荒野の少女と1つのセカイ   作:kasyopa

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第7話「戦略的撤退!」

「──って感じでそのまま成り行きで……」

「なるほど。まあこの子も悪気があったわけじゃなさそうだし、怪我がなくてよかった」

「えへへ」

 

事情を聴き終えた言葉はここまでの苦労をねぎらうように頭を撫で、

しばらくされるがままに甘えていた。

 

「コホン。2人の時間を邪魔して悪いが……まあ、その、なんだ。えむが迷惑をかけたな」

「いえいえ! それよりえーっと、えむちゃんの言ってた人達って」

「うん! 紹介するね、あたしの大切な仲間の──」

「待て待て! 自己紹介くらい自分でする!」

 

えむが口走ろうとしたところを必死に止める司。

人間第一印象が肝心だという事は嫌でも知っている彼は一歩進み出てスペースを確保する。

 

「天翔けるペガサスと書き、天馬! 世界を司ると書き、司!

 その名も──天馬司! スターになるべく生まれた男ッ!!」

 

自分がフェニックスワンダーランドでの面接でした紹介と同じものを、

考案したかっこいいポーズも合わせて披露する。

 

そんな陽の気に当てられげんなりする寧々と言葉。

おお~、と見とれるように拍手を送るえむと文。

どれにも当てはまらない類は、いつも通りといった風に笑顔を浮かべている。

 

「司先輩って、咲希先輩のお兄さん? 苗字同じですよね」

「ああ、咲希を知っているのか。そういえばこの前体験入学生と友達になったと言っていたな」

「それ、わたしです! それに皆さんフェニックスワンダーランドでショーやってましたよね!

 クリスマスショー、すっごく感動しました!」

「どこか見覚えがあると思ってたけど、あの時常連さん隣にいたの、鶴音さんの妹さんだったんだ」

「まさかこんな身近に感想を伝えに来てくれるお客さんがいたなんてね。

 現実は小説より奇なりとは、まさにこのことかな?」

 

ありきたりな感想であっても、自分達の作り上げたもので喜んでくれる人が居る。

それに偶然とはいえ面と向かって伝えてくれる彼女の存在は、4人にとって嬉しい限りであった。

 

「じゃあえむちゃんもショーに出てたんだね! そっくりさんだと思ってた!」

「えへへ、ありがとー!」

 

嬉しそうにはしゃぐ2人であったが、こんなに騒いでいては気付かれるというもので。

 

「おいお前達、何を騒いで──」

「「「あっ」」」

 

今度こそ教師にその姿を捉えられる。

 

「ひ、ひとまず退散ーー!!」

 

司の一声を受け、足早に教室から飛び出したワンダーランズ×ショウタイムの面々。

特にえむや類に至ってはなんだかんだで慣れたものであった。そんな中で取り残された鶴音姉妹。

 

「すみません先生、お騒がせしてしまって。

 この子は私の妹でして、帰りが遅いからと心配して探しに来てくれたんです」

「それで態々学校の中までか? まあ、鶴音はあの2人と違って問題も起こしてないし、

 今回だけは多めにみてやろう。夜間の生徒も登校する時間だから早く帰った帰った」

「ありがとうございます先生。それでは失礼します」

「すみませんでした。お疲れ様でーす!」

 

 

 

校舎を後にした2人。既に4人の姿はなく、どこか別の所にでも向かったのだろう。

 

「あっ、あの人達に自己紹介するの忘れてた」

「気にすることはないと思うよ。なんなら私から紹介しておくけど」

「挨拶くらいは自分でしたいかなー」

 

先ほどの強烈な存在感を受けても何ともない文であったが、

一方の言葉はもう少し計画的に会いに行こうと考える。

底なしに明るい彼の威光を受けては、まともに話すことすらままならないだろう。

 

同じ陽気なテンションならば瑞希の方がずっと話しやすかった。

そして本来ならその相手に渡すはずだったチョコがカバンの中に残っている。

昼休みにも教室を覗いてみたが、学校に来ていない様子だった。

 

「鶴音さーん? 他校の生徒を連れてきちゃいけませんよー」

「あっ、すみません──って白石さん」

 

顔を上げた言葉の前に立っていたのは杏。いかにも面白いものを見つけた顔をしている。

そんな中見ず知らずの人物に目を付けられ文は姉の影に隠れた。

 

「大丈夫だよ文、白石さんは私の知り合いだから」

「あ、そうなんだ。なら大丈夫かな?」

「そうだけど私、風紀委員だからね? まあ鶴音さんだから今回くらいは見逃してあげるけど」

「ありがとうございます」「ありがとうございまーす!」

「でも、2人がどういう関係なのかくらいは教えて欲しいかなー?」

「妹です」「お姉ちゃんです!」

 

あまりに対照的にな2人の様子を見て思わず笑いがこみ上げてくる杏。

いつも凛とした言葉も妹が隣にいるだけで、もはやギャグや漫才のソレであった。

 

「あはは! あーはいはい、2人は姉妹なんだ。でも妹がいるなんて言ってたっけ?」

「別に話すことでもないからね。見ての通りまだ中学生だから」

「なるほどねー。それで、妹さんはなんていう名前なの?」

「鶴音文です、よろしくお願いします! ってわたし宮女入学希望だった……」

「そこは気にしなくていいよ。そっか、文ちゃんは宮女志望なんだね」

 

「(ってことはこはねの後輩になるのかー。

  面白そうな子だし、機会があったらちょっと紹介してあげよっかな)」

「あ、そうだ白石さん。よかったこれ、貰ってください」

 

鶴音姉妹の知らぬところで小さな思惑を巡らせていたところで、

言葉が1つの包みを差し出した。

 

「チョコブラウニー? これどうしたの?」

「暁山さんに渡す予定だったんですけど、今日は来てないみたいだったので。

 このまま持って帰るのもなんなので、良ければ」

「……鶴音さんって素直だよね。分かった、瑞希の分も味わって食べるよ。ありがとう」

 

こうしていくつかの波乱があったものの、

無事に全てのチョコを配り終えた鶴音姉妹は神山高校を後にするのだった。

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