙ろっか?」

「ヒィッ!?」

 

肩に置かれた手を見るように振り返れば、満面の笑みを浮かべる言葉の姿が。

それを運悪く見てしまった者は残らず震え上がる。

 

そんな中でやりとりを聞いていた彰人がスマホで何処かに連絡を飛ばしたのだった。

 

 

 

ホームルームを終えて放課後へ。

言葉の姿は1年C組でも、2年A組の教室でもなく、職員室にあった。

 

その手には新品のバケツや雑巾、箒といった掃除用具であふれている。

1年C組の掃除用具が軒並み使い古されたものが多く、言葉自らがお願いしていたものだった。

清潔感が保たれているのは良いことなのですぐに許可が下り、

発注していたものがこのタイミングで届いたというわけだ。

 

1人で一度に運べる量や大きさではない為、決して短くない距離を何度も行き来する。

理那は別の友達と街の方へと駆り出していった為いなかった。

手伝おうか、と気に掛けはしたもののお得意の遠慮でいなしたことも大きい。

 

最後の掃除用具を運び終える頃には日も暮れて教室に誰一人として残っていなかった。

 

「この様子じゃ天馬先輩達も帰っちゃったかな」

 

彼に委員会の仕事があれば、と思って見るものの言葉も同じ学級委員。

集会などがあれば当然自分も呼び出されるわけで、かける望みは薄かった。

足取り重く教室を後にしようとしたところで1人の影が現れる。

 

「ん、もう用事は終わったのか?」

「あれ、青柳君? どうしたの、誰かと待ち合わせ?」

 

階段の影から現れたのは意外にも冬弥であった。

今まで深いかかわりを持たなかった人物に声をかけられてふと疑問を抱いてしまう。

 

高身長で顔も整っているが、好青年というほど表情に溢れてはいない。

それでも面倒見がいいことから女子には人気の人物である。

今も彼の腕の中にはたくさんのチョコレートであふれていた。

 

そんな彼がこんな時期に待ち合わせをする相手など、言葉には予想できない。

 

「えっと、とりあえずこれ使う?」

「……助かる」

 

言葉の持ってきていたチョコブラウニーも今や1桁までその数を減らしており、

むしろ袋の方が不要になっていた。利害の一致とはこのことである。

中身を交換する形で手が空いた冬弥は袋を受け取った。

 

「それでさっきの質問の答えなんだが……

 待ち合わせというより、頼まれ事だな。司先輩にそれを渡しに行くんだろう?」

「うん。でももう帰ってると思うから気にしなくていいよ。それより頼まれ事って?」

「彰人に頼まれたんだ。鶴音が司先輩と会いたがっていたから都合をつけてくれないか、と」

「なるほど、ね」

 

あれだけ騒いでいれば──と言っても騒ぎの元は理那であるが──、

何かしらの事情を察して動く者もいるという事である。今回はそれが彰人だったというだけだ。

 

「さっき連絡があった。2年A組の教室で待っているそうだ」

「ありがとう青柳君。今度何かあったらお礼するよ」

「礼ならさっき受け取ったばかりだが」

 

そういって先ほどの袋をちらつかせる。

そんな不器用ながらも気の利いた返事に言葉は笑みをこぼすのであった。

 




UA5000達成記念話を、ニーゴ編サイドストーリーの最後に組み込んでいます。
ご興味のあるかたはどうぞー。
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