言葉は足早に冬弥と別れ、2年A組の教室へ。
教室へ近づくにつれ、中から聞こえてくる会話が聞き取れるようになってくる。
「会いに来るって言ってもこんな時間じゃもう帰ってるでしょ」
「何を言う! オレを尊敬する大事な後輩のいう事だぞ。信じなくてどうする!」
「逆にここまで待たせても司くんと会いたいという人物が居るなら、
知りたいとは思わないかい? 寧々」
「まあ、そんなのうちのクラスのアイツくらいしか思いつかないけど。
っていうかそんな理由で類も残ってるわけ?」
「半分はそうだね。もう半分は──」
類がそう言いかけたところで教室の扉から顔を覗かせる少女の姿が。
それを真っ先に見つけたのは今か今かと待ちわびる司であった。
「おお、待ちわびたぞ! 君が冬弥の言っていた……っと、どこかで見覚えがあるような」
「1年C組で学級委員を務めています、鶴音言葉といいます」
「なるほど、集会で何度か見かけてはいたな。しかし、それ以外でも会ったことはないか?」
「神高祭で類を探す時手伝って貰ってたでしょ」
「ああ、そうだったな! あの時の少女がオレの隠れファンだったとは。天馬司、一生の不覚!」
「えっと、ファン、とは違うと思いますよ……」
傍から見ていても自分の体力が削られそうなほどの陽の気に当てられて、
苦笑いでしか答えることができない言葉。
早く要件を終わらせようと、カバンの中にあるチョコブラウニーを司に差し出した。
「随分前にはなりますがフェニックスワンダーランドのチケット、ありがとうございました。
これはほんの気持ちです」
「え、嘘、司が女の子から普通にチョコ貰ってる……」
「それにこんな生真面目な生徒から。司くんも隅に置けないね」
「お前ら、オレを何だと思っている!?
オレだって本気を出せばチョコの1つや2つこの通りだ!」
そういって本人のカバンから覗かせたのは、恐らく昼休みに貰ったであろうチョコの数々だった。
そのすべてが既製品であることから、義理だろうと予想は立つ。
「しかもそれ、手作りじゃない……大丈夫鶴音さん、渡す相手間違ってない?」
「叔母が料理教室の先生なので。もちろんお2人の分もありますよ」
「これはこれは。不思議な縁もあったものだね」
言葉が寧々と類にも同じように差し出す。
リボンの色などは違うが装飾がほぼ同じである為、すぐに義理だという事を理解する。
複雑な表情を浮かべるも、それでも自分の行いによるものだと無理やり落とし込んだ。
「ま、まあオレ達の為に作ってきてくれたという事は、我らのショーユニットの名誉!
つまりそれは座長であるオレへの名誉というわけだな! ハーッハッハッハ!」
「そういえば天馬先輩達はフェニックスワンダーランドでショーをされているんですよね。
今日はバレンタインデーですけど、ショーは行われないんですか?」
「したいのは山々だったんだけど、ステージの設備点検が被ってしまってね。
今は次のショーに向けてのアイディアを募っていた所だったんだよ」
「そうだったんですね……あの、お邪魔してすみませんでした」
「別に気にしないで。大した話もしてなかったし。
甘い物も手に入ったから息抜きもいいんじゃない?」
「では私はこの辺で失礼しま──」
これ以上は居ても意味がないだろうと判断し教室から去ろうとした時、
廊下から何かがこちらへと向かってきていた。
扉に手をかけたところでそれをなんとなく察知し、後ろへと下がる。
「突撃、となりのわんだほーい!」
「し、失礼しまーす……」
扉を突き破る勢いで飛び出してきたのは桃色の少女。
その後ろからは赤色の少女が顔を覗かせている。
「え、えむ!? お前また来たのか!?」「文!? どうしてここに……」
「あ、今日は寧々ちゃんもいるー!」
「え、えーっと、とりあえずごめんなさい……?」
それは司と言葉、互いが互いをよく知る人物であった。鳳えむ、そして鶴音文。
えむは3人の姿を見つけるとそちらの方へと駆け出していき、
文は申し訳なさそうに言葉の方へと歩み寄った。
体力自慢の文が肩で息をしているところを見ると、ここまで走ってきたのだろう。
どちらにせよ他校の生徒には変わりない。
それに先ほどの騒ぎの影響か一人の教師がこの教室へと向かってきていた。
扉から近かった言葉はそれを窓の反射で確認する。
「文、教卓の裏隠れてて」
「う、うん」
「えむも早く隠れろ! こんなところで見つかったらただじゃすまないぞ」
「んんん?」
えむも机の下へと押し込まれ体の大きい類が遮るように前へ立つ。
そのタイミングで教師が顔を覗かせた。
「なあお前達、さっき他校の生徒が廊下で騒いでいたらしいが、見ていないか?」
「他校の生徒、ですか。私達は見ていません。そうですよね、天馬先輩」
「あ、ああ。オレ達はちょっと話し合いに夢中になっていたからな。何も見ていませんよ、先生」
「……まあいい。バレンタインだからと言ってはしゃぎすぎるなよ」
司達が持っていた物に目をやって、場の空気を乱したとでも思ったのだろう。
ため息1つ吐いて教師は何処かへと行ってしまった。それを見計らい一度扉を閉める言葉。
「えむが来るのはまあ解る。一度だけではないしな。だがそっちの生徒はどうしたんだ?」
司は不審そうな視線を文へと送る。確かに彼女は宮女の生徒ですらない。
「その子はね、あたしのお友達! 鶴音文ちゃんっていうんだよー!」
「鶴音……? ってことは鶴音さんの妹さん?」
「ほう、妹か」
机の下から這い出てきたえむが文の傍に立ち、盛り上げるように手を振ってアピールする。
気付けばその手の中には大きな紙袋が。
自分の知っている人物が増え安堵を覚えたのか、文は深呼吸して息を整えた。
「話せば長くなるんですが、これには訳があって……」
こうして彼女は語りだす。彼女が今ここにいる理由を。
宮女編サイドストーリーに、雛祭り回を前後編で設けました。
ご興味のある方はどうぞー。