──時は、少しばかり遡る。
宮益坂女子学園。その校門前では3人の生徒が誰かを待っている様子であった。
「あ、咲希ちゃん! もしかして待ち合わせ?」
「あれ、みのりちゃん? そうだけど……なんで知ってるの?」
「やっぱり! ならわたし達とおんなじだね」
「そうだね。そっか、天馬さんも……」
「???」
本来なら3人ともそれぞれの用事があるのだが
やってくる人物たってのお願いということもあり、合流が遅れることを仲間に伝えていた。
状況がまるで把握できない咲希に、みのりは自分のスマホの連絡先を見せる。
そこには3人共通の友達の名前が記されていた。
「文ちゃんの連絡先! みのりちゃんも知り合いだったんだね」
「うん。実は体験入学の前に知り合ってたんだけど、その時は交換するの忘れちゃってて」
「忘れてたといえば、アタシ達もまだ交換してなかったよね。もしよかったら……」
「気にしなくていいよ。バイトの連絡も出来るからいつかしたいなー、ってわたしも思ってたの」
「ありがとー!」
そんな会話の弾む2人を眺めていたのはこはね。
みのりから話では聞いていたものの、こうして本人と会うのはなんだかんだで初めてであった。
一見するとギャルっぽい所があるものの、口を開けば明るい口調で表情もコロコロ変わる。
髪の毛も赤いグラデーションが入っている為、どことなく自分の相棒と重ねてみていた。
「そうだ、咲希ちゃんにも紹介するね。高校で初めて出来たわたしの友達の……」
「あっ、1年A組の小豆沢こはねです」
「天馬咲希です! そっか、2人はしほちゃんと同じクラスだよね。
大丈夫? しほちゃんいっつもツンツンした感じだから、迷惑かけてたりしない?」
「ううん、そんなことないよ。確かに最初は怖い人なのかなって思ったけど……
音楽のことだったらよく話してくれるし、それにいつも凛としてて、かっこいいと思うな」
「よ、良かった~! これからも何卒、よろしくお願いします!」
「ふふっ、承りました、かな?」
「うん! 最近の志歩ちゃん丸くなったのよね。前よりもっとお話するし!」
また別の共通の友人の話で盛り上がる。2人の様子を見て咲希は胸をなでおろしていた。
────そのころ、教室のセカイでは────
「ックシュ!」
「志歩、大丈夫?」
「最近また冷えてるし、風邪だったら今日のところは……」
「咲希じゃあるまいし、くしゃみ1つで心配しすぎ。
それより早く準備終わらせて3人のパート練習するよ」
「「はーい」」
────校門前へ戻る────
「ところで咲希ちゃんは文ちゃんとどこで知り合ったの?」
「体験入学でだけど、神高にいるお姉さん繋がりなの」
「神高の生徒さんなんだね……1年生? それとも2年生?」
「1年生! アタシ達と同い年だよ」
「(それなら杏ちゃんと同じクラスだったりするのかな? 今日行ったら聞いてみようっと)」
「お、お待たせしました~!」
話題が切り替わりつつあったところで、噂をすれば影。
制服姿のままの文が大小さまざまな紙袋を下げてやってきた。
それぞれがユニットのイメージカラーに染まっているのは偶然だろう。
「お願いしたのにお待たせしてすみません先輩方!」
「ううん、わたし達もさっき来たばっかりだよ。それて、その紙袋は……?」
「えっと、こっちが咲希先輩達の分で、こっちがみのりちゃん達の分で、
これがこはねちゃんの分……これ、受け取ってください!」
バレンタイン、ということもありすぐに状況を把握した3人は快く受け取った。
中身を覗き込めば丁寧にラッピングと装飾が施された小箱が見える。
それもまた各自のイメージカラーとかみ合っていた。
「ありがとう! 中身、見てもいいかな?」
「はい、どうぞ!」
自信満々に答える彼女に応え、みのりが自分の箱を開ける。
そこには鳥の巣のように飾られたマカロンが並んでいた。
「こんな素敵な贈り物初めて貰ったよー! ねえねえ、どこのお店で買ったの?」
「えっと、一応、手作りなの」
「えっ!? 手作りって、このマカロンも箱も全部?」
「う、うん。マカロンは叔母さんで……箱はお姉ちゃんで……わたしは別になにも……」
「あっ、で、でもでも、文ちゃんからの贈り物、嬉しいよ!?」
感嘆の声をあげるみのりとこはねに、嘘偽りなく説明していくものの段々と元気がなくなっていく。
思わぬ地雷を踏み抜き必死にフォローに回るしかないが、あまり意味をなさなかった。
そんな中で、ある仕掛けに気付いたみのりがふと笑みをこぼす。
「でもこれは文ちゃんが書いたんだよね?」
蓋の裏側に小さいメッセージカードが貼り付けられていた。
『花咲き、実を結ぶその時まで応援してます!』と。
貼る場所のアイディアこそ姉によるものだが、その綴られた一文は紛れもなく彼女のもの。
「あ、気付いてくれたんだ……流石みのりちゃんだね」
「じゃあじゃあ、アタシのにも何か書いてあるのかな?」
「全員分しっかり書いてます! でも恥ずかしいから今はちょっと……」
そんなこんなで元気を取り戻した文の元に、一陣の風が吹き荒れた。
「あれ、文ちゃんだ! 久しぶりー!」
「えむちゃん久しぶり! 元気してた?」
再会を喜ぶ2人であったが、ふと何かに気付いた様子でえむが匂いを嗅ぐ。
「くんくん……文ちゃんから甘い匂いがするー! もしかしてそれ?」
「あっ、これは……」
持ってきていた紙袋の中で、唯一渡していない大袋がある。
それを察知したえむの追跡を逃れることは文でも難しかった。
そしてあいにくえむへの贈り物は持ち合わせていない。
「えーっと、もしよかったら、食べる? 失敗作なんだけど……」
「食べる食べる! あたし部活終わったばっかりだったからお腹ペコペコだったんだー!」
その袋に詰められていたのは文が作ったマカロンの失敗作であった。
1つを手に取り頬張るえむの顔はみるみる笑顔に変わっていく。
「すっごくおいしいよ! 文ちゃんは料理の天才だね!!」
「あ、あはは、ありがとう……」
形が崩れていても材料は全く同じ。伊達に叔母の作ったレシピではないことを証明させる。
「そうだ! こんなにいっぱいあるし、司くん達にもおすそ分けしてあげなきゃ!
そしたらみんなでわんだほーい! ってなれるしね!」
「わんだほーい……?」
紙袋を受け取ったえむは少しだけ考えを巡らせた後、空いた手で文の手を取った。
「えっ?」
「文ちゃんも一緒に行こうよ! その方が絶対楽しいし!」
そうして2人は全力疾走で神山高校へと去っていく。
取り残された3人は、あまりに唐突な出来事に反応することすらできなかった。